スワップポイントで人気のトルコリラ。2020年は11月に12.09円の安値を更新した後、2021年現在は14.0円台を回復しています。これからの動きが気になりますよね。コロナウイルスで世界経済が打撃を受ける中、ようやくワクチンの接種が始まり、回復への期待が徐々に市場にも表れ始めています。
トルコリラは2013年から安値を更新し続けています。どこかのタイミングでトレンドの反転が期待されていはいるものの、2020年も安値を更新する結果となりました。トルコリラをはじめとする新興国通貨は地政学的リスクが高く不安定になりやすいのが特徴です。メジャーな通貨に比べて値下がりリスクが数段高くなるため、トレードの攻略ポイントをしっかり押さえておくことが大切です。
【2021年】トルコリラの価値はどうなる?
トルコリラは安値を更新し続けたけど・・・
2021年こそ上昇に切り替わる?それとも、また安値を更新する?
これがトルコリラの、ここ数年の問いかけですよね。
1990年代、かつてのトルコリラは1トルコリラが2,000円の時代もありました。やがて価格は4分1に下がり、10分の1に下がり、ここ数年もトルコリラの価値はひたすら下がり続けています。スワップ狙いの取引でも為替差益にて損失が大きくなる可能性があり、リスクが非常に高いです。ショートで取引するにしても、2021年に反転しないとは断言できないですよね。
対円のトルコリラ相場
2014年を100とした時の対円でのトルコリラ相場の価値は7年間で約70%低下しています。値下がり率を平均すると1年間に概ね10%ずつ低下していることになります。2014年から2015年にかけては上昇していますが、結局は高値に達した後で、トルコリラは長い長い下降トレンドの最中にあるのです。
米ドル円と比較して見ると、どれだけ米ドルが安定していて、どれだけトルコリラの価値が下がっているのかがわかります。
対ドルでのトルコリラ相場
驚きなのが対ドルでのトルコリラの価値です。2014年を100とした場合に、トルコリラは7年間で約260%下がっているのです。2020年11月には280%下がる場面もあります。平均すると1年間で概ね40%近く下がっていることになります。
1年間で40%近くの値動きがあるとすれば、短期間での値動きも期待できて稼ぐチャンスともなり得ますが、代表的なハイリスク通貨です。
【2021年】トルコリラの注目トピック
2021年トルコリラ相場の注目トピックは、
- コロナウイルス
- 金融政策
- GDP成長率
- 地政学的リスク
- エルドアン大統領
以上の5つにポイントを絞ってみました。
5つの注目トピックについて詳しく見ていきましょう。
1.コロナウイルス
2021年、FXトレードで最大のトピックとなるのが、周知のごとくコロナウイルスです。
トルコのコロナウイルスの状況は以下のようになります。
トルコの感染者数・死者数
トルコの感染者数は、2021年1月26日時点で243万5247人、死者数は2万5210人です。
トルコでは2020年11月末に感染者数が集中して増加し、1日あたりの新規感染者数は3万人を超えていました。厳しい入国制限や行動制限を実施することで、短期間で増加を抑えることに成功しており、感染者数・死者数ともに減少傾向にあります。
トルコのコロナ対策
都市間の移動禁止、夜間・週末外出禁止など、感染を封じ込める体制を整え、急増しつつあった感染者数・死者数を抑えたトルコのコロナ対策はWTOからも高く評価されています。
トルコのワクチン接種
トルコは12月初旬から早々にワクチン導入の契約・交渉に入り、2021年1月14日にワクチンの大規模接種が開始されました。トルコ全81県に渡って一斉に体制が整えられています。
ワクチン接種開始の初日には28万人以上が接種を受け、2日目に60万人、7日目には100万人を超え、23日には120万人以上が接種を受けています。
2021年1月26日のロイターによると、国際通貨基金(IMF)は、トルコの2021年の経済成長率を5.0%から6.0%に上方修正したとのこと。新型コロナワクチン接種が開始されたことをポジティブ要因として挙げています。
