2020年を迎えました。一寸先は闇ともいえる為替相場の先行きが気になるところです。2019年の年末から年始にかけて、一時は円安が進むかと思われた場面もありましたが思いがけず円高が進み始めたようです。期待を裏切られたと悔やむトレーダーも多いのではないでしょうか。
米中の関税合戦に希望の光が見られている矢先に、年明けはいきなりイランと米国の衝突によって幕を開けました。トランプ政権ならではの波乱万乗な為替動向が伺えるスタートとなりました。
米大統領選を控えた2020年の為替相場はどのような展開になるでしょうか。国内では安倍政権の解散・総選挙の話も聞かれる中、東京オリンピックへのカウントダウンも始まります。
【2020年】日本円の価値はどうなる?
2020年の日本円の価値は上がる?下がる?と考えた時に、通貨の価値は相対的なものなので答えることは難しくもあります。一般的に円の価値は世界最強の通貨、対ドルにて示されていますが、単独での通貨の価値は各国の通貨インデックスを見ることで、大まかなイメージが掴めます。
通貨インデックスとは
通貨インデックスは世界におけるその通貨の価値を図るための指標となる価格で通貨指数とも呼ばれているものす。円が米ドルに対して強くても、ユーロに対して強いとは限りません。通貨インデックスを見れば、単独での通貨の価値がどうなのかを見ることができます。
※通貨インデックスは日経、ICE、FRB、金融機関などによって算出・公開されており、公開元によって若干の差はありますが概ねの価格動向がわかります。
2019年の円インデックス
主要通貨5通貨のインデックス比較
上記の通貨インデックスは2019年10月1日の通貨の価値を100として、2020年1月までの上昇率・下落率を表したものです。
直近3カ月間で日本円は-4%価格が低下しています。5通貨の中では最も価値が減少している通貨です。ところが日本円の価格が下がっている割には、米ドルの上昇率はいまいちです。
Brexitで注目されているユーロは安定した動きで、英ポンドは最大で7%の上昇を見せ著しく力をつけているのがわかります。
日経通貨インデックス
次に見ておきたいのが長期間での円インデックスの動きです。上記のインデックスは、2015年1月の価格を数値100として、上昇率、下落率を見ることができます。
2016年に20%上昇、その後約1年間は価値が減少、そして2018年1月以降は堅調な上昇基調にあるといえます。円の価値は長期的に見れば全体的に上昇、つまり円高に向かっているようです。
円相場/対ドル
2019年8月の米ドル/円の為替相場は円高に激しく触れた月でした。米国の利下げが本格化するとの見方が強まり、さらにトランプ大統領の中国への制裁関税報復が究極に達し激しく円高が進みます。
8月26日の円相場は円高のピークにあり104円台に触れた場面もありました。
12月12日には一気に円安が進み、108.45円から109.55円と1日で0.90円上昇しました。
円相場/対ユーロ
2018年にユーロ/円が下落始めるのも米ドルと同じ8月です。8月の対ユーロの円相場は116.53~120.70円のレンジで推移し、例のごとくトランプ大統領の対中関税の表明から下落が始まり円高が進みます。
イギリスのBrexitの懸念からもECBはユーロ圏の契機支援に向けて、大規模な金融緩和に動くとの見方が強いながらも、12月は120円台前半から122円前半にかけてのレンジで推移。ZEW景況指数や製造業PMIが改善されていることからユーロ景気回復の期待から円高進行にストップがかかっている模様。
【2020年】円為替相場の注目トピック
円為替相場を予想するにあたっては、米国の状況が大きく影響するのはもちろんですが、国内の状況によってもその他の通貨に対する動きが異なってきます。円がどれくらい強くて、どんな時に下がるのか国内の状況を把握しておく必要があります。
ファンダメンタル分析
日本円は米国や欧州にてネガティブな要素があった時に、安全資産として買われる傾向にあります。世界市場がリスク回避に走ると日本円の価値が高くなるのです。
もし、日本円が安全資産と見なされなくなれば、また円相場の読みも違ってきます。また、円安が進むにあたって安倍政権のアベノミクスや日本銀行の金融政策や国内の景気なども深く関わってきます。では注目ポイントを見ていきましょう。
日本経済の概要
現在の日本経済は長期に渡る景気回復期の途中にあるといえます。
2008年のリーマンショックから立ち直り始めたのが2012年12月のこと。以来2017年の時点で名目GDP58兆円、実質GDP37兆円とともに上昇を維持しています。成長率は年々縮小する傾向にありますが、高度経済成長期(1965年~1970年)を超える長さで安定した経済情勢にあります。
