2020年はイランと米国の衝撃的なニュースにで幕を開けました。今後の米ドル為替相場はどうなるでしょうか。
109円台に突入しかけていた米ドルは年明けには107円台後半まで下がり、現在は108円前半あたりを動いています。もともと米ドルは上昇しきっていなかったこともあり、かろうじて下落による打撃は小さいものの、ダウ平均は2.83%、日経平均は1.91%急落しています。
米ドルはこのままドル安に進む?それともドル高に持ち直す?
米ドルの価値はどうなる?
米ドルは世界最強の通貨といわれ、すべての金融商品は米ドルの動きに強い影響を受けているといっても過言ではありません。米ドルの価値が大きく減少するとは思えないものの、様々な通貨がある中、米ドルの価値は全体的にどうなのかが気になります。
2019年の米ドルインデックス
2019年の米ドルインデックスは、底値が1通貨=95.219セント高値が99.377セントのレンジで取引されています。
1月に米ドルの価値は下がりきった後、9月に向けては一旦下がりはしたものの上昇トレンドに乗っています。10月に入ってからは、米中の合意に向けた進展が見られず急落。年末にかけて米ドルの価値は下がり続けています。
2019年の米ドルの価値は米中貿易交渉の経過に大きく左右されたといえるでしょう。
その他主要通貨インデックスとの比較
次に主要5通貨それぞれの通貨の価値をインデックスで比較してみましょう。
米ドルは、その他の通貨に比べると流動性にかけ、比較的安定した狭いレンジで動いています。最も価値の変動が激しかったのが英ポンドで、上昇率が高かったのは日本円です。ユーロは徐々に価値が低下していますが値幅は狭くあまり動かないのが特徴です。
対円での米ドルの動き
2019年の米ドル為替相場は対円では、底値104.439円、高値112.402円。8月に底値を付けて以来上昇基調にありましたが、日米ともに株価更新をしつつも108円~109円のレンジを抜けきれない状態でした。
市場が楽観的な時でも米ドルへの不安が残り安全圏である円買いが維持されたのと、米国の利下げから日本円との利率幅が狭くなったことなどが原因だといわれています。
そして年明けにはイランと米国のニュースとともに円が107円台前半まで買われました。
対ユーロでの米ドルの動き
2019年の米ドルは、対ユーロでは底値が1.087ドル、高値が1.156ドルでした。1月に一旦ドル安が進んでからは、9月末まではユーロ売りドル買いが続いていきます。
ユーロに対してドルは強い状態にありました。10月以降はユーロがやや力を取り戻し始めていますが、1.103~1.118のレンジで推移しています。
12月はECBの利上げ観測や、ドイツ政権の改善、Brexitの展開にてEU圏の景気拡大に対する期待からドルが売られ始め30日には1.123ドルまでドル安が進みます。
【2020年】米ドル為替相場の注目トピック
2020年に米ドル為替相場がどう展開していくのか予測することで、それぞれのトレード戦略も異なってきます。
そこで、気になる米ドル為替相場を読むにあたって注目のトピックは何なのか、今回はファンダメンタル的にアプローチしていきます。
ファンダメンタル分析
米国の経済状況
米国はGDP世界1位の経済大国
世界が不況に陥った2009年のリーマンショック以来、米国は順調に回復し安定した成長期の過程にあります。
名目GDPは、
- 2016年度 → 18兆7150億ドル
- 2017年度 → 19兆5190億ドル
- 2018年度 → 20兆5800億ドル
実質GDP成長率は、
- 2016年度 → 1.6%
- 2017年度 → 2.4%
- 2018年度 → 2.9%
2019年度のGDP成長率は、9月の時点では2.1%と6月期の2.3%より低下。前年度割れしていますが、堅調な成長率を約10年に渡って維持しています。1980年代からの米国のGDP成長率の幅は徐々に縮小しているものの、長期的に見て安定した状態にあります。
世界で、米国が占めるGDPの割合は1国で約24%と非常に高く、企業の時価総額ランキングでもApple、Amazonを筆頭に50位以内の大半を米国が占めています。米国が揺るぎない地位にあることが世界経済の安心感につながるのです。
チェックしておきたい米国の経済指標
それでは、米国経済の状況を図る経済指標をGDP以外でもいくつかご紹介しておきましょう。
米国雇用統計
まず1番に注目しておきたいのが毎月発表される米国の雇用統計です。雇用統計の数字が労働市場が力強さ、個人消費力、景気拡大の指標として捉えられています。2019年11月には予想を大きく上回り26.6万人を計上しました。その時は1分間でドル/円は0.34pips上昇しました。
雇用統計のとくに重要な指標が、非農業部門雇用者数と失業率です。
米国の主要経済指標
- ISM製造業・非製造業総合景況指数
- 貿易収支統計
- CPI消費者物価指数
- 小売り売上高
- 個人所得・支出額統計
など・・・
イランと米国の行方
米国経済、世界経済が悪化する要因として、直近ではイランとの対立が挙げられます。
2020年の幕開けはいきなり米軍がイランを攻撃して、イランの有力指導者である総司令官を殺害したニュースで始まりました。1月3日には安全資産である円が買われ、ドルは対円で107円台まで下落しました。