緊急時に至っての政府の対応が、今後の経済成長を評価する1つの目安となります。トルコの比較的早めの経済回復が見込めそうです。
2.金融政策
次に注視しておきたいトピックは、トルコの金融政策です。トルコは高金利通貨の代名詞でもあり、スワップ狙いでトルコリラを保有する投資家が多いのが特徴です。ほとんどの通貨は金利の影響を受けています。とくにトルコリラの場合は金利の高さが大きな魅力になっていて、為替レートが金利に左右されやすい傾向にあります。
政策金利
トルコリラ政策金利の推移
現在のトルコリラの政策金利は17.0%。ここ10年の枠で見ると高めの設定になっています。主要国に比べると経済が不安定なこともあって、金利の上げ下げが激しいの特徴です。
2014年には4.5%から10.0%に一気に引き上げられ、その後7.50%まで下がっています。注目すべきは2018年から2019年。2018年には、ちょうど、トルコ経済の成長に飛躍が見られ、トルコリラ買いが進んだ年で、8.0%から16.5%へと金利は2倍上昇。その後、米国との摩擦から経済が落ち込み、トルコリラは暴落し、金利は24.0%まで劇的に上昇して市場を驚かせました。
しかし、経済の低迷が落ち着くと政策金利はまた引き下げが連発され、24.0%だった金利はコロナショックと相まって、1年間で3分の1の8.25%まで引き下げられました。そして、また短いペースで一足飛びに金利は17.0%へと向かいます。
もともと金利が高いとの見込みから、市場予想に反して低めの金利が設定されるとトルコリラが急落したり、今回の利下げはトルコの経済成長のサインだということで、金利下げでも高騰したりと、値動きも激しくなりがちです。
そのような激しいトルコリラの値動きに投資家はともすると、振り回されてしまう恐れがあります。政策金利の利下げ・利上げがどのような性質から起きているのかの見極めが難しくもあり、適切に判断することがトルコリラでは欠かせません。
インフレとの関係
トルコの政策金利が目まぐるしく変化するのは、経済が不安定でインフレ率が激しく変動しているからなのです。過度なインフレ率(消費者物価指数)の上昇から、それに見合った政策金利が必要になるため、一気に金利が上下する局面が出てくるわけです。
例えばインフレ率が10%から翌月に倍の20%に上がるということは、50,000円で購入できたスマホが来月は100,000円がないとスマホが買えないということになります。とくにトルコの場合は、消費の向上からくる物価上昇ではなく、通貨安が引き起こすインフレが多いので通貨の価値をあげるために早急な金利の引き上げが起きやすいのです。
上記のように、政策金利と連動する10年債国際利回りとCPI(インフレ率)はほぼ似たような動きを見せています。インフレ率を抑えるためには、トルコリラを保有させなければないりません。トルコリラの保有を促すには金利を上げて、トルコリラの魅力をアピールする必要があるのです。
3.GDP成長率
次に、トルコリラが2021年も下降トレンドを継続していくのか、それとも上昇トレンドに切り替わるのかの判断材料となるのがGDP成長率です。
トルコは、不安定でありながらも数ある新興国の中では、著しい経済成長を見せている国です。
トルコの実質GDP成長率 (前期比年率)
実質GDP成長率は、時に急激に落ち込むことはあるものの基本的に5.0%~10.0%の成長率を維持しています。リーマンショック後の2009年には11.0%を記録したことで、世界的に注目されました。
コロナウイルスで世界経済が落ち込む中、トルコの7月-9月期のGDP成長率は前年同期比で6.7%増、前期比の落ち込みから80%回復しています。G20では最も高い成長率となりました。
経常赤字の拡大
一定以上の経済成長率を維持しているのにもかかわらず、なぜ、トルコリラが下がり続けているのかというと、その答えは貿易収支にあります。トルコは輸出産業が弱く、経常赤字の拡大が続いています。
