FXのテクニカル分析に使えるインジケーターは無数にあります。多種多様なインジケーターがある中、投資家それぞれで使いやすいインジケーターは異なり、投資スタイルや手法に合わせて選ぶことができます。一般的によく使われているのが移動平均線やボリンジャーバンドやRSIなどがありますが、使えるインジケーターは多い方がトレードには有利です。
「FXプロのFXチャート分析実践講座」では基礎的なインジケーターから上級者向けのインジケーターまで幅広い種類をシリーズでご紹介しています。
今回のFXプロでご紹介するインジケーターは「ADX」です。
FXテクニカル ADX
ADXはオシレーター系のインジケーター。チャートの枠外に3種類の折れ線グラフが表示されるタイプです。
まずは、最初にADXの大まかな概要を見ていきましょう。
ADXとは
「ADX」とは、
- Average/平均
- Directional/方向性
- Movement Index/動向指数
日本語でわかりやすく訳すると、「平均方向性指数/方向性や市場動向を平均値で表すインジケーター」となり、相場の勢いや強さを見るうえでヒントになります。「このまま上昇トレンドが続くのか」「ここで下降トレンドは終わりなのか」「どれくらいの価格上昇が期待できるのか」などの疑問に答えてくれるのがADXです。
ADXの開発者
ADXを開発したのは、J.W.ワイルダー(Jr/ジュニア)で、分析アナリスト・トレーダーとしてトレンド・リサーチ社という会社を経営している人物です。RSIやパラボリックなど有名なインジケーターやトレード手法を多数発表していて、世界各国でセミナーを開催したり本を出版したりしています。日本語訳の書籍もいくつかあります。
J.W.ワイルダーのインジケーター
- パラボリック・タイム
- ボラティリティ・システム
- ADX
- DMI
- RSI
- ピボット
など、一般的によく知られているインジケーターを多数開発しています。
J.W.ワイルダーの書籍
- ワイルダーのテクニカル分析入門
- ワイルダーのアダムセオリー
など、自著作に加えてワイルダーの分析手法を詳しく解説する本も多数出ています。
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ADXの基礎知識
ワイルダー氏によると、市場分析や予想の思い込みや感情を一切捨て去り、目の前にある値動きがすべてとのことです。「価格が上がり始めたら買い」「価格が下がり始めたら売り」「さらに上がれば買い、さらに下がれば売り」という理論がワイルダー氏のモットーで、この理論を得るために友人投資家に100万ドルを支払ったとの逸話があります。
FXだけに限らず、あらゆる投資において現在の値から上がるのか下がるのかが判断が非常に重要です。根拠のない相場予想や思い込みから、間違った判断をすることもありますよね。
ワイルダー氏のADXについて理解を深めるためには、ワイルダー氏が開発するインジケーターの基盤となっている「アダム・セオリー」の解説から始めていきたいと思います。
アダムセオリーとは
アダムセオリーとは、
トレンドフォロー
アダムセオリーでいうところのトレンドフォローとは、トレンドの流れに身を任せるべきだという考え方のことです。水の流れが上から下へ、煙が下から上へと流れるように、相場は上に向かう時は上に流れ続け、下に向かう時は下に流れ続けるものだとしています。
- 上昇トレンドの時は上昇トレンドの流れに沿って取引
- 下降トレンドの時は下降トレンドの流れに沿って取引
というように、言われてみればごく簡単な理論のもとで取引を行うべきだとのことです。これは、子供でもわかるシンプルな理論ですよね。
再帰理論
アダムセオリーのもう1つの取引ルール、再帰理論とは、数理論理学の1つで簡単にいうと「計算可能な = 計算で証明できる理論」のことをいいます。
アダムセオリーでは、相場はある決められた法則に基づいて動いているので計算して予測することが可能だという考え方です。これは、同じ流れのトレンドを繰り返したり、上昇トレンドは下降トレンドに、下降トレンドは上昇トレンドへともと来た道へと戻っていく傾向にあるとのことです。
再帰理論に従って、相場のアルゴリズムや法則がわかれば、市場の先行きは決して予測不可能なことではないとしています。
ADXの3つのライン
ADXは3つのラインで構成されています。
- ADX(平均方向性指数)
- +DI(上昇トレンド指数)
- -DI(下降トレンド指数)
ADXの計算方法
ADXの計算は以下のような手順で算出されています。
- DM(Diretional movement/方向性)の計算
- TR(True Range/実質のレンジ幅)の計算
- DI(Directional Indicator/トレンドの方向性の強さ)の計算
- DX(Directional Movement Index/価格変動指数)の計算
- ADX(Average Directional Movement Index/平均方向性指数)の計算
1.DMの計算
まず、現在の相場の方向性を当日と前日の高値・安値から計算します。
- +DM(当日高値 - 前日高値)= 上昇
- -DM(前日安値 - 当日安値)= 下降
- DM0 = 横ばい・方向性なし
2.TRの計算
さらに、当日と前日の実質のレンジ幅を計算します。
TR = 当日高値 - 当日安値、当日安値 - 前日終値、当日高値 - 前日終値
上記のうちで数値が最大のものが適用されます。
3.DIの計算
次に、DMとTRを使ってトレンドの方向性を計算します。
DI (トレンドの方向性)= DM ÷ TR
4.DXの計算
方向性の数値が出たら、次にトレンドの強さを計算します。
DX(トレンドの強さ)= 100 × (+DI - -DI)÷ DI
5.ADXの計算
トレンドの方向性とトレンドの強さを表すDXと移動平均線を使って、最終的にADXを計算します。
