あまりよく知られていないインジケーターに「ATR」があります。「ATR」は簡単にいうと価格の変動率・ボラティリティを計るインジケーターです。FXチャート分析で、どのインジケーターが最適なのか使ってみないことには判断できませんよね。
それぞれの投資スタイルや手法に応じて相性のいいインジケーターも変わってきます。使ったことがないインジケーターを積極的に試してみるのがおすすめ。
「FXプロのFXチャート分析実践講座」では基礎的なインジケーターから上級者向けのインジケーターまで幅広い種類をシリーズでご紹介しています。
FXテクニカル ATR
「ATR」は相場の価格変動率・ボラティリティを教えてくれるインジケーターで、「ATR]を目安にエントリー・エグジットのタイミングを計ることができます。
ATRとは
ATRとは、
- 価格変動率が大きい → トレンドの勢いが強い
- 価格変動率が小さい → トレンドの勢いが弱い
- 価格変動率がかなり大きい → 上昇・下降のピーク
- 価格変動率がかなり小さい → レンジ相場・揉み合いの状態
などと、価格変動率の大きさ・小ささから、市場のボラティリティ・過熱感を計ることができます。
相場の基本的な動き
相場は基本的に上昇と下降を繰り返して動いていきます。
一旦価格が動き始めると、勢いをつけて加速します。この時に価格変動率は最大まで拡大してピークに達します。ピークに達した後は一旦価格が収束して今度は反対方向に動く傾向にあります。
ATRの開発者
ATRを開発したのは、ピボット、パラボリック、RSIなどテクニカルで超有名なJ.W.Wilder(J.ウェルズ.ワイルダー)です。1978年に「New Concepts in Technical Trading Systems」という本を出版し、独自の6つのインジケーターを使った新しい分析手法を発表しています。
その後、J.W.ワイルダーは分析アナリスト・トレーダーとして近年までセミナーや出版物などで積極的に活躍していましたが、2021年4月に85歳で逝去しました。
J.W.ワイルダーのインジケーター
- パラボリック・タイム
- ボラティリティ・システム
- ADX
- DMI
- RSI
- ピボット
など、一般的によく知られているインジケーターを多数開発しています。
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ATRの基礎知識
ATRは、相場の価格変動率・ボラティリティを基盤にしたインジケーターです。どのように計算されているのでしょうか。どのような仕組みになっているのでしょうか。
ATRの計算方法
ATRは以下の手順で算出されています。
- まず1日(1時間・1週間など)のTrue Range/値動きを算出
- 次にTrue Range/値動きの平均値を算出
1.True Rangeの計算方法
True Rangeとは、TRとも呼ばれているワイルダー独自の価格変動の測定方法で、3つのパターンから分別されています。
TR
- 当日高値 - 前日終値(当日の高値が前日の終値よりも高い)
- 当日安値 - 前日終値(当日の安値が前日の終値よりも高い)
- 当日高値 - 当日安値(当日の高値が当日の安値よりも高い)
上記3つのパターンで一番大きな数値が1日のTrue Rangeとして計上されます。
2.True Rangeの平均値
TRの数値が出たら、次にTRの一定期間における平均値が計算されます。
平均値の計算にはEMA(指数移動平均線)が使われていますが、こちらは設定で単純移動平均線(SMA)も選択可能です。
期間の設定
デフォルトでは期間の設定は14になっています。
- 1分足 → 14分
- 30分足 → 420分
- 1時間 → 14時間
- 1日 → 14日
- 1週間 → 14週
- 1か月 → 14か月
での計算となります。
ATRの基本的な仕組み
ここでそもそもボラティリティとは何なのか疑問に思う方もいるでしょう。
そもそもボラティリティとは
よく経済ニュースなどで、「ボラティリティが高い」「ボラティリティが低い」などと使われいますよね。これは、「価格変動が激しい」「価格変動が小さい」ことを意味しているのです。
- ATRが低い → 値動きが小さい
- ATRが高い → 値動きが大きい
といった関係が成り立ちます。
また、ボラティリティは、相場のリスクの高さを表現するためにも使われています。
価格変動が激しいということは、
- 短時間でも大きく稼げる
- 短時間でも大きな損失になる
ハイリスク・ハイリターンの商品・相場動向であることを表しています。
ATRの活用方法
ATRから価格変動・ボラティリティの高さを見ることで、
- トレンドの勢いがわかる
- 上昇・下降のピークがわかる
- トレンドが落ち着くタイミングがわかる
とともに、
- どれくらい大きな値動きが期待できるのか
- どれくらい大きな損失が期待できるのか
といった目安をつけることができます。
利確・損切り設定の目安になる
ATRを利確・損切り設定の目安に使う投資家もいるようです。
ボラティリティが高い時は数分・数十分でも±100pips以上動くこともあり得ます。ボラティリティが高い時は、利確・損切り設定も通常よりも高めの設定にしたり、ボラティリティが低い時は、比較的に低めの利確・損切り設定を行ったりと調整できます。
上級者はトレード機会を探し、初心者は危険なタイミングが避けれる
上級者はATRを絶好のトレード機会を探すために活用できます。とくにスキャルピングやデイトレードなど短時間で効率よく稼ぎたい時にATRは最適なインジケーターです。
反面、初心者はリスク回避の方法としてATRを活用することができます。ボラティリティが高い時にはあえてトレードを控えるなどして、リスクコントロールが可能です。