経常赤字からトルコリラ安が生じ、インフレ率の上昇を引き起こし、インフレ率の上昇がさらに通貨の価値を弱め、通貨の価値が下がることによって国内の消費は低迷。国内の消費が低迷から企業の投資・予算に縮小が生じ、それが輸出産業の弱さにつながるという悪循環が続いています。
地理的優位性
トルコ経済の弱みは、観光業にて収益を上げてはいるものの、他国から大きく秀でる産業や資源がないことです。しかし、トルコは地理的な優位性を持っていることが最大の強みとなっています。
地図で見てもわかるように、トルコは北アフリカ、中東、西アジア、ロシア、欧州のちょうど中間に位置しています。トルコは米国・英国を除く、ほとんどの世界の主要市場が周囲を取り巻いているのです。多方面の国々に容易にアクセス可能なトルコは、古代から非常に重要な貿易のセンターポイントとしての役割を果たしてきました。
フリートレードゾーン
トルコでは、近年、地理的優位性を活かした「フリートレードゾーン」の開発が進んでいます。「フリートレードゾーン」では、関税・法人税・VAT・消費税などが100%免除されます。さらに企業はフリートレードゾーンから何らの規制も受けずに自由に海外に行き来できるため、自動車・機械・衣料品・電気機器・航空関連・エネルギー関連など様々な業種の輸出・投資事業に利用されています。
4.地政学リスク
もう1つ、トルコ経済の弱みになっているのが地政学リスクが高いことです。四方を文化・政治・宗教が異なる国々に囲まれたトルコは、地理的優位性を持つ一方では、他国の紛争に巻き込まれやすい環境にあります。加えて、トルコ国内においても、軍事クーデターや政権の対立などで絶えず内紛のリスクが生じています。
国内の消費者心理の向上やフリートレードゾーンの拡大を狙うにあたって、トルコの地政学リスクの高さが大きな障害となっています。
- ガス田開発をめぐるギリシャ・キプロス、EU諸国との対立
- アゼルバイジャンとのガスパイプラインの争奪戦
- イスラエルとイランの対立
- トルコとアルメニアの対立
- 中東諸国の対立における米国・ロシアの軍事的介入
など、中東はガスや石油の産出国が集中していることで主導権争いが生じやすいことや、数百年前からの軍事・宗教・政権の対立が延々と引き継がれていることから、いつ戦火が飛び交ってもおかしくない環境にあります。そこに、ロシアや米国がからんでくるため、なおさら厄介で複雑な状況に陥りやすく、諸国の問題解決は容易ではないといえます。
トルコ・中東の対立が激化しているのか、鎮静しているのか、解決に向かっているのかがトルコリラの将来を左右していくでしょう。
5.エルドアン大統領
そして、他にも2021年のトルコリラ相場を左右すると思われる注目トピックはエルドアン大統領の存在です。
トルコの国際化に影が
エルドアン大統領は、2003年に選任されてから2021年で18年目の就任期間を迎えます。就任直後は「トルコの国際化」に向けて外交を最重視した政策を執り、中東周辺でも中立的な立場にあり、国民からも高く支持されていました。ところが2011年にシリア内戦が勃発したため、エルドアン政権も否応なしにシリア反体制派に加わる体制へと変わっていきます。地政学的な不安定さからトルコの経済情勢には影が落ち始めます。
2018年8月にはシリア内戦のからみから米国の経済的制裁を受け、トルコショックにてトルコリラは暴落。EU、ギリシャとの関係が悪化するなどで、エルドアン大統領の支持率も低下、トルコ経済は悪化の一途をたどっています。
利下げ方針から利上げ派に転換?
加えて、経済悪化の要因として、エルドアン大統領の「利下げ方針」が指摘されています。エルドアン大統領は利下げによる通貨高を長年に渡って狙ってきましたが、実現せず。
利下げが功を成さない現実から、2020年11月にエルドアン大統領は中銀総裁に、利上げ志向のアーバル総裁を指名しました。金利上昇への期待からトルコリラ買いが進みました。
【2021年】トルコリラ為替相場の見通し
トルコリラは上昇?
