2020年1月、世界銀行は世界経済見通しで今年度の世界全体の成長率を0.2ポイント下方修正し2.5%と予測しました。下方修正の最も大きな要因として米中貿易摩擦による両国の成長率の低下が世界全体に波及するとの見方です。
2019年度の貿易摩擦の落ち込みは当然EU圏にも直撃しています。さらにEUではイギリスBrexitによる影響も考慮する必要があり、今後のユーロの動きが気になるところです。
イランと米国の対立が早期解決の兆しを見せていることや、年末から米中貿易交渉が合意に向かっているなど、必ずしもマイナス要素ばかりとはいえません。
【2020年】ユーロの価値はどうなる?
日本円や米ドルなど、様々な通貨がある中ユーロ相場はそれぞれの通貨に対して価値が上がったり下がったりしています。実質のところユーロ単体の通貨の価値は全体的には上がっているのでしょうか、下がっているのでしょうか。
通貨インデックスとは、
実効為替レート、通貨指数とも呼ばれる数値で、1つの通貨の価値がその他の通貨全体に対してどれくらい強いのかを表したものです。通貨単体での価値を見ることができます。
2019年のユーロインデックス
ユーロインデックスでの1ユーロは2020年1月9日時点では111.1円。
2019年1月に116円の高値を付けてから、ユーロの価値は緩やかに下がり続けています。10月の底値109.1円をつけた後112.0円まで持ち直し、その後は上昇基調にあります。
次にユーロインデックスとその他主要通貨のインデックスを比較していきます。
ユーロインデックスとその他の主要通貨インデックスとの比較
ユーロの価値の動きを、2019年12月12日を起点にして見てみます。
12月12日は、米中貿易交渉の合意、英総選挙にて保守党が勝利、ECBの金利政策据え置き、と3つの需要ニュースが重なった日です。この日を契機に為替市場をはじめとする様々な金融市場が流れを変え始めました。
12日以降、ユーロは最も狭レンジで価値が推移している通貨で変動がありません。英ポンドは一旦上昇した後、価値が下がっています。米ドルは年始に一旦落ち込んだ後回復に向かおうとしています。年末から年始にかけて価値が最も上昇しているのは日本円。スイスフランは12日以降から上昇をキープしている状態です。
対円でのユーロ相場
対円では、かつて2014年には149円台の高値をつけたこともあるユーロ相場ですが、2018年2月137.49円を最後に価格は下がり続けています。2019年1月に125.94円の高値から、9月には116.41円の底値をつけ、2020年1月初旬は120円から122円のレンジで推移しています。
対ドルでのユーロ相場
対ドルのユーロ相場は2017年から2018年の約1年間で1.060ドルから1.245ドルへと激しく上昇しています。2018年1月に1.245ドルだったユーロはその後9月には1.045ドルまで下がり続けます。現在は1.112~1.117あたりを動いており、まだ上昇の気配は見せていません。
2020年ユーロ相場の注目トピック
2020のユーロ相場の幕開けはイランと中東の対立によって、リスク回避の売りから始まりました。米ドルの次に取引量が多いユーロですが、近年ではイギリスのBrexit、ドイツ・イタリアの政権・財政不安などを筆頭にEUの存続に対する懸念から通貨の価値は弱まっているようです。
本来ならドルの上昇とともに、ユーロも力をつけるところですが、値幅は狭く安定しているものの伸び悩んでいるのが現状です。
ファンダメンタル分析
EU経済の概要
EU経済は2019年の段階では、7年連続で成長を維持していおり、各国での差はあるものの労働市場は以前として堅調、失業率も継続して低下している状況にあります。依然として景気拡大が予想されていますが、成長率の低下が懸念されています。
EUのGDP成長率(対前期比) 米国との比較
実質のGDP成長率が四半期ごとに前期比でどれくらいの比率で上昇しているかを見ると、2018年以降はわずか0.5%未満に留まっている状態です。
年別でのGDP成長率は、2018年度までは2.0%前後を維持していましたが、2019年度の予想では1.4%程度に減少することが予想されています。
失業率
失業率は、2015年度の9.4%から2019年度には6.3%まで低下しています。EU全域に渡って雇用率の回復が見られています。失業率低下しているものの、不本意パートタイム労働者、休職者など潜在的失業者数はさほど減少していないことが注視されています。
インフレ率
2017年から2018年に渡っては1.7%~1.9%のインフレ率を実現しましたが、2019年は1.5%、2020年以降も1.5%程度での上昇が見込まれています。
一般材政府財政収支
政府財政収支は2015年以来、連続してマイナスを記録しています。成長率の低下や一部加盟国の財政難から、今後はわずかな規模ですが収支の悪化が見込まれています。
ユーロ相場の主要経済指標
GDP、失業率、インフレ率、財政収支の他にもチェックしておきたい経済指標は、
- 小売り売上高
- 鉱工業生産指数
- 消費者物価指数
- 貿易収支
- 新車登録
- 株式市場
- 製造・非製造業景況指数
- 10年債金利
など・・・売買タイミングを図る際の参考になるでしょう。
