まだ使ったことがないインジケーターの中には、優れものが潜んでいることも多々あります。FXテクニカルで使うインジケータは、各自の投資スタイルや手法との相性もあり、それぞれにとって最適なインジケーターは変わってきます。意外に試してみると、これは使える!と思えるインジケーターもあるかもしれません。
「FXプロのFXチャート分析実践講座」では基礎的なインジケーターから上級者向けのインジケーターまで幅広い種類をシリーズでご紹介しています。
今回のFXプロでご紹介したいインジケーターは「線形回帰トレンド」です。
「線形回帰トレンド」はフィボナッチリトレースメントやピボットのように、チャートにトレンドラインを挿入してくれるインジケーターです。
FXテクニカル 線形回帰トレンド
「線形回帰トレンド」はメインチャートに直接挿入されるトレンド系インジケーターです。チャートに複数のトレンドラインを自動的に挿入してくれます。
まずは、簡単に「線形回帰トレンド」の概要を見ていきましょう。
線形回帰トレンドとは
線形回帰トレンドとは、
線形回帰トレンドのトレンドラインは、通常のトレンドラインとは異なり高値・安値に線を引かずに、値幅の基準となる中央線を中心に上下に2本ずつラインを引くのが大きな特徴です。上下に1本ずつラインを引く3本タイプの線形回帰トレンドもあります。
高値・安値を基準にしたわけではないのに、不思議と線形回帰トレンドのラインに沿って価格が上下していくのが、このインジケーターの凄いところです。従って、使い方は一般的なトレンドライン・チャネルラインの使い方と同じです。
線形回帰トレンドの由来
インジケーター線形回帰トレンドは、統計学の回帰分析「線形回帰」に基づいたもので以前から市場分析やデータ分析に使われてきた分析方法になります。
統計学の「線形回帰」は、19世紀にフランシス・ゴルドンによって発見され、liner regretionと呼ばれている法則です。フランシス・ゴルドンは、長身の祖先の子孫は必ずしも長身となるわけではなく、時間の経過とともに平均化されていく傾向にある、という理論を導き出しました。
当初は生物学的な分析方法として用いられていましたが、その他多くの事象にて「線形回帰」の動きが確認されたため、市場分析など統計学でも一般的に使われるようになりました。
線形回帰トレンドの基礎知識
線形回帰トレンドは統計学の線形回帰を基盤にしたインジケーターです。
回帰分析の線形回帰とは
統計学の線形回帰とは、
線形回帰の例
例えば、上図のように異なるデータが点在しているとします。このデータの平均を直線で結びます。
平均値に引いた中央線から、その他のデータが遠く離れることはないとの考え方で、中央線の上にある数値は下に戻ろうとし、中央線の下にある数値は上に戻ろうとする傾向にあるとしています。平均値を求めるにあたっては1次関数を使った厳密な計算式が使われています。
線形回帰とは、つまり数多くのインジケーターの基盤となっている「平均化への回帰」を実証した法則となります。線形回帰は統計学だけでなく、生物学、社会科学、環境科学、行動科学など様々な分野で採用されている分析方法なのです。
近年では、AIによるデータ分析などでもこの線形回帰が使われています。線形回帰は非常にベーシックな分析方法であるともに、実証性・信頼性に優れた分析方法でもあるのです。
線形回帰トレンドの計算方法
インジケーター線形回帰トレンドは、まず中心となる線形回帰の中央線と、標準偏差を求めたラインが上下に2本ずつ加えられ、計5本のラインが計算されています。
中央線となる線形回帰線の計算式
a = n日終値平均値 - b×n日平均日数
b =(i - n日平均日数)×(i日終値 - n日終値平均値)÷ (i - n日平均日数)²
上下4本のライン
中央線の数値が出たら、次に上下2本のラインを計算します。
- 上値バンド1: 中央線に計算期間の標準偏差を加算したもの
- 上値バンド2: 中央線に計算期間の標準偏差を2倍にしたもの
- 下値バンド1: 中央線に計算期間の標準偏差を減算したもの
- 下値バンド2: 中央線に計算期間の標準偏差を2倍したもの
期間の設定
期間の設定では、デフォルトでは25日になっていることが多いです。それぞれの投資スタイルに合わせて期間は任意の設定となります。各自でチャートにマッチする期間、使いやすい期間に調整してみましょう。