トルコリラが上昇するシナリオは、
- コロナウイルスの接種率の加速
- 高金利の実現と維持
- インフレ率の低下
- 経常赤字の改善とGDP成長率の向上
- 地政学リスクの低減
- エルドアン大統領の友好的な外交政策と低金利主義の撤廃
などの項目においてポジティブな展開となった場合、2021年に長年の下降トレンドから抜け出る可能性が出てくるでしょう。
トルコリラは下落?
トルコリラが下落するシナリオは、
- コロナウイルスの接種率の停滞
- 極端な政策金利の引き下げ
- 通貨安によるインフレ率の向上
- 経常赤字の悪化とGDP成長率の低下
- 地政学リスクの拡大
- エルドアン大統領の敵対的な外交政策と低金利主義の維持
などのネガティブ要因が重なれば、トルコリラはさらに安値を更新する恐れがあります。
対円でのトルコリラ相場
2021年1月時点でのトルコリラのファンダメンタルズはそう悪くはありません。迅速なコロナ対策にて感染者数・死者数にもストップがかかり、ワクチン接種も開始されています。市場では2020年のトルコ経済のGDP成長率はマイナスが見込まれていますが、想定より早めの回復に向かうとの見方が優勢です。アバール新体制による金融政策からも、これまでとは違ったトルコリラの展開が期待できるのではないでしょうか。
上昇シナリオにて、トルコリラ円は2020年の安値12.02円まで戻るリスクは低いと見ます。12円台後半を底値として、上昇トレンドが展開するなら、2021年は下値13.00~13.50あたりから上値16.00~16.50あたりまで手堅く推移すると予想します。回復状況によっては、利下げもありで、むしろ利下げが好転のきっかけとなる局面もあるかもしれません。
下落シナリオでは下降トレンド継続のポイントは12.02円。もし下に割れるなら10円台の安値更新も覚悟しておく必要が出てくるでしょう。
対ドルでのトルコリラ相場
米国のコロナウイルスの打撃が大きすぎることと低金利が相まって、米経済が回復に向かうとしても米ドルがもとの強さに戻るには時間はかかるでしょう。前半から中盤にかけては早々に回復を見せているトルコリラが優勢になる可能性があります。ただし、いずれはドルの買い戻しがスピードアップすると思われ、対ドルでのトルコリラ高はある程度限定されてしまうでしょう。
上昇シナリオでは、ドルトルコリラは5.95程度までトルコリラ高が進む可能性ああります。想定レンジは5.95~7.50あたりで推移していくと見ています。
下降シナリオでは、ドルトルコリラは8.40前後がトルコリラ安を更新するかどうかのターニングポイントとなります。もし超えるなら、7.20トルコリラ付近から9.00あたりに向けてドル高が進む可能性があります。
今回の為替予想には、東京オリンピックの先行きは考慮していません。各国のワクチン接種の予定・状況がまだ現時点では何ともいえないからです。日本では2月あたりから接種が開始される予定です。春頃には「中止か実施」か正確に公表される予定です。
仮に東京オリンピックが中止になったとすれば、経済効果が大きいだけに円がらみの通貨ペアはネガティブな影響を与えると思われます。
【2021年】トルコリラの攻略ポイント
- コロナ感染者数・死者数は低下しているか
- ワクチン接種率は向上しているか
- 市場の期待を裏切らない高金利の実現
- インフレ率が低下してきているか
- トルコ経済のGDP成長率はどうか
- 経常収支の赤字は改善されているか
- 地政学リスクが低減されているか
- エルドアン大統領の外交政策と金利の方針
まとめ
天候に恵まれ3つの海洋に面しているトルコでは、今後のトルコ経済を支える新しい分野として、クリーンエネルギーの開発が進められています。
2023年の目標として、
- クリーンエネルギーの比率を全体の30%以上にする
- 風力発電による電力を20,000MWまで増加させる
- 1,000 MWの地熱発電、 5,000 MWの太陽光発電を設置する
- 水力発電の使用を最大限に増やす
などを掲げています。