ユーロ圏の主要国
では次に、ユーロの行方を大きく左右するユーロ圏の主要国の経済状況を見ていきます。EUが世界で占めるGDP比率は約22%。そのうちユーロ圏のみでは約16%。ユーロのけん引き役は突出してドイツ、続いてフランス、イタリアとなります。
ドイツの経済状況と主要産業
ドイツはEU連合の議長国でもあり、EU経済・政治を統括する役割を果たす重要なポジションにあります。ドイツの名目GDPは4兆ドルを超え米国、中国、日本に次いで世界4位です。現首相はキリスト教民主同盟党でリベラル派のアンゲラ・メルケル。
ドイツの主要産業は、自動車、機械、化学・製薬、電子、食品、光学、医療技術、環境技術、精密機械など。輸出産業がドイツ経済の約38%以上を占め、とくに自動車・機械類の比率が高く輸出にて貿易黒字を確保しています。
[ドイツ輸出総額]ドイツの輸出総額は堅調に右肩上りで、2019年度1月には1兆2780憶ドルを記録しています。ドイツ単体で見ると、2018年度には四半期ペースで2.0~3.8%あたりの比率で高い成長率を見せる時期もありました。ただ、その後は1.0%以下に低下しており、米中貿易摩擦の影響からEV自動車産業が伸び悩み輸出額はやや減少傾向にあります。
フランスの経済状況と主要産業
ドイツの次にユーロ相場に大きな影響を与えるのがフランスです。現在の大統領はエマニュエル・マクロン。フランスは世界の名目GDP総額において2兆7,800億ドルを超える経済大国の1つで世界6位に位置しています。
[フランスGDP成長率]4半期ごとのGDP成長率は2017年2.9%から徐々に低下。2019年代には1.3%まで落ち込んでいます。ドイツほど低下率は激しくありませんが、EU圏の弱体化の要素の1つになっています。
このように自由と平等の精神をリードするフランスの主要産業を見ていきましょう。
フランスは輸出大国というよりは、内需を主導とした観光に付随するサービス業、ワインなどの農業、航空インフラなどの工業が安定した成長を見せる国です。
ルーブル美術館・ヴェルサイユ宮殿など世界一の国際観光国としての知名度は高く、ユニスコ世界遺産に登録される建造物は750件に及びます。ルーブル美術館だけでも数百億円を越える絵画が幾多も所蔵され、潜在的資産高は計り知れないといえます。
イタリアの経済状況と主要産業
イタリアは名目GDPは約2兆ドル、世界8位の経済大国です。2018年度6月に大衆派ポピュリストのコンデ首相による新政権が発足してからわずか1年で崩壊の危機に陥り、財政赤字拡大が懸念されています。
[イタリアGDP成長率マイナスの危機]イタリア経済の成長率は2017年度の4半期から悪化し始めます。2018年度のコンデ首相の連立政権によって財政赤字の縮小が期待されていましたが、9月、12月とこれまでにないマイナスの成長率となりイタリアの危機となりました。
2019年3月には回復を見せていたのですが、かろうじて0.1%の成長に留まっています。100兆円を超える債務が重しとなり破綻の危機に陥っています。(ギリシャ危機の際の債務は約40兆円でした)
イタリアの主要産業は機械、自動車、鉄鋼、アパレル、観光、サービス業で、合わせてワインやオリーブオイルなどの農業も盛んです。
イギリスのEU脱退
ユーロ相場の先行きに暗い雲を落とす要因の1つがイギリスのEU脱退です。
イギリスがEU連合に加盟したのは46年前。その後もイギリスはユーロを導入せずに自国通貨である英ポンドを途用してきました。しかし、イギリスがEU脱退することによるEU経済、ユーロ相場へのダメージはかなり大きいといえます。
イギリスの名目GDP
イギリスの2018年度の名目GDPは概ね3兆ドル近くに達しており、世界で第5位、EU圏では第2位に位置する経済状況にあります。eurstatの統計によると、EU全体のGDPのシェア率は、ドイツの21.3%、次いでイギリスの15.2%となりEU経済にイギリスが寄与する割合は非常に高いのです。
2019年1月10日、イギリス国会にてようやくBrexitの離脱案に合意が得られました。予定通りに1月末の離脱に向けて展開していく予定です。
ここで、EUはイギリス離脱による経済の穴埋めをすべく、これまでにない画期的な政策、諸国の結束が求められます。EU存続の危機に向けて、EUがどう急場を切り抜けていくのかがユーロ相場回復のポイントになります。
ここで注目しておきたいのが、EUの主要国の動きだけでなく、オランダ、スウェーデン、ベルギーなど、まだまだ成長余地が高いその他の国の存在です。
ECBの政策金利
そして、最後にもう1つ2020年のユーロ為替相場において注目しておきたいのがECBの政策金利です。
EU 消費者物価指数の上昇率
EUのインフレ率はドイツが先導しているものの、目標の2%には遥かに遠く1%下回る状態が続いていました。ただ、12月末からはECBの利上げ効果やスウェーデンの-金利解除などが功をなし、上昇の気配が伺えます。
1月9日のドイツ10年債は0.025ポイント上がり-0.216%まで金利が上がりました。その日のドイツ平均株価指数(DAX)は1.31%上昇、ユーロ相場も対円、対ドルで上昇に向かいました。
【2020年】ユーロ相場の見通し
2020年ユーロは上昇?