線形回帰トレンドの基本的な仕組み
線形回帰トレンドの基本的な仕組みは、
相場は基本的に線形回帰の中央線を軸に上下に動き、1つのトレンドは5本のライン内で推移して仕組みになっています。線形回帰の理論どおりに、相場は中央線から離れたとしても、中央線に戻ってくる傾向にあるのです。
価格が5本のラインから大きく外れることは滅多にありません。5本のラインのうち、一番外側のラインをブレイクした時には新しいトレンドが発生するサインとなります。上に抜けた場合は上昇トレンド、下に抜けた場合は下降トレンドが形成されていきいます。
新しいトレンドが発生すると、新たな線形回帰トレンドが表示されます。
線形回帰トレンドの見方
5本のライン
5本のラインは上から順番に、
- 上値バンド2
- 上値バンド1
- 中央線
- 下値バンド1
- 下値バンド2
となります。
5本のラインの方向性からトレンドを読む
基本的に5本のラインが上を向いていれば上昇トレンド、下を向いていれば下降トレンドにあると判断できます。
上昇トレンドの時は上向きの5本のライン内で価格が動き、下降トレンドの時は下向きの5本のライン内で価格が動いていきます。向きが急角度になるほど、トレンドの勢いが強いことを意味しています。
5本のラインの間隔から値動きを読む
5本のラインの間隔からも、概ねの価格変動の大きさを読むことができます。
間隔が狭い時は、全体的な値動きも小さくなります。間隔が広くなると価格変動の幅も大きくなっていきます。
レジスタンス・サポートを読む
- レジスタンス/中央線 サポート/下値バンド1
- レジスタンス/上値バンド1 サポート/中央線
- レジスタンス/上値バンド1 サポート/下値バンド1
- レジスタンス/中央線 サポート/下値バンド1
- レジスタンス/上値バンド1 サポート/下値バンド1
というように、5本のラインがそれぞれレジスタンス・サポートの役割をしていて、価格が各ラインを上に抜けるか下に抜けるかどうかで値動きを予想していくことができます。
- レジスタンスで下に反転 → 売りシグナル
- レジスタンスを上にブレイク → 買いシグナル
- サポートで上に反転 → 買いシグナル
- サポートを下にブレイク → 売りシグナル
例えば、①の場合サポートラインとなる下値バンド1を完全に価格が下に抜けたならば、下値バンド2のラインまで価格が下がる可能性があります。
同様に、高値が1つのラインを完全に上に抜けると、一段上のラインが次のレジスタンスのポイントとなります。①の値動きを見ると、後半で中央線を完全に上に抜けて中央線はサポートへと変わりました。②では1つ上のレベルで価格が推移していきます。
③では価格が上値バンド1を上に抜けようとしていますが、上値バンド2までは上昇しきれていません。ということは、③のレジスタンスは上値バンド1ということになります。もしここで上値バンド2まで価格が伸びた場合は、次のレジスタンスは上値バンド2となります。
トレンドの切り替わりを読む
下降トレンドにある相場が、線形回帰トレンドの上値バンド2を上に抜けると、上昇トレンドへと切り替わる可能性が高くなります。新しいトレンドが発生して、線形回帰トレンドのラインも更新され、想定される値幅も変わってきます。上値バンド2を上に抜けたら「上昇トレンド/買いシグナル」と見ることができます。
上昇トレンドにある相場が、線形回帰トレンドの下値バンド2を下に抜けると、下降トレンドへと切り替わる可能性が高くなります。新しく発生した下降トレンドに合わせて線形回帰トレンドのラインも更新されます。相場が動く価格帯も変わってきます。下値バンド2を下に抜けたら「下降トレンド/売りシグナル」と見ることができます。
トレンドの方向性・勢いを読む
中央ラインよりも上の位置で価格が推移する時は、上昇トレンドが継続するケースが多いです。買いの勢いが強いことを意味していて、上にブレイクしてさらに大きく価格が上昇する可能性があります。
中央ラインを下から上に抜けた時は「買いシグナル」です。
一方では、中央ラインより下の位置で価格が推移する時は、下降トレンドが継続するケースが多くなります。売りの勢いが強いことを意味していて、これから価格が大きく下がる可能性があります。
中央ラインを上から下に抜けたら「売りシグナル」です。