ADX(平均方向性指数)= DX × 移動平均線の平均値
ADXの見方
ADXはチャートの下部に挿入されるオシレーター系インジケーターです。3つのラインにて、トレンドの方向性や強さを表示します。3つのラインがどのように描かれているのかで、相場予想のヒントが得られます。
ADXの3つのライン
- ADX(平均方向性指数)
- +DI(上昇トレンド指数)
- -DI(下降トレンド指数)
グラフで見るADX
緑枠で囲んだグラフがADXです。
ADXのを拡大して見ていきましょう。
ADXの数値とラインの見方
- 現在のADXの数値
- 表示期間中のADXの高い数値
- 表示期間中のADXの低い数値
一番下にある数値は「0」または「-」の数値が表示され、基本的にADXがゼロ以下のマイナスで表示されることはありません。なぜなら、相場は横ばいか上昇・下降のいずれかに動くからです。
数値が高いほど、上昇か下降へ動く確率が高いといえます。
ADXライン
「ADXライン」が高い数値にある時は、上昇か下降へと動く強さが非常に大きいことを表しています。上か下かで大きな値動きが期待できるという意味ですね。
「ADXライン」の数値が低い時は、値動きも小さいと見ることができます。「ADXライン」が0に近づくほど横ばいで動く可能性が高くなります。
+DIライン
「+DIライン」が「−DIライン」よりも上にあるか下にあるかで上昇に向かう可能性を読むことができます。「+DIライン」が「−DIライン」よりも上にきている時は上昇、「+DIライン」が上図のように「−DIライン」よりも大きく下回っている時は上昇の可能性はかなり低くなります。
−DIライン
「−DIライン」の数値が「+DIライン」よりも上にきている時は、上昇よりも下降に動く可能性が高いと判断できます。上記のようにADXラインが高い数値を出していて、「−DIライン」が「+DIライン」を大きく上回っている時は、急落・大幅な下落が見られることが多いです。
ADXの使い方
インジケーターADXで、トレンドの方向性や強さがわかりますので、効果的なトレード戦略を立てるのに大きく役立ちます。
売買シグナルとして使う
3つのラインが1か所で交差した時
「ADXライン」「+DIライン」「−DIライン」と3つのラインが1か所で交差した時は、上昇から下降、上昇トレンドから下降トレンドへと切り替わる可能性が高くなります。ちょうど重なったポイントを売買シグナルとして使えます。
上図のチャートでは3つのラインが重なった時には以下のような動きが見られています。
- 下降トレンドから上昇トレンドへと切り替わっている
- 上昇トレンドから下降トレンドへと切り替わっている
- 上昇ローソク足が続いた後、下降ローソク足が出てきている
- 下降ローソク足が続いた後、上昇ローソク足が出てきている
「+DI」が「−DI」を下から上に抜けている
「−DI」が下に降りてきて、「+DI」が上に突き抜ける時は下降から上昇に向かうサインと見れます。
ここで上向きになっている「ADXライン」は下降トレンドが弱まり、上昇トレンドの勢いが出始めていることを表しています。
「−DI」が「+DI」を下から上に抜けている
「+DI」が下に降りてきて、「−DI」が上に突き抜ける時は上昇から下降に向かうサインと見れます。
交差直後にADXラインは下から上に向かっていますね。これは、上昇トレンドの力が弱まり下降トレンドの力が強くなってきていることを意味しています。
ADXラインが頂点から下がり始めている
ADXが大きな山を作って頂点から下降するポイントもちょうどトレンドが切り替わったり、大きな値動きがあったりするポイントとなります。
- 下降トレンドにある相場が上昇トレンドへと切り替わる
- 上昇トレンドにあった相場が下降トレンドへと切り替わる
- 大きく相場が下がる
- 大きく相場が上がる
勝つためのADXトレード手法
トレンドが切り替わるポイントや、大きく下降から上昇に相場が動くポイントを教えてくれるADXは、スイングトレードや中長期トレードなど1つのトレンドごとに取引する手法に抜擢なインジケーターです。
もちろん、スキャルピングやデイトレードでも売買タイミングを測るために活用できます。
ゴールデンクロスとデッドクロス
移動平均線を、短期・中期・長期で3本挿入します。移動平均線の期間はそれぞれのトレード期間やチャートの時間足に合わせて設定します。ここではスイングトレード・30分足チャートで、移動平均線を「5日、20日、75日」で設定しています。
ADXの3つのラインがちょうど1点で交差した時に、ゴールデンクロスまたはデッドクロスが形成されているかどうかを目安に取引します。
- 最初のADXのサインが出た直後にゴールデンクロスが形成されました。「買い」エントリーします。
- その後2回程度、ADXの3つのラインが交差する場面が出ていますが、移動平均線に合図がないのでしばらくポジションを保有したまま様子を見ます。
- 2つ目の緑枠のADXにて3つのラインが交差しました。同時にデッドクロスが形成されているので「売り」エグジットで利確です。あるいは、ここから「売り」エントリーします。
- 3つ目の緑枠のADXのサインが出た時に、ゴールデンクロスが形成されています。ここで「買い」エントリーすれば、その後価格は大きくジャンプしていくのがわかります。または2つの目のADXのサインの時に「売り」で入っていた場合は「買い」エグジットで利確です。
まとめ
FXトレードではよく「トレンドの波にのる」という言葉が出てきますよね。ADXの開発者J.W.ワイルダーもアダムセオリーでいっているように、FXで勝つためにはトレンドの波にいかに上手にのり、トレンドの終わりとともにエグジットできるかが非常に重要なポイントとなってきます。
しかしながら、相場とは本当にわからないもので、下降トレンドが上昇トレンドに切り替わったかのように思えても下がり続けたり、また逆のパターンも起こり得ます。絶好の売買タイミングを逃して悔しい思いをすることもしばしばです。