FXのチャート分析では様々な方法があります。ローソク足の動きや形、移動平均線やボリンジャーバンドなどの指標を用いたテクニックなど非常に奥が深い世界です。
トレーダーによって重視している指標は様々ですが、その多くのトレード手法に取り入れられるのがMACDです。見易さと分かりやすさ、使い方の幅の広さなど魅力がたくさんあります。
MACDはダマシが少ないのも特徴で、使いこなすことができれば非常に精度の高い分析が可能になります。この記事では、そんなMACDについてご紹介します。
MACDとは
MACD(マックディー)は、Moving Average Convergence Divergenceの頭文字をとったもので、日本語では「移動平均収縮拡散法」と言われます。
その名前にもあるように移動平均線がベースになって作られている指標です。
MACDを表示させてみる
それでは実際にチャート画面にMACDを表示させてみましょう。MACDを表示させたチャート画面が以下の通りです。
ローソク足には特に何も表示されていませんが、下段にチャートが表示されました。この下段のチャート画面がMACDです。
MACDの画面内にあるのは2本の線のみです。すごくシンプルな指標であるということがお分かりいただけるでしょう。
赤色の線をMACD線、ピンク色の線をシグナル線と呼びます。ふたつの線のうち、重視するポイントはMACD線の動きです。
また、FX会社によってはMACDのチャート内にヒストグラムバーという棒グラフのようなものが、表示されることもあります。
こちらがヒストグラムバーを含む、MACDのチャートです。
このバーの見方を簡単に説明すると、バーが上に伸びている時には買いの勢いが強く、下にある時には売りの勢いが強い相場を表しています。どちらにも伸びていない場合は、レンジ相場です。
一目で相場観が分かり、便利だと感じるかもしれません。しかし、MACD線の動き方を見るときに邪魔になるという理由から、非表示にしてしまうトレーダーが多いです。
「あくまで参考程度に」という見方をするか、もしくは非表示にしても問題ないでしょう。繰り返しになりますが、MACDで重視するポイントは「MACD線の動き」です。
このように、チャート分析に必要のない指標はできるだけ取り除き、より迅速に正しい分析ができるチャート作りをすることが大切です。
MACDを使った定番の分析方法
ゴールデンクロスとデッドクロス
移動平均線で分析するときに、シグナルになるゴールデンクロスとデッドクロスですが、MACDでの分析でも「重要なシグナル」になります。
移動平均線のときには、短期線が長期線を下から上に抜けクロスしたものをゴールデンクロス、その逆に短期線が長期線を上から下に抜けたクロスをデッドクロスと呼びました。
MACDの場合には、MACD線とシグナル線のクロスになります。それではMACDでクロスが出現したチャートを見ていきましょう。
このチャートでは移動平均線を、
- 長期線:紫
- 中期線:オレンジ
- 短期線:緑
とMACDを表示したものです。チャートの天井のあたりで、赤のMACD線がピンクのシグナル線を上から下に抜けクロスしています。
これはMACDでの「デッドクロス」です。デッドクロスが現れたときにすべきことは、ショートでのエントリータイミングを窺うことです。
ローソク足は予想通り下降し、移動平均線よりローソク足が下にあるので、下降トレンドだということを示しています。
デッドクロスのあとのMACDのチャートを見ると、ゴールデンクロスが発生しています。MACD線が、シグナル線を下から上に抜けているポイントがありますね。
しかし、ローソク足を見るとそのクロスに影響を受けずに下降し続けています。なぜゴールデンクロスはダマシになってしまったのでしょうか。ここで、大切なMACDの注意点をご紹介します。
マイナスからプラスになるときにエントリー
MACDチャート画面の右側をご覧ください。-0.0115から0.1253の数字がタテに並んでいます。この数値に関してですが、今現在の相場においていくつなのか、といった細かいことを気にする必要はありません。
MACDの基本的な使い方は、ご紹介した通り非常にシンプルです。トレンドを確認したうえでクロスを見ること、あとはマイナスかプラスか、たった2つだけです。この基本的な使い方をまず覚えてください。
ただ、プロのトレードの多くの場合MACDのみを参考にしている、という手法はあまり見かけません。たしかにMACDはダマシの少ない優秀な指標ですが、他の指標と一緒に使うことで分析の精度をより一層高めることができます。
MACD+ボリンジャーバンドで勝率UP
MACDと併用する指標でオーソドックスなのがボリンジャーバンドです。両方のシグナルを組み合わせることで、より「ダマシが少ない勝率の高いトレード」ができます。
ボリンジャーバンドは、複数の線でローソク足を包むバンドのようなものを形成する指標です。ボリンジャーバンドを表示させたチャートをご覧ください。
少し抜けている部分もありますが、ほとんどのローソク足がバンド内で推移しているのが分かります。ローソク足がバンド内に収まる確率は以下の通りです。
- 赤の線(±1σ):68.3%