線形回帰トレンドの使い方
5本のラインを目安にエントリー・エグジット
- 線形回帰トレンドの上値バンド2で価格は下がり始めました。上値バンド1・中央線に向けて下がる可能性が高いので、ここで「売り」エントリーします。
- 中央線をさらに下に抜けたので下値バンド1を抜けるか確認します。下値バンド1を抜けたら、下値バンド2でどうなるかを確認します。下値バンド2で反転したタイミングで「買い」エグジットで利確です。あるいはここで「買い」エントリーします。
- 下値バンド2で反発した相場の次のレジスタンスは下値バンド1です。下値バンド1を抜けたら、次に中央線を越えるかを確認します。中央線を越えたら次のレジスタンスは上値バンド1です。ここで下がり始めた時点で「売り」エグジットで利確できます。
- 相場は中央線の下から上に抜けました。上昇に向かう可能性が高いので「買い」エントリーします。
- 上値バンド1を抜けて上値バンド2に向かいました。ここがブレイクするかどうかのレジスタンスとなります。価格は上を抜けずに下がり始めたのでここで「売り」エグジットで利確です。またはここから再度「売り」エントリーします。
- 価格は一気に下値バンド2まで下がります。反発した時点で「買い」エグジットして満足の利確です。もしここで「買い」エントリーならば直近のターゲットは下値ライン1、次いで中央線です。
- 中央線を抜けきらずに下がり始めました。ここで「売り」エグジットでなんとか利確できました。
以上のように、各ラインをレジスタンス・サポートの目安にして上に抜けるか下に抜けるかどうかで、売買を決めていくことができます。比較的にこまかい値動きでトレードするのに適した方法です。
1つのトレンドで大きくトレードしていきたい場合は、線形回帰線の上値バンド2・下値バンド2をブレイクした時に、エントリー・エグジットを決めていく方法もあります。
勝つための線形回帰トレンドトレード手法
どんなインジケーターも100%正確に相場を読むことはできないのです。複数のインジケーターから同時にサインが得られれば、より確実なエントリー・エグジットが実現します。
そこで、最後に勝つための線形回帰トレード手法として、誰でもおそらく使ったことがあるボリンジャーバンドを組み合わせた手法をご紹介したいと思います。
ボリンジャーバンドと組み合わせてエントリー・エグジット
- 下降していた相場は、ボリンジャーバンドの下値バンドで反発、回帰線トレンドを下にブレイクしないなと判断できます。回帰線トレンドの下値バンド2を上に抜けた時点で「買い」エントリーです。
- 相場は、さらに回帰線トレンドの下値バンド1を上に抜け、ちょうどボリンジャーバンドの中央線も抜けています。これはボリンジャーバンドの上値バンドあたりまで上昇する可能性があるなと読みます。
- 一旦下がり始めた相場は回帰線トレンドの中央線を下に抜けましたが、まだボリンジャーバンドの中央線からは上に位置しています。ここで反発する可能性が高いと待ちます。
- 上昇に向かった相場は、再びボリンジャーバンドの上値バンドには届かず。中央線でどうなるかを確認します。
- 価格は下がり始めますが、回帰線トレンド・ボリンジャーバンドと双方の中央線の上で推移しています。もう一度上昇に向かう可能性が高いと判断します。
- 相場はボリンジャーバンドの上値バンドを若干抜けました。回線トレンドの上値バンド2にも触れました。ここでブレイクすればさらに上に向かうと判断できますが、価格は下がり始めます。そろそろかな、とここで「売り」エグジットして利確ですね。
まとめ
線形回帰トレンドは、統計学の回帰分析を使ったインジケーターで、多くのインジケーターの基盤となっている分析手法です。信頼性が高く、様々な分野でのデータ分析・AI分析にも使われている方法です。
線形回帰トレンドの基本的な見方は、
- 中央線をはさんで上2本・下2本の5本のライン内で価格が推移
- 各ラインがレジスタンス・サポートのポイントとなる
- 各ラインを抜けるか反転するかで上昇・下降のタイミングがわかる
- 一番外側の上値バンド2・下値バンド2を価格が抜けるとトレンドが切り替わる
となります。
線形回帰トレンドとボリンジャーバンド使うことで、判断が微妙な時でもより確実な相場分析が可能となります。ぜひ、試してみて下さい。