国内の実質GDP
2019年度7-9月期の実質GDPは541.5兆円、成長率は0.4%です。
日本経済を図る重要な指標をいくつかご紹介しておきましょう。
チェックしておきたい経済指標
- 名目GDP → 単純に生産額を算出したもの
- 実質GDP → インフレ・デフレなど物価を考慮して算出した生産額
- 有効求人倍率 → 実質の雇用率
- 失業率、賃上げ率、最低賃金
- 輸出・輸入総額
- 経営収支
など・・
世界最大の対外債権国
日本経済は改善・成長の過程にあり、2018年度の経営収支は、前年比ではマイナスとなりつつも19兆932億円を上回って黒字を計上しています。ただ、負債額が1,100兆円を超えGDP比率では世界一の借金国でもあるのです。それでもなぜ、日本円は安全資産だと見なされるのでしょうか。
みずほ銀行のマーケットアナリストによると、日本円が安全資産だと見なされる大きな理由は、27年連続で世界最大の対外債権国の地位を確保しているからだといわれています。
日本政府や企業、個人が海外に保有する資産から負債を引いた金額を対外純資産といいます。この対外純資産がマイナスになれば対外負債となり借金を抱えている状態です。プラスであれば対外純資産として収益に見なされます。
国内の対外純資産の推移
とくに、海外企業の買収やM&Aによる直接投資が2000年以降は大きく寄与しているとのことです。世界の先進国の成長率が危惧される中でも、巨大な対外純資産によって、万が一の時には売る外貨がたくさんあり、日本円が暴落することはまずない、と考えられているのです。
政治の安定性とアベノミクス
日本円が安全資産と見なされる、もう1つの理由として政治の安定性が挙げることができるでしょう。政治の安定性と金融市場の安定性、日本円の安全性は非常に密接な関係にあるといえます。
日本の首相は比較的に在職期間が長い
日本は他国に比べると政治面でも安定している点が世界でも高く評価されています。安倍政権は2020年の8月にて憲政史上で最長記録を更新します。
政治的な安定性はそのまま日本円の安全性につながるだけでなく、国内の消費を促し好景気をもたらします。景気が良くなれば、物価が上昇し円安が進みます。円安・ドル高になることで世界の金融市場には安堵感が拡がり、最強の通貨ドルが買われドル高が進みます。
円安は日本にとっては好景気のサインでもあり、日経平均株価も上昇します。「円安・株高・好景気」を目指した政策がアベノミクスと呼ばれるものです。
金融政策
アベノミクスの代表的な政策の1つが日本銀行が行う金融緩和です。つまり、円安・ドル高に向かうように日銀が金利や物価を操作することです。安倍首相にとって日銀の黒田総裁はアベノミクスの実施に欠かせない片腕です。
日銀が「黒田バズーカ」と呼ばれる異次元政策緩和を開始したのが2013年のことで、毎年2%の物価上昇にて健全な円安・景気を維持していこうという政策でした。
消費者物価指数
2016年に初めてマイナス金利が導入され、一定の物価上昇・円安を実現してきました。2019年においても2%の物価上昇には至っておらず円安の値幅も限定されている状態です。必ずしも利下げによって、景気の拡大が図れるとはいえず、黒田総裁が今後どのような方法で金融緩和を実施していくのかが注目されています。
金融緩和政策の例
- 政策金利引き下げ(引き上げ)
- 長期国債・ETFの保有額の拡大(縮小)
- 貸出増加支援金制度の見直し
- 企業の投資資金の拡充
- マネタリーベースの調整
など・・・チェックしておきたい金融政策です。
東京オリンピック
物価の上昇、消費・設備投資の促進、景気拡大による円安が期待できるイベントとなるのが東京オリンピックです。東京オリンピックを契機とした、インバウンド市場の拡大もアベノミクス政策の1つです。
実際に安倍政権が確立されてから、国内のインバウンド市場は驚異的な規模で急成長しています。ビザ発給要件の緩和措置や住宅宿泊事業法の緩和、外国人向けサービスの充足など、積極的に国際観光事業を推進したアベノミクスの成功事例だといえるでしょう。今後のインバウンド市場は少子高齢化・労働力の低下を補う施策としても重要なポイントになります。
2013年には初めて外国人観光客の数は1,000万人を突破。2018年には3倍の3,000万人以上に拡大しています。
訪日外国人消費額の推移
さらに、注目しておきたいのがインバウンド消費額の規模です。2014年度には2兆円を超え、2018年度の総額は4兆5千億円、さらに2019年度は前年を上回る金額が予想されています。
【2020年】円為替相場の見通し
2020年は円安が進む?