- 紫の線(±2σ):95.5%
つまり、±2σに触れたローソク足は、ほとんどの確率で逆方向に移動することが見込まれます。ただし、100%ではない上、ボリンジャーバンドを使ってトレードを経験した方は既に感じているかもしれませんが、「±2σを越える」ケースは実際少なくありません。
意外にもこの線を越えてしまうことがあります。ボリンジャーバンドのσのみを頼りにトレードした場合、このダマシにハマってしまうことがあります。そこで役に立つのがMACDと併用する分析です
こちらのチャートをご覧ください。
±2σにローソク足が触れたあたりで、MACDのチャート内ではクロスが発生しています。
ローソク足が-2σに触れたのとMACDのゴールデンクロスを根拠にロングでエントリー、その後+2σに触れた地点で利食いし、さらにデッドクロスが出現したのでショートでエントリー、再度-2σまで下降し利食い、といった連続のエントリーができます。
初心者にありがちなのが、どちらかのシグナルを見つけたときに、
と期待の目を持ってしまうことです。このような先入観を持ってチャートを見ると、シグナルでないものをシグナルとみなしてしまう、誤った分析に繋がります。
「あ!シグナルを見つけた!」と嬉しいことがあると、人間はどうしても次に起こることもプラスに解釈してしまいがちで、何もない相場なのにシグナルだと勘違いします。
MACD+移動平均線
MACDと移動平均線の組み合わせもよく使われる分析方法です。
基本的なおさらいになりますが、移動平均線はエントリータイミングを教えてくれることよりも、トレンドの把握に最も用いられる指標です。
線の向き、ローソク足と移動平均線の位置関係などからトレンドを分析します。移動平均線の強みであるトレンドの把握に、MACDの強みであるエントリータイミングのシグナルを組み合わせて分析します。
こちらのチャートをご覧ください。
移動平均線、
- 短期線:15
- 中期線:45
- 長期線:75
とMACDを表示させたチャートです。
ローソク足チャートの真ん中あたりから右側ではトレンドが生まれています。移動平均線のおかげで一目でわかりますが、これは下降トレンドです。
ローソク足チャートで下降トレンドが発生するポイントから少し前のMACDチャートを見てください。移動平均線が下降トレンドを示す前にデッドクロスが発生しています。
デッドクロスが発生したのを確認してから少し様子を窺い、移動平均線がトレンドを明確に示したところでエントリーする、といったトレードが望ましい相場です。
ゴールデンクロスが発生して買いの力が少し生まれますが、それでもトレンドの勢いはそのままで下降していくのが分かります。
ちなみに利食いのポイントは人それぞれで相場観によって様々ですが、反対の力を持つクロスが出現したら利食い、といった方法がありますので参考にしてみてください。
例えばこのチャートでは、MACDのゴールデンクロスで一旦利食い、その後も勢いがしばらく続きそうなので再度ショートでエントリー、といったトレードが堅実です。
ゴールデンクロスもしくはデッドクロスがMACDと移動平均線両方で出現したらエントリーするという方法もあります。慎重で精度の高いトレード方法で、ダマシが少なく勝率は高くなります。
このようにMACDは、他の指標を組み合わせることでより正確な分析をもたらしてくれます。しかし、ふたつの指標を組み合わせたことで、「エントリータイミングが少なくなる」というデメリットもあります。
2つの条件が揃わないとエントリーできないので、必然的にトレードが少なくなるのは当たり前ですね。
しかし闇雲にエントリーしたり、
と根拠の薄い半ば勘に近いようなトレードをするよりは、少ないけど精度の高いチャンスを待つ方が確実です。精神的に余裕を持って、冷静なトレードを心がけましょう。
また、基本的にはどのチャート使った分析でも100%ダマシではないという確証はありません。しっかり分析してエントリーしても、反対方向にローソク足が動いていくということは決して少なくありません。プロのトレーダーであっても何度も負けています。
しかし、負けても感情的にならずに冷静に損切りをすればいいだけの話です。
と根拠のない期待は捨てて潔く損切りすることが大切です。
MACDの注意点
便利なMACDですが弱点もあります。それは、方向性が分からない相場ではあまり機能しないということです。こちらのチャートをご覧ください。
ローソク足が上下一方向に推移し続けるトレンドではなく、方向性のつかめない動きを繰り返しています。
MACDを見てみると、ふたつの線が近くを推移し触れ合っているタイミングもあります。しかしローソク足はトレンドを形成せずにいます。
また、強い上昇トレンドの中で出現したデッドクロスのような、「トレンドと反対方向のクロス」も注意が必要です。
そのクロス以降、大きく相場が転換することもありますが、トレンドの勢いにのまれてしまい、ダマシになることも少なくありません。
何もしない方がいいポイントも示してくれる
FXトレードは、買いなのか、売りなのかという判断を下してエントリーすることです。しかし、あとひとつ大切な選択肢があります。それは、「何もしない」ということです。
