2020年1月にようやく長い期間と紛争を経て、Brexit離脱案がイギリス国会を通過しました。2020年の英ポンド為替相場の最大のテーマはBrexitです。今後のBrexitの展開がどうなるのかによって、英ポンドの価値は大きく左右されていきます。
英ポンド相場はその他の主要通貨と同様に米経済の明るい展望が基盤とはなりますが、米ドルに劣らぬ魅力や強さを備えている点で独特の相場展開が予想されます。
Brexitはどうなる?英ポンドはBrexitによって価値が上がる?下がる?
今回は、2020年の英ポンド為替相場見通しとBrexitなどの注目トピックを解説していきます。最後にFX攻略ポイントもまとめていきますので、今後の取引の参考にして頂ければ幸いです。
【2020年】英ポンドの価値はどうなる?
2020年の英ポンド相場の予想をしていくために、まずは2019年に英ポンドの価値がどのように変動しているかを確認していきます。
通貨の価値は、対円、対ドルなど対象となる通貨が異なることで変わっていきます。そこで、英ポンド単体での価値がどのように変化しているのかを見るのに通貨インデックスを目安にすることができます。
通貨インデックスとは、
1つの通貨を特定に通過だけでなく、複数の主要通貨間でどのように価格が変動しているのかを比較することで通貨単体の価値を導きだしたものです。単純にその通貨の強さや価値の減少を見ることができます。
2019年の英ポンドインデックス
外国為替取引市場で取引されている英ポンドインデックスは、2018年4月に1.43ドルの高値を付けて以来、価値は減少し続けています。これは、Brexitにてイギリス国会が保守党と労働党で激しく対立しいたため、政治不安によるものが大きいといえます。
一時的に1.33ドルまで回復していく局面もありますが、2019年7月に向けて英ポンドの価値は大きく低下しています。
2019年10月に入ってからは、米中貿易交渉の合意への期待と、イギリス保守党の勝利などから英ポンドは一気に上昇し始めています。イギリス政府の安定やEU諸国との円滑な交渉が期待され、2019年年末にかけて英ポンドは買われ続けます。
その他主要通貨インデックスとの比較
ここで、英ポンドの上昇率がいかに強かったのかを見ていくため、その他主要通貨インデックスの動きと比較してみましょう。
主要通貨インデックスの比較
上記のインデックスは2019年1月の価格を100として、2020年1月までの価格の動きを表したものです。米ドルは貿易交渉の展開に左右され、リスクオフの動きが強かったことから、レンジ幅は非常に狭く約1年間でその価値はあまり変動していません。スイスフランは米ドルの動きに相反して動いているのがわかります。
Brexitによるマイナス効果が懸念されたことに加え、中国市場の低迷からドイツが打撃を受けたユーロは約1年間価値が下がり続けています。価値の変動が最も大きいのが英ポンドでBrexitによる期待と不安が大きく上下しているようです。8月半ばから12月にかけて強烈な勢いで上昇しています。日本円は英ポンドとまさに反対の動きをしており英ポンドの上昇と同時に価値が大きく下がっています。
対円対ドルでの英ポンド相場の動き
2019年、対円のポンド相場は3月の148.16円の高値を付けてから下落トレンドへ転換し、8月には126円の底値をつけます。その後12月13日の145.69円に向けて一気に上昇し始めます。2020年1月は米国にて話題が尽きないためか141円~142円のレンジにて横ばい状態にあります。
対ドルでのポンド相場は、2018年4月には1.437ドルの高値をつけた後、1.274ドルまで大きく下降。2019年3月には一旦1.328ドルまで持ち直しますが、その後も下降を続け9月には1.227ドルの底値をつけます。その後上昇トレンドへと切り替わり、12月に1.337ドルまで回復しています。2020年1月は1.299~1.311ドルのレンジにてやや弱めに推移しています。
【2020年】英ポンド相場の注目トピック
英ポンドのファンダメンタル分析
最初にイギリスの現在の経済状況を簡単に見たうえで、チェックすべき重要ポイントをファンダメンタル分析にて解説していきます。
イギリスの経済状況の概要
イギリスはGDPで世界で5位にランキングする主要経済大国の1つです。2018年度のGDP総額は約2兆円8300億ドル、EU圏ではドイツに次いで2位に位置する規模にあります。2018年度後半はBrexitの延期によってイギリスへの不透明性が高まり、一旦GDPは落ち込みますが、2019年度に入ってから回復の兆しを見せています。
イギリスGDP成長率の推移