しかし、一方では中東との関係が緊迫することから原油の価格は上昇。原油価格の上昇によって、米国経済への懸念は現時点では限定されているようです。ドル相場のインデックス指数は上昇に向かう気配すらあり、ドル/円相場は108円中盤まで持ち直しています。
原油価格
そこで2020年に注目しておきたいのが原油価格です。
原油は私達の生活に欠かせない重要なエネルギーでありつつも、生産できる国がごく限られています。ほとんどの国は必要不可欠な原油を中東・米国などの原油産出国に依存しています。
原油なしの生活が現代人にとって不可能であることから、原油価格の高騰は時にオイルショック時のように世界に恐慌を巻き起こします。しかし、同時に原油価格が暴落しても急激なデフレが進み、原油関連に巨額の融資・投資を行う大手機関が困窮し、経済に打撃を与えます。
[原油価格と世界株式市場の関係]近年のシェールオイル開発によって、米国は今では世界一の原油産出国です。原油価格の低下は米国経済の弱化にもつながります。そして、イランも同様に主要原油産出国の1つです。イランからの原油供給率が低下すれば、米国には利があるわけです。
トランプ政権と大統領選
ドル相場の動きは、米国経済=米国大統領の政策に大きく左右されます。
共和党で神出鬼没的に現れたトランプ氏は民主党ヒラリークリントンを打ち負かし大統領の座につきました。当時、トランプ氏の通常では考えられない暴言からトランプ氏が当選しては大変だとの見方が優勢でした。
トランプ氏が大統領の座についた瞬間から、波乱万乗な市場変動がスタートします。
トランプ大統領就任後のドル相場
トランプ大統領就任が確実になるにつれ、ドル/円相場は105円からわずか2、3時間で101円まで下がります。日経平均株価は1,000円も急落しました。
ところが、トランプ大統領の勝利による大規模なインフラ建設への期待から、NYダウは反発、銅やメタル・建機が反発、ドル高円安が急速に進み始めます。
2016年10月から12月にかけてドル/円は118円台まで急上昇していくのです。以来、トランプ大統領の新しい発言がある度に上下激しくドル高・ドル安を繰り返していきます。
製造・鉄鋼業と米中貿易摩擦
2018年に入ってから米中貿易摩擦、約2年間に渡る長い戦いが始まります。
おそらく、米中貿易戦争の目的の1つは米国製造・鉄鋼業への収益還元だったと思われます。トランプ大統領は、いわゆるブルーカラー層といわれる鉄鋼業などの労働者たちの支持を厚く得ています。
中国からの資材・鉄鋼輸出を制限することによって、トランプ大統領の支持者たちに利益を還元しており有言実行を証明しました。しかし、貿易戦争から米国製造業が受ける弊害も決して小さいとはいえず、中国との関税合戦によってドル相場や金融市場に大きな痛手を与えてきました。
そこで、貿易戦争もようやくひと段落する必要があり、合意に向かう段階にきています。ただ、急伸する中国経済が米国にとって脅威となっているのは事実です。中国側でも経済のバランスをとるために米国の立場を尊重する態度が求められます。
大統領選
そして、2020年の最も注目すべきトピックが大統領選です。
トランプ大統領は奇抜な政策や発言にて時には非難されつつも、効果的に駆け引きしながら市場を操作してきています。米国主要株式の平均株価の高値更新を連日で記録した実績があります。
米国経済を支える多くの大手企業は圧倒的な株価上昇による恩恵を受けています。果たして、常軌を逸脱するような経済効果がトランプ大統領以外で期待できるかは疑問です。
FOMC政策金利
ドル相場の行方を決める、もう1つの重要な要素がFOMC政策金利です。
FOMCとは、
米国の政策金利を決める会合のことで、FRBと呼ばれる中央銀行によって形成されています。FOMCで決定される政策金利がドル相場や世界中の金融市場に影響を与えており、年に8回実施されます。
政策金利は、極端なインフレ・デフレから健全な状態へと市場・景気を保つために行われる金利の設定です。政策金利を目安に、債券やその他投資商品で派生する金利、預金や借入の金利なども変動します。
一般的には、利上げをすると資金の流動性が低下して景気や物価が下がり、利下げをすると資金の流動性が高くなり景気や物価の上昇を促します。
ただ、どのような状況にて利上げ・利下げがされるのかで、その経済効果も異なります。また、予想に反した政策金利が発表されることでも大きな為替変動の要因となります。
2019年7月 利下げ発表後のドル・円チャート
7月30日には109.35円だったドルは、FMOCの0.25ポイントの利下げ発表後に3日間で3円以上下がりました。2008年リーマンショック以来の利下げであったことから、利下げ幅への期待が強すぎたためです。一方では、低金利によって利息が得られないと判断した投資家によってドルが売られる結果となりました。
- 2019年12月 → 1.50‐1.75%
- 2019年9月 → 1.75‐2.00%
- 2019年7月 → 2.00‐2.25%
- 2019年5月 → 2.25‐2.50%
【2020年】円為替相場の見通し
2020年はドル高が進む?