FXを始めて間もない頃は、チャート画面を眺めていると、ついポジションを持ちたくなってしまう人も多いでしょう。
ちゃんと分析ができていない状態なのに、お金に目がくらみ軽率にポジションを持ってしまうのです。このような症状をポジポジ病なんて言い方をすることもあります。
エントリーするということは、損失を被るというリスクを冒した勇敢な行為です。しかし、何もしないという選択も貴重な儲けのチャンスを捨てるという勇気ある選択です。
そんな初心者にMACDは、とても心強い味方になります。今は何もしない方がいいという相場を教えてくれるのです。そのシグナルは、ダイバージェンシーと呼ばれています。どのようなものかチャートを使ってご説明します。
次のチャートをご覧ください。
一度下降したローソク足はふたたび上昇し、直近の最高値を更新しました。その後に現れた大きな陰線以降は下降気味の動きをしています。
一方MACD線の動きを見ると、ローソク足と同じように一度下降、しかし上向きになりゴールデンクロスを作ります。ローソク足は直近の最高値を更新しましたが、MACD線は前回の最高値まで達することなく下降しています。
このダイバージェンシーが発生した時には、相場になんらかの変化が発生することが見込まれます。ご紹介したチャートでは比較的なだらかな動き方をしていますが、場合によっては予想外の方向へ大きく動くこともあります。
無理をせず、何もしないのが正解の相場です。もしポジションを既にもっている場合は早めに利食い・損切りをした方が賢明でしょう。
利益を得るためエントリータイミングを探すのは大切ですが、何もしない方がいいタイミングを発見することができる能力も同じくらい重要です。
初心者のうちは知識の定着もあいまいなこともあり、シグナルではないのに誤解しエントリーしてしまうこともあるでしょう。
また、FXの相場変動は激しく、さっきまでは利益を得られたのに数秒後には損失にまで相場が変わっていた、ということもあり得ます。そのためエントリーするときには強いプレッシャーを感じるでしょう。
そのプレッシャーに目が曇り、冷静な判断を狂わせ、シグナルが無い相場なのに頭の中でシグナルとプラスに解釈してしまうこともあります。くれぐれも気を付けてください。
断言しますが、冷静な分析ができないトレーダーは、100%絶対に勝ち続けることはできません。
MACDを実際に使ってみよう
今までの内容を使ってトレードをしてみましょう。最初にこちらのチャートをご覧ください。
このチャートにあるシグナルは分かりやすいですね。MACDでゴールデンクロスが発生しています。
ゴールデンクロス以降、ローソク足は上向きに推移しています。その後MACD線とシグナル線が重なり横ばいになったあたりで、ローソク足が一旦下降しました。このあたりで一旦、利食いすると良いでしょう。
続いてはこちらをご覧ください。MACDと移動平均線(長期線=紫、中期線=オレンジ、短期線=緑)を使った分析です。
ローソク足が移動平均線の上を推移、移動平均線が下から長期、中期、短期線と並んでいるので上昇トレンドだと分かります。
繰り返しになりますが、「トレンドに従うのが正攻法」なので、ロングでのエントリータイミングを窺います。MACDチャートを見るとゴールデンクロスが発生しています。
このポイントがエントリータイミングです。徐々にローソク足は上がっていきましたが、MACD線が下向きになりデッドクロスしそうな動きを見せたので、様子を見るため一度ここで利食いしても良いでしょう。
しかし、その後に再度MACD線がシグナル線の下から上に抜けていきました。移動平均線も安定して上昇トレンドを示しているので、この後もまだまだ上がっていきそうな相場です。
もう一度ロングでエントリーしても問題ないでしょう。
続いてはこちらです。不規則で分かりにくい動きをしていますが、こちらのローソク足とMACDにはある特徴があります。
ローソク足とMACDの山の高さに注目です。ローソク足では高値を更新している一方、MACDでは高値を更新できていません。ローソク足とMACDの足並みが揃わない、つまりダイバージェンシーが発生しています。
ダイバージェンシーが出現したということは、「何もしない方が良い」相場ということなのでポジションを持たない(既に持っている場合は利食い・損切りをする)のが正解です。
チャートの最後の方を見ると、大陰線が複数出現して一気に下降しています。
ダイバージェンシーについて、相場になんらかの変化が発生することが見込まれるとご説明しました。これについて、ダイバージェンシーを逆張りのエントリータイミングとして使えるかも、と解釈する人もいるかもしれません。
分かりやすく言いかえると、
という考えです。しかしそれは誤りです。ご紹介したチャート画面では下降していますが、この後急に上昇することも起こり得るのがダイバージェンシーの怖いところです。
プロトレーダーも使うMACDを味方にしよう
MACDは他の指標に比べ、使い方も見方も非常にシンプルな指標です。
しかしその精度と柔軟性は非常に高く、エントリータイミングの分析、他の指標との組み合わせ、何もしない方がいい相場だということも教えてくれます。
ぜひあなたのトレードにも取り入れて役立ててください。