まずは、2020年にユーロが上昇するには、どのようなシナリオが考えられるかを解説していきます。
対円でのユーロ相場
ユーロは、米ドルの次に世界で最も取引されている主要通貨です。米国に次いで欧州も世界経済の指標とされる重要な市場です。世界経済の見通しが明るければ米ドルとともにユーロも買われ、逆にネガティブな要因が持ち上がると米ドル・ユーロから日本円に資金が流入します。
ただ、ネガティブな要因が各国にまたがっているため、2020年内は値幅はある程度限られるでしょう。2020年の回復次第で2021年にさらなる上昇が見込めるのでは、というのが個人的な見解です。
対ドルでのユーロ相場
ユーロ相場が上昇するということは、米国経済が安定していることが前提です。従って、ユーロ相場が上がる時にはドルも同時に買われることが多くなります。
ユーロ自体の価値は相対的に弱まっているため、ECBの利上げ、ドイツ・イタリアの財政の回復、EU圏の貿易・産業への新しい、かつ確固たる展望が必要です。対円よりも対ドルでの抗力性は低く、上昇率が限られてくるでしょう。ただし、米国に一時的なネガティブ要因が発生した際には、ドル売りからユーロに流れてくるケースも考慮しておきたいところです。
1.10ドルを下値に1.15ドルあたりまでの上昇が見込めそうです。
2020年ユーロは下落?
次に2020年、ユーロ相場が下落するシナリオも見ておきましょう。
対円でのユーロ相場
ユーロ経済に多少の見込みが見られたとしても、米国の状況によっては世界経済への懸念から円売りが進む可能性があります。ユーロ相場に最も打撃が見られるとすれば、やはりイラン問題と米中貿易交渉です。
イラン問題は一旦解決に向かっているといえますが、中東と米国の対立は今に始まったわけではなく、いつまた再発するか見えない部分もあります。イラン問題が再発した場合ユーロ相場は弱くなります。
そして、EU経済を支えるドイツ輸出産業にとって中国市場なしでの回復は望めません。米中貿易交渉が悪化した際には、EU経済は今以上の痛手を受けることが避けられません。
対ドルでのユーロ相場
対ドルでのユーロ相場の下落は2パターンのシナリオが考えられます。
1つは米経済が好調でもEU圏のマイナス要素が大きくなった場合です。例えば、米中貿易摩擦交渉が合意に向かい、ドイツの輸出産業が持ち直したとしても、イタリアの財政悪化などが原因でEU経済が落ち込む可能性があります。
そして、もう1つは米経済ともにEU経済が低迷した場合です。これは最悪のパターンで世界経済の低迷を意味しています。この場合はドルもユーロも売られることになります。
【2020年】ユーロの攻略ポイント
- 基本的にユーロは今価値が弱まっている
- 外部要因によって左右されやすい状況にある
- EU経済はドイツの輸出産業に支えられている
- イタリア、ドイツ、その他主要国の財政の改善
- 高い経済成長が見込める国、新しい産業への期待
- EU諸国の政権や財政の安定と向上
- イギリスのEU脱退によるネガティブ要素
- ECB政策金利への世界市場の期待
まとめ
経済は、現在や過去のデータよりも将来の展望に向かって動いていくものです。
将来に不安を感じることから消費・投資が停滞、そこから景気が悪化しデフレが進行していきます。将来に不安を感じれば感じるほど、人々の財布の紐は固く閉じられ守りの体制に入っていきます。
逆に将来に希望が持てる時には消費・投資が進み、そこから景気が好転しインフレが進行していきます。将来が明るいと思えば思うほど、人々は財布の中が空であっても何とかお金を用意します。景気は良くなる、そう思い込むだけでもお金の動きは変わってきます。
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