それでは、具体的に米ドルとユーロ2つの主要通貨に対して円安が進むのかどうかを検証していきます。
対ドル
2020年に限らず、円安が進むためには米国の安定した経済情勢が土台となります。日本だけに限らず、米国の不安要素は世界中の不安要素となり、景気が悪くなる最大の要因となってしまいます。そのためまず3つのポイントが円安に向かう分岐点になります。
イランと米国の関係
イランとの関係がどこまで深刻化するか見極める必要はありますが、現段階ではイランと米国の対立は今始まったことではなく、ショックからくる米ドルのパニック売りは限定されているといえます。
むしろ、原油の価格の上昇によって米国が受けるメリットは大きいといえ、ドル高・円安が109円前半に突入する可能性は捨てれないでしょう。
米中の貿易交渉の経過
2018年から円安進行を阻んでいた最大の理由が米中の貿易交渉の経過でした。予定通りに合意に向けて交渉が進めば、米国の株高から派生する円安基調が強まるでしょう。さらに、国内のオリンピックムードも加算され日銀の金融緩和を受けて115円あたりまで円安が進むことが期待できます。
米大統領選
そして、もう1つのポイントは米大統領選です。基本的にトランプ大統領は発言に問題がありつつも米国主要株式は3つとも最高記録を更新し続けた実績があります。利下げによるドル売りのリスクは否めませんが、もしトランプ大統領が再選するなら円安に向かう確率は高いです。
対ユーロ
米経済が良好な場合、円の価値が下がるため対ユーロでも同様に円安に進みやすいといえます。
スウェーデンでは12月にマイナス金利を解除しており、ユーロ圏におけるマイナス金利の改善を求める声が高くなりつつあります。ECBが利上げに臨む可能性は否定できないでしょう。そうなれば画期的に円安が進行する要因となりますが、Brexit、ドイツ・イタリア経済の懸念もあり、2020年中に展開が読めない可能性も高く上値は限られてくるでしょう。
2020年は円高が進む?
対ドル
一番直近のネガティブ材料であるイランと米国の対立が戦争へと発展した場合、イランの各兵器保有に対する危惧が現実化してきます。そうなるとドル売りから安全資産である円買いの勢いが止まらなくなる可能性があります。
また、米中貿易交渉が難航したうえに、トランプ大統領が落選したとなれば、米国の不確実性が高まりリスク回避の動きが強まります。日本国内でも将来的な不安が大きくなり消費力・投資力が弱まり円高を加速させる結果となるでしょう。
対ユーロ
米国とイランの関係が悪化した際に、地理的要素からEU圏における悪影響が懸念されます。その場合ユーロ売り円買いが進むでしょう。また、ECBの利下げ拡大、イギリスの合意なき離脱があった場合も円が買われる要因となります。
しかし、ドル売りからユーロ買いに進む動きも予測されるため、対ドルほど円高が進みにくいと見ることができます。
【2020年】FX攻略ポイント
2020年の円相場におけるFX攻略ポイントのキーワードは
- 国内における景気対策・金融緩和
- 東京オリンピックによる経済効果
- 安倍政権の解散・総選挙
- 米国とイランの緊迫度
- 世界経済の深刻なネガティブ要因の有無
- FRB、ECBの政策金利
- EU主要国の政権・財政
- イギリスBrexitの経過
といった内容になります。上記の要点を抑えて、円相場の行方を読むことが2020年の攻略法です。最近の円相場の動向からいけば、107円~109円のレンジがちょうど円高円安の分岐点になっているようで、判断の目安になるでしょう。
まとめ
基本的に東京オリンピックが開催される2020年は日本にとって、国際化を実現するための大きな転機となり得る年です。56年ぶりに訪れるまたとない機会を、少子高齢化で苦しむ日本政府がみすみすと逃すことは考えられません。景気拡大、円安、株高、アベノミクスによる経済効果を狙って最善の努力をすることが期待できます。
かつて、日本が著しく成長を遂げた高度経済成長期も東京オリンピックが開催された翌年からでした。よほどのネガティブ要因がない限り、円安が可能な限り進むと見れるのではないでしょうか。