2021年の英ポンドはどうなる?2020年の12月に4年の年月をかけてようやくEUとの合意に達したBrexit。一時はNo-Deal Brexitが危ぶまれた時期もあり、心配した英ポンドトレーダーも多かったのではないでしょうか。
英国はコロナウイルスの感染者数・死者数では世界でも上位にランクインしており、経済への打撃も他国に比べ目立つのが現状。しかしながら、コロナ変種に苦難する中、英国は世界で一番最初にワクチン認証・接種を開始した国でもあります。感染者数・死者数は徐々に低下しているようです。
Post Brexitの最初の1年を迎える英ポンドの行方が気になるところです。
【2021年】英ポンドの価値はどうなる?
2021年、いよいよ英国の新時代が幕を開けます。
英ポンドは上がる?それとも下がる?コロナウイルスは制御できる?
1つの通貨の単体での価値を見たい時に役に立つのが「通貨インデックス」です。
「通貨インデックス」とは、
2020年の英ポンドインデックス
2020年の英ポンドインデクスは、3月のコロナショック時に114ドルまで価格が落ち込みましたが、その後徐々に上昇基調にて持ち直しています。8月にはプレ・コロナショックあたりの価格131ドルあたりまで回復を見せ、2021年は135ドルを突破して年を明けました。2021年1月25日現在の英ポンドインデックスは136.83ドル。堅調な上昇トレンドで上に向かっているところです。
通貨インデックス比較
上記は、英ポンド、日本円、米ドル、スイスフラン、ユーロ、主要5通貨の通貨インデックスを比較したチャートです。2020年1月時点での価格を100として現在までの動きを表したものです。
コロナショック時に最も打撃が大きかったのが英ポンド。その後回復を見せてはいるものの、2020年1月時点のレベルにはまだ達していない状態です。Brexitへの懸念とおそらく感染者数・死者数の増加から伸び悩んでいる状態だと見れます。最も価格を落としているのが米ドルで、低金利とコロナ打撃が相まって価格が落ち込んでいます。
一方では、ユーロ、スイスフランは米ドルと英ポンドから資金が流れているようで、約1年間での通貨の価値は高く上昇しています。
対円での英ポンドの動き
対円では、コロナショック時に最大に広がった価格差は次第に縮小。円インデックスは2020年1月時点よりもやや高値圏で推移。英ポンドは対円では相反する動きを見せる傾向にあり、円売りからポンド高が期待できそうな気配を見せています。
対ドルでの英ポンドの動き
対ドルでも英ポンドは相反する動きを見せており、米ドルの下降と入れ替わりにポンドが上昇し始めています。相反する動きを見せつつも価格幅は次第に小さくなってきており、今後の対ドルでは一定のレンジ幅で推移しそうな動きを見せています。
【2021年】英ポンド相場の注目トピック
2021年英ポンド相場の注目トピックは、
- コロナウイルス
- 英国の経済対策
- BOEの金融政策
- 金融セクターの動き
- Post Brexit
以上5つのポイントに絞ってみました。
5つの注目トピックについて詳しく見ていきましょう。
1.コロナウイルス
まず通貨の種類を問わず、最大のトピックとなるのがコロナウイルスです。2021年のFXトレードはコロナウイルスぬきで語ることはできませんよね。
では、英国のコロナウイルスの状況はどうなっているでしょうか。
世界の感染者数・死者数 上位国
英国の感染者数・死者数は世界で上位にランクインしていることが、Brexitで不安定な状態にある英ポンドの最大のネガティブ要因となっています。英国はトップの米国に次いで、2位、3位に位置にあります。
累計数では英国は上位に入りませんが、人口10万人あたりの感染者数は世界で2位です。
英国の感染者数・死者数
英国の感染者数は、2020年1月25日時点では約365万人、死者数は約9万人と非常に高い数値を記録しています。感染者数は減少していますが、死者数はまだ上昇している点が気になりますね。
コロナウイルス変異種
感染者数・死者数が高いことに加えて英国でコロナウイルスの変異種が発見されたことがさらに脅威を与えています。
コロナウイルスの変異種とは、
2020年1月23日のジョンソン首相の会見によると、「感染力が強いことに加えて、死亡率が高い可能性がある」「現時点では、ワクチンは従来型にも変異型にも依然有効である」と報告しています。
2.英国の経済対策
では、世界で2位の感染者数を出している英国では、どのような経済対策・支援パッケージを用意しているのでしょうか。
コロナ経済対策 第一弾 120憶ポンド
第一弾は、支援パッケージの予算は120憶ポンドでした。
- 50憶ポンド → 国営医療サービス(NHS)、社会保障
- 4,000万ポンド → ウイルス関連の研究
- 1憶5,000万ポンド → 感染拡大国への支援拠出
- その他 → 病欠手当、感染手当、事業税の免税など
第一弾の支援パッケージが公表されたのが2020年3月11日、それから1週間後には想定よりも深刻な事態に陥ったため、新たな大型の追加経済対策が発表されました。
コロナ経済対策 第2弾 3,500憶ポンド
第2弾は、追加経済対策として3,500憶ポンドの超大型予算が組み込まれました。
- 3,300憶ポンド → 銀行融資に対する政府保証(大企業向け)
- 200憶ポンド → 減税・助成金支援(中小、個人事業者、小売り・観光事業者向け)
コロナ経済対策 第3弾 300億ポンド
失業者、低所得者、雇用者向けに、さらに第3弾の経済対策300憶ポンドが発表されました。