産業革命の発祥地であるイギリスは、主に製造業を中心に栄えてきました。1980年代に製造業が落ち込み、1990年代から金融・観光などのサービス業へと移行していきます。2000年代の初期までは3.0~3.5%と高い比率で成長し、リーマンショック後の回復も比較的早く2014年度には2.6%の成長率を記録しています。
2016年以降はBrexitの動揺が時おり見られ、近年の成長率はやや低下しているものの1.0~2.0%の比率にて堅調に推移しています。
イギリスの経済構造
イギリスはGDPの約80%をサービス産業から確保しています。先進国の中では、製造業への依存から最初に脱却した国でもあります。1970年の製造業比率は34%、2007年i以降は20%以下に低下。製造業比率の減少にともない、金融、不動産、企業向けサービス、個人消費者向けサービスなどのサービス業が倍増しています。
[産業別名目GDP構成/2017年]製造業比率は2017年度にはわずか14.0%に減少。2018年以降は、航空機・自動車、機械の輸出による収益がやや拡大。現在は不動産・金融、その他サービスに付随する金融セクターがイギリス経済を支えています。
確認しておきたい経済指標
英ポンドの取引にあたって確認しておきたい経済指標は、
- 名目GDP、実質GDP成長率
- 貿易収支、経常収支、所得収支
- 失業率、失業保険申請件数
- 小売り売上高、消費者物価指数
- 海外直接投資収益高
- ロンドン市場動向(株式・債券・FXなど)
- BOE政策金利
イギリスの経営収支
イギリスは製造業比率が少ないため、基本的に貿易収支は赤字が続いています。2018年度の輸出総額は4,860憶ドル、輸入総額は6,730憶ドルでした。貿易赤字額にサービス収支を加算しても補えないのがイギリスの通常の状態で、経常収支の赤字額は、イギリスの経済成長とともにやや拡大傾向にあります。
[イギリスの海外直接投資の収益額の推移]そこで、その収支赤字をカバーしているのが企業や個人の所得収益と、海外投資、債券投資などの金融セクターによる投資収益です。所得収益、対外投資による収益が経営収支の赤字を上回ることでイギリスのGDPを押し上げています。
対外投資には、主に海外の企業やインフラ設備、エネルギー事業への直接投資と、債券や証券などのポートフォリオ投資の2種類に分けられます。銀行が取引する国際債券の取引残高は世界で1位、2018年度は49憶2300万ドルを記録しています。(ちなみに日本も債務が多い中、対外投資にて国際債券を多く有する国で2位にランクインしています)
イギリスの財政は、海外投資にて安いコストでの資金調達している点が収支バランスをとるポイントとなります。この構図が崩れてしまうとイギリスは経営収支の赤字額を補うことができずマイナス成長を計上してしまいます。
EU離脱を踏まえて、今後はイギリスが海外でどのような投資を行っていくのかチェックすることも大切な判断材料になるでしょう。
イギリスのBrexit
2020年の英ポンド相場において、最大の焦点となるのがBrexitの展開です。
2016年の国民投票によってイギリスはEU離脱を決意しましたが、離脱交渉においてイギリス国会では保守党と労働党が激しく対立し3月、10月と2回に渡り延期されました。
Brexitの見通しに不確実性が高まり、対立するイギリス政権への不安や、合意なき離脱が懸念され英ポンド相場は2018年から2019年にかけて下落基調が続きました。Brexit2回目の延長が決定した後メイ首相は辞任。
ボリスジョンソンの就任でBrexitが明確化
メイ首相の後任は元ロンドン市長でBrexitの先導者でもあった保守党ボリス・ジョンソン。就任時に、「これ以上Brexitの延長はしない」「離脱案が可決しないのであれば、合意なき離脱にて断固としてBrexitを進める」方針を表明しています。
イギリスのBrexitに対しては賛否両論さまざまな意見があります。
イギリスはもともとヨーロッパ大陸とは隔離された島国にて、独自の政治・宗教・文化・経済を歩んできています。かつては米国と肩を並べるほどの経済力を有していた時代もあります。
イギリス領土であった国も多く、現在でもイギリス連邦の同盟国は多数あります。イギリスは自らで主導権を握った方が効果的な経済成長が狙えるかもしれないのです。
イギリスがEUに支払う拠出金
上記のグラフはイギリスがEUに支払う拠出金と、EUから還元される収益の推移です。
- 青い棒グラフ → イギリスがEUに支払う拠出金
- 赤い棒グラフ → EU加盟によって得た収益
- 黒い折れ線グラフ → 拠出金から収益を引いた金額(赤字額)
以上のように、経営収支を高めることを期待してEUに加盟したものの、実際には大幅な赤字が続いています。EUの拠出金は各国のGDP比率に応じて金額が決定されます。2018年の拠出金は13兆ユーロ、EUから得た収益は4兆ユーロ。4兆ユーロを得るために9兆ユーロを支払ったことになります。
今後の展開はどうなる?