ATRの見方
ATRの数値
ATRはオシレーター系のインジケーターで、メインチャートの下にサブチャートで挿入されます。上部と下部に2か所数値が表示されています。
- 上部 → 一定期間内のATR最大値
- 下部 → 一定期間内のATR最小値
時間足が長くなるほどATRの数値も大きくなり、時間足が短くなるほどATRの数値も小さくなります。
ATRの動きから相場を読む
まずはベーシックなATRを見ていきましょう。上図のATRはラインが下部から上部に向かってラインを描いています。そしてラインは最上部にてピークを迎えて下降し始めています。
これは「上昇トレンドが開始 → 上昇トレンドが勢いをつけて継続 → 上昇トレンドがピークに達する → 上昇トレンドの終わり」という、1つのトレンドの流れを表しています。
下降トレンドの場合でも同じです。上昇トレンドの終わりに一旦価格が収束してATRが下がります。価格変動率が弱まって、新しいトレンドが発生するとATRが下から上に動きだします。
「下降トレンドが開始 → 下降トレンドが勢いをつけて継続 → 下降トレンドがピークに達する → 下降トレンドの終わり」というように、1つのトレンドが終わるタイミングを見ることができます。
トレンドの発生と終わりを見る
ATRが最下部から上がり始める
ATRが最下部から上がり始めるということは、トレンドがこれから発生するサインです。ATRが動きだした時のローソク足を確認します。
- ローソク足上昇 → 上昇トレンドが発生
- ローソク足下降 → 下降トレンドが発生
ATRが最上部に向かう
ATRが下から上に向かって最上部にくるということは、
- 上昇トレンド → 勢いをつけて上昇トレンドが継続
- 下降トレンド → 勢いをつけて下降トレンドが継続
と見ることができます。
ATRが最上部から下がり始める
ATRが最上部から下がり始めるということは、
- 上昇トレンド → 「買われすぎ/下降トレンドに切り替わるサイン」
- 下降トレンド → 「売られすぎ/上昇トレンドに切り替わるサイン」
と判断の目安になります。
ATRの使い方
- ATRが上がり始める → トレンドの発生 → エントリー
- ATRが最上部に向かう → トレンドの継続 → 様子見
- ATRが最上部から下がり始める → トレンドの転換 → エグジット
ATRの動きに合わせてエントリー・エグジット
上図のチャートでは、最初に緩やかな上昇が続いていてATRのラインも下部で横に動いています。この部分では、まだ価格があまり動いておらずトレンドが明確に発生していない状態です。
一旦価格が下がった後で、ATRが上に動き出しました。トレンドが始まるサインですね。ローソク足を見ると陽線が出てきて上昇を示唆しています。ここで「買い」エントリーです。
ATRはしばらく順調に上に向かっています。上昇トレンドが勢いをつけて継続していると判断し、ATRが最上部に達するのを待ちます。ATRは最上部に達して、下に下がり始めています。上昇トレンドの勢いが弱まっているサインですね。ここで「売り」エグジットにて利確です。
ATRを資金管理に使う
ATRは直近の値動きを読むインジケーターとなりますので、損切り幅や利確幅の目安にすることができます。
ATRの数値から損切り・利確設定
一般的によく使われている損切り・利確設定は、
- 損切り → ATRの1倍~2倍
- 利確 → ATRの2倍~3倍
ATRの数値をpipsに変換する方法は、
- 円がらみの通貨ペア → ATR × 100
- 円以外の通貨ペア → ATR × 10,000
で計算できます。
例えば、USDJPYのATR数値が0.045だったとすれば、0.045 × 100 で4.5pipsです。
- 4.5 × 2倍 → 9.0pipsで損切り設定
- 4.5 × 3倍 → 13.5pipsで利確設定
などで設定することができます。
JFXのボラティリティ表はこちら
勝つためのATRトレード手法
FXトレードで勝つためには、1つのインジケーターのみに依存してはいけません。
とくにATRの場合は、一旦トレンドが発生しないと方向性が掴みづらいというデメリットがあります。ATRを使う時には、トレンド系インジケーターで、トレンドの方向性が確認できるものを組み合わせるのがおすすめです。
ボリンジャーバンドと組み合わせた手法
- ATRは最下部から上に動き出しました。しかし、ボリンジャーバンドを見ると上値バンドから価格が下がっています。ちょっと様子を見てみましょう。
- ATRは再び最下部から上に動き出しました。ボリンジャーバンドでも中央線から反発しています。ここで「買い」エントリーを決めます。
- ATR、ボリンジャーバンドともに強い上昇トレンドのサインを見せていましたが、価格が一旦下がっています。悩む局面ですね。ATRはまだ上に向かいそうな気配ですので待つことにします。
- ボリンジャーバンドの上値バンドに戻った相場は、ピークを迎えたようです。ATRは最上部に達して下がり始めています。ここで「売り」エグジットにてたっぷりの利確です。
まとめ
相場は基本的に上昇トレンドと下降トレンドを繰り返しています。1つのトレンドが終わると、反転して新しいトレンドが発生する傾向にあります。ATRは価格変動率・ボラティリティを計るインジケーターで、相場のトレンドのサイクル・転換ポイントを探るのに適したインジケーターです。
- ATRが最下部から上に動き始める → トレンドが発生
- ATRが最上部に向かう → トレンドが継続
- ATRが最上部から下がり始める → トレンドが終了・転換
というように、ATRの動きからエントリー・エグジットの最適なタイミングを見ることができます。