コロナ経済対策 2021年度1月 5憶9400万ポンド
小売り・娯楽関係向け事業者への助成金として、1事業者あたり最大9,000ポンド、総額5憶9,400万ポンドが制定されました。
英国の対コロナの経済対策は2020年度分は全体でGDP比で約24%がカバーできる規模となっています。就業者数の低下、失業者数の増加、コロナウイルスの打撃に手厚い経済対策が用意されています。今後の状況次第では、さらに追加の経済対策も検討されています。
ロックダウンの継続によって2021年1-3月期は英国経済への幻滅も予想されますが、同時に迅速なワクチン接種の対応や経済支援から徐々に回復が見られることが期待できるでしょう。
3.BOEの金融政策
次に注目しておきたいのが、BOE(イングランド銀行)の金融政策です。2021年のBOEの金融政策の注目ポイントは「マイナス金利の可能性」と「量的緩和」です。
政策金利
BOEは、コロナショック後に政策金利を0.75%から0.25%に引き下げた後、すぐに0.10%まで大幅な引き下げを行っています。以来、政策金利は0.10%を持続していますが、マイナス金利の可能性が市場では噂されています。
2020年9月 Bloombergにて「BOEは本格的なマイナス導入に向けて準備している」ことが報告されています。8月の金融政策会合にて「マイナス金利の妥当性を検討している」とのベイリー総裁の説明があったことから、ポンドドルは一気に1.2975ドルから1.2880ドルあたりまで急落しています。
量的緩和
BOEは、2020年11月にコロナ第2波の下支えをするために国債1,500ポンドの追加購入を実施しています。BOEの量的緩和は総額8,950憶ポンドの規模となり、当時、市場予想を大きく上回る量的緩和となりました。BOEの大規模な量的緩和の発表を受けて、ドル円は135.60円、ポンドドルは1.2966ドルまで上昇しました。
4.金融セクターの動き
英国経済の一番の強みは、世界有数の金融市場・歴史あるロンドン市場を有していることです。金融セクターはGCP全体を占める割合も大きく、英国の経常赤字を金融セクタ―がカバーしているといっても過言ではありません。
英国は産業革命でいち早く世界をリードした一方では、1990年と早くから製造業中心の経済構造から脱出し、金融・観光などのサービス業中心の経営へと移行しています。英経済・英ポンドの将来は英国の金融セクターの業績に左右されやすいといえます。
世界金融市場のシェア率は、米国と肩を並べる規模にあり、「クロスボーダー貸付」「外国為替取引」「金利OTCデリバティブ」「国際債券取引」では世界1位を誇っています。
金融セクターは自由貿易の対象外に
基本的にはEUとの自由貿易の継続が合意されていますが、金融セクターは対象外となっています。英国は今後の金融サービスのやり取りに関してはEU各加盟国と個々に交渉していく必要があります。
5.Post Brexit
EUとの合意を得たものの、英国は今後はドイツやイタリア、フランスの後ろ盾なく、1つの国として自国のみで経済を支えていかねばなりません。コロナウイルスで混沌とする中、Post Brexitをどのように展開していくのかが2021年の英経済・英ポンドの主要トピックだといえます。
2024年にようやく英国とEUは自由貿易協定に合意、2021年1月1日より英国はEUから離脱(Brexit)。英国とEUは友好な関係を維持しながらも、それぞれ新しい道を展開していきます。
Post Brexitにてチェックしておきたいポイントを挙げていきます。
自由貿易の対象外となる項目
すでに前項で述べたように、自由貿易の対象外となる項目がいくつかあります。今後の規制緩和が期待できるものもあれば、完全に対象外となるケースもあります。
- 金融セクター
- サービス・ITサービスなど
- 資格・免許など
- 英国海域の漁業権(EU25%削減)
- 通関・検疫・VATの申告など
これらの項目が今後どうなるのかによって、英国・EUと双方への影響が変わってくるでしょう。
EU圏外との自由貿易協定
自由になった英国は、国際貿易の拡大を狙ってすでに数か国と協定を締結しています。
- 日本 → 日英協定(EPA)
- カナダ → 貿易継続協定(Canada-UK TCA)
- シンガポール → 自由貿易協定(FTA)
上記は、もともとEUと協定を結んでいた内容を多少変更して英国と新たな協定を結んだものです。現在、英国はトルコを含めた20か国で交渉を進めています。
EUが協定していない国とも交渉が進められています。
- 米国
- 豪州
- ニュージーランド
上記の3か国と現在交渉中です。
スコットランド問題
もともとスコットランドはフランス系統の王族が多かったこともあり、今回のBrexitには断固反対の姿勢をとっていました。Brexitが具体化するにつれ、スコットランドは英国からの独立を示唆する発言を繰り返しています。Brexit合意に達した後も、スコットランドのスタージョン首相は「スコットランドは英国から独立してEUに戻る」と宣言しています。
いかに、合意に達したとはいえ、あくまでも国家間での合意にすぎず、まだ解決すべき問題も残っています。実際に企業や一般市民がEU脱退後の英国に馴染んでいくには時間もかかるでしょう。2021年の英国はコロナにプラスアルファでBrexitリスクを背負い、1つ1つの展開に非常に左右されやすい不安定な状態にあるといえます。
【2021年】英ポンド相場の見通し
英ポンドは上昇?