2020年1月9日、ボリス・ジョンソンのEU離脱案がようやく国会で可決されました。現時点では予定通りに1月31日にてイギリスはEUを離脱する方針です。離脱が実現した場合は11カ月間の移行期間が設けられます。
ただ、EU側との条件交渉がどうなるのか見えない部分もあり、北アイルランドをめぐる国境と関税の設定、スコットランドの独立表明など解決する問題がいくつかあります。
一方でイギリスは合意なき離脱に向けての準備も着々と行っています。北米、アジア、オセアニア、イギリス連邦加盟国との貿易や安全保障、洋上エネルギー開発などを進める動きも見られています。
イングランド銀行の金融政策
英ポンド為替相場の取引にあたって、もう1つ重要なポイントになるのが中央銀行の金融政策です。イギリスの中央銀行はイングランド銀行(BOE/The Bank of England) です。
英ポンド相場はこのイングランド銀行が行う金融政策によっても大きな影響を受けています。
イギリスの政策金利
主要国での政策金利は、ユーロ圏が最も低く、次いで日本、イギリスと続きます。
イギリスは2017年11月に約10年ぶりの利上げを行いました。というのもBrexitリスクから英ポンド下げが対ドルで継続しており、消費者物価指数が3.1%まで上昇したためでした。市場予測に反した利上げ率だったため、一旦英ポンドは下落し、その後Brexit交渉の改善によって価格を持ち直していきます。
2019年5月には利上げが据え置かれるたことが、むしろイギリスの成長率向上のサインとなり、英ポンドは対ドルで反発しました。
【2020年】英ポンド相場の見通し
2020年の英ポンドは上昇する?
英ポンド相場が上昇するシナリオを対円と対ドルで検証していきます。
対円
主要通貨の中で、英ポンドと明らかに相反する動きを見せるのが日本円です。通貨インデックスでも見てきたように、円と英ポンドは互いに相反して大きな値幅で動いています。売買タイミングさえ間違えなければ大きな利益が狙える最強の通貨ペアです。
円が買われる要因は、世界経済への不安です。投資リスクが高まると、安全資産である円買いが進みます。世界経済の不安要素となる最大のトピックはやはり米国経済です。英ポンドの上昇にあたっては、米経済が堅調であることが条件となります。
堅調な米経済への見通しに加えて、
- Brexitが予定通りに進行すること
- EUとイギリスの良好な関係が保てる離脱であること
- 北アイルランド、スコットランド問題が解決に向かうこと
- 円が対ドルで円安に向かっていること
などの見通しが高まれば英ポンドは高く上昇することが予想されます。
対ドル
対ドルで英ポンドが上昇するシナリオは、対円同様にまずは世界経済=米経済の展望が明るいことが条件です。世界経済への期待が高まればまず大量のドル買いが進みます。この時点で、イギリスBrexitの展開が良好であれば円、スイスフラン、ユーロなどから英ポンドに資金が流入します。
例えば、米中貿易交渉は合意に向かっているが不透明な部分がまだ残されている、あるいは、トランプ大統領は再選したが貿易交渉への懸念が残っているなど。2018年12月のドル相場のように、ドル上昇の好条件が提示されつつも不安要素が残っている場合、ドルの上昇率が制限されてしまいます。そこで、ドルの代替え通貨である英ポンドへと資金が向かいます。
2020年の英ポンドは下落する?
では次に、2020年英ポンド相場が下落するシナリオを対円・対ドルで見ていきましょう。
対円
世界経済のリスクが高まると、安全資産である円買いが急速に進みます。世界経済の指標となる米経済においてネガティブ要因が増えてくると主要通貨であるポンドも売られる傾向にあります。
- 米中貿易交渉が難航・悪化した
- イランが新たな報復に挑んだ
- トランプ大統領が落選、米政権の不確実性
などの米国経済への不安を基盤に、Brexitの難航、イギリス国会の対立、UK諸国の衝突、EUとの関係悪化などイギリス経済のマイナス要因が重なることで円が買われ、ポンドは急落する可能性があります。
対ドル
米国経済への懸念が高まった状況にてイギリスのBrexitが難航した場合、対ドルでの下落率は対円ほど大きくはならないものの、双方の通貨の価値が下がってしまうため、かつての安値圏よりも低い位置で推移する危険性があります。
また、イギリスBrexitの難航はEU経済への不安材料ともなり得ます。ユーロもともに下落することで、世界経済は低迷することが予測されます。
【2020年】英ポンドのFX攻略ポイント
それでは最後に2020年の英ポンドFX攻略ポイントをまとめておきます。
英ポンド取引のキーワードは、
- Brexitの展開とスケジュール
- Brexitの次のステップ・課題は何か
- イギリスGDP成長率
- 貿易収支赤字額の縮小
- 金融・サービス収支の拡大
- 海外直接投資の動向・収益額
- イギリスと他国との提携・連帯
- BOEの金融政策
- 米国経済の展望(世界経済の展望)
などを挙げることができます。
まとめ
イギリスはイギリス連邦(The Commonwealth) と呼ばれる巨大な組織を大英帝国時代の流れから設立しています。その歴史は古く1946年にまでさかのぼります。もともとはイギリスの植民地であった国が結束して組成されたもので、貿易や政治・経済、教育などにおいて互いに協力し合うことを目的としたものです。
現在は、イギリス領土である無しに関わらず、多くの国が同盟国として加盟しています。イギリス連邦に加盟する国は、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、ジャマイカ、マレーシア、シンガポール、南アフリカなど世界で53国もあります。
今後のBrexitの展開もさることながら、イギリスの国外での動きには目が離せないといえるでしょう。