まずドル高が進むケースを対円と対ユーロで検証していきます。
対円
米国にネガティブな要素があった際に真っ先に買われるのが日本円です。従って対円でドル相場が伸びていくためのポイントは現在5つあります。
ポイント1.イランへの制裁手段
まずはイランからの報復にどのような手段で対応していくのかです。もともと米国と中東の一部の地域は以前から主導権争いにて対立していました。代表的な中東の対立国がイラン・イラクです。
2000~2004年、ジョージ・W・ブッシュの時代にも中東との対立激化にてイラクへの制裁を進めています。当時のイラク攻撃の時は安値107円台~高値120円台で浮き沈みがありながらも、急激な暴落はありませんでした。
ただ、ここで問題となるのが米国の制裁手段における健全性と正当性です。終止符を打つための制裁にあたって、テロとは全く無関係の国民をどう配慮していくのかが最大の焦点となるでしょう。
ポイント2.原油価格の上昇
イランへの制裁が実現した場合、米国は原油市場も含めてこれまでにない主導権を握ります。現在の米国は世界一の原油産出国です。イランからの供給不足によって原油高が過剰にならない程度に進めば、物価上昇、景気拡大への引き金となりさらにドル高が進んでもおかしくないでしょう。
ポイント3.米中貿易戦争の合意
そして、もう1つのドル高の要素は米中貿易戦争への合意です。中国における輸出制限が緩和されれば、中国の設備投資・消費力が向上します。米国だけでなく、中国をメイン市場とする多くの企業の収益が向上、景気拡大が望めます。
ポイント4.トランプ大統領の再選
加えてドル/円相場が上昇していくためには、トランプ大統領の巧みな市場の駆け引きが欠かせません。トランプ大統領の再選が市場に希望を与えるでしょう。世界中の投資家を幻滅させた後で、数倍の希望を与え市場を想定以上に活性化させるのがトランプ術だといえます。
イランへの制裁が世界が納得する方法で行われた場合、米国のリーダーシップ・軍事力が見直される機会となります。市場にも米国経済に対する明るい展望と安堵感が取り戻され、109円を突破して115円あたりまでドル高が進むと見ます。
さらに、原油価格の上昇、米中貿易交渉の好転、トランプ大統領の再選とすべて条件が揃えば120円台も難しくはないでしょう。
対ユーロ
対ユーロのドル相場が上昇するためには、対円と同様に中東リスク、米中貿易リスクなどのネガティブ要素を解消することが条件になります。
為替市場では、ユーロはドルの次に取引量が多い通貨です。ドルの代替え通貨としての役割も高く、ドルが買われた場合に必然的にユーロの取引量が著しく減少する傾向にあります。とくにEU圏は複数の主要国における政権・財政がユーロの動きを左右するため、ネガティブ要因が発生しやすいのがユーロの弱さです。
2020年はドル安が進む?
対円
イランへの制裁が米国の思惑通りに進まず、イランが核兵器を暗に宣戦布告を米国に対して行った場合、ドルは急落し逃避先として日本円が大量に買われることになります。さらに、米中関係が難航、トランプ大統領が落選となれば、単にドル/円相場の問題ではなく世界経済が大きく低迷する可能性が高くなります。
対ユーロ
米国とイランの関係が悪化した場合にはEU圏の地理的リスクが高まり、ユーロも売られる確率が高くなります。ユーロ・ドルとともに売られるため、値下がり率も比較的狭くなることが予想されます。
イラン以外の要因からドルが売られた場合、ECBの金利政策、ドイツ・イタリアの財政が改善されていればドルからユーロに流れる動ききが強まります。ただ、イギリスのEU脱退が確実になっている場合、やはり値幅は限られてくるでしょう。
2020年FX攻略ポイント
2020年のドル相場におけるFX攻略のキーワードは、
- 米国経済のGDP成長率
- 米国の主要経済指標の動向
- イランと米国の緊迫度
- イラン制裁における健全性と正当性
- 原油供給状況と原油価格
- 米中貿易戦争の合意条件
- トランプ発言の真儀
- 大統領選
- FOMC政策金利
まとめ
トランプ大統領はかつては不動産王と呼ばれ、数々の巨額な不動産の取引を行っていました。基本的にトランプ氏はトレーダーです。買い手の心理、売り手の心理を知り尽くした絶妙なタイミングにて、時には市場を冷え込ませ、時にはお祭り騒ぎのごとく市場を沸せてきました。
確かに大統領として問題のある言動は多いですが、あのコメディーじみた様相が憎めないというのが多くの人の正直な意見ではないでしょうか。今となってはトランプ氏の手腕に「きっと彼ならやってくれるだろう」と信頼する気持ち(?)すら持てるような気がします。ぜひとも、その手腕で処々の問題を解決し、米国経済・世界経済を盛り上げてほしいところです。
米国経済が世界経済の指標である限り、今後もトランプ大統領がとる1つ1つの過程が、2020年の市場を大きく左右していくでしょう。