英ポンドが上昇するとすれば、以下のようなシナリオが揃った場合です。
- コロナウイルス感染者数・死者数の低下
- ワクチンの有効性が実証
- コロナやBrexitリスクを低減させる経済対策
上記3つは最低でも必要な上昇の要因だといえます。
他にも、
- マイナス金利の据え置き(or 金利の引き上げ)
- 市場予想を上回る量的緩和
- 金融セクターの規制緩和
- 将来性があるPost Brexitの展開
などの要因が重なれば英ポンド上昇に勢いがつくでしょう。
英ポンドは下落?
英ポンドが下落するシナリオは以下のようになります。
- コロナウイルス感染者数・死者数が悪化
- ワクチンの有効性が実証できない
- 経済対策の枠組みが足りない
- マイナス金利の導入
- 市場予想を下回る量的緩和
- 金融セクターの規制緩和なし
- Post Brexitの展開が滞る
などの要因が生じるならば、ポンド安を招く結果となるでしょう。
対円での英ポンド相場
対円での英ポンド相場は、2020年2月に144円台後半の高値を付けています。その後、コロナショックにて124円台まで急落、しばらくは130円台から135円台を推移しながら、9月移行はBrexit交渉が進むにつれ高値を伸ばしています。市場ではBrexitをネガティブな要因だとは見ていないことが明確です。
従って、上昇シナリオではワクチン効果が見え始めるだけでも、十分な英ポンド高の要素になり得る可能性があります。対円では、前半が安値圏137.50円~144.20円あたりで動くと予想します。後半では、インパクトのあるニュースにて高値圏147.0円あたりの突破も考えたいところ。
下落シナリオでは135円台あたりまで下がる局面もありそうです。最悪の要因が重なるなら135円割れも起きうるでしょう。
対ドルでの英ポンド相場
対ドルでの英ポンド相場は、2020年前半はEUとの交渉が難航するとの見方から1.32ドル台から続落しました。コロナショック後の大幅利下げの局面では、1.14ドル台の安値をつけ、その後は1.25ドル台との間で緩やかな値動きが続きました。8月以降は米国のネガティブ要因が重なったため、1.34台まで回復し、EUとの交渉が好転するとともに1.35台~1.36ドル台の上昇基調をキープしています。
2021年は米ドルの買い戻しが始まるなど、ドルの下落の余地が小さいこともあり、対ドルでの値動きは小さめに留まることが予想されます。上昇シナリオでは、下値1.32ドルあたりから上値1.42ドルあたりで推移すると見ます。
下落シナリオでは、コロナ以外の要因であれば1.32ドル~1.33ドルあたりで落ち着きそうです。コロナ悪化などが要因になった場合は1.30ドル割れもあり得るでしょう。
ちなみに、今回の為替予想には、東京オリンピックの先行きは考慮していません。各国のワクチン接種の予定・状況がまだ現時点では何ともいえないからです。日本では2月あたりから接種が開始される予定です。春頃には「中止か実施」か正確に公表される予定です。
仮に東京オリンピックが中止になったとすれば、経済効果が大きいだけに円がらみの通貨ペアはネガティブな影響を与えると思われます。
英ポンドの攻略ポイント
- コロナウイルス感染者数・死者数は低下するか
- ワクチンの効力は実証できているか
- 回復状況に見合った経済対策が実施されているか
- マイナス金利の導入はありそうか
- 量的緩和の規模はどうか
- 金融セクターの規制緩和はありそうか
- 将来性があるPost Brexitが展開されているか
など
まとめ
2020年12月にNo-Dealの可能性が高まった時に、ボリス・ジョンソン氏はすでにNo-Dealに向けた流通トラックの演習・シュミレーションを実際に道路で行っていました。どれくらいの遅延・渋滞が予想されるか、現場に直接出向き前向きな態度で業者たちを説得・励ましていました。
コロナウイルスで自国も大きな打撃を受けながらも、他国への拠出金や医療機関・研究機関へ巨額の寄付を行い、コロナワクチンへも迅速に対応。日本政府にぜひとも見習ってほしい経済大国ならではの英国政府の対応に、「さすがは英国」と頷いた方も多いのではないでしょうか。