テクニカル分析の基本といわれている「ダウ理論」は、1896年に米国の投資ジャーナリストであるチャールズ・ダウが考案した分析手法。21世紀になった今でも、株式や為替、先物取引において世界中の投資家に使われています。
チャート分析に利用できるインジケーターは数多くありますが、「ダウ理論」の考え方が根底にあるものがほとんど。チャート分析は「ダウ理論」を理解しておくことで、より勝率が高いトレードが実現します。
FXテクニカル ダウ理論
市場の動きとは何とも不可思議なものです。上がっていたかと思えば、ある日突然急落。下がり続けるかと思えば、今度は価格が一気にジャンプし始めるなど、投資家の予想・期待を裏切ることも度々あります。
先のことは、誰にも分かりません。投資家は経済ニュースやチャートをもとに、次の動きをできる限りの範囲で分析する以外に方法はありません。
確かに、将来のことはどんな手法を使ったとしても完全に予測することは不可能です。しかし、市場が一定の原理に基づいて動いているとすればどうでしょうか。その原理を知ることで、次の動きが読めるわけですよね。
これがダウ理論です。
では、ダウ理論の概要をまずは簡単につかんでおきましょう。
ダウ理論とは
ダウ理論は、市場の見方・市場分析の考え方の基盤となるもので、移動平均線やRSIなどのインジケーターのようにチャートに挿入することはできません。
どのように市場を見ればよいのか、次の動きを読むうえでの考え方を教えてくれる理論です。
ダウ理論では、
と提唱しています。
- 市場価格にはすべて織り込まれている
- 相場の動きには3つのトレンドがある
- トレンドの流れには3つの段階がある
- 相場ごとに売りと買いの相関性がある
- 出来高にトレンドが反映されなければならない
- トレンドは転換サインが出るまで継続する
これら6つの原理を理解することで、より正確な相場予想が可能だとしているのです。
ダウ理論の考案者「チャールズ・ダウ」
ダウ理論の提唱者は、米国の経済新聞「ウォールストリート・ジャーナル/ダウ・ジョーンズ社(1889年)」を設立したチャールズ・ダウ/Charles H. Dowです。ちなみに、ダウ・ジョーンズ社はチャールズ・ダウとパートナーのエドワード・ジョーンズの2人が店舗の地下を借りて設立した会社です。
チャールズ・ダウは1851年に米コネチカット州の農家に生まれ、6歳で父親を亡くし、十分な教育を受けることもなく早くから地域の新聞社で働き始めたとのこと。ここで、ジャーナリストとしてのノウハウを学び、世界的に有名な投資アナリスト・経済ジャーナリストへと成長していったのです。
もともとウォールストリート・ジャーナルは、当時ブームとなっていた鉄道関連企業への投資情報紙として生まれ、チャールズ・ダウは投資に役に立つ様々な情報を新聞に掲載していました。
ダウ理論も、1896年にウォールストリート・ジャーナルに掲載された記事の1つです。後年になって著名な投資アナリストたちに注目され、現在に至るまで世界中で使われているチャート分析の基本です。
ダウ理論の基礎知識
ダウ理論では、
とされています。6つの原理とは具体的にどういうことなのか、ここで詳しく見ていきましょう。
原理 1.市場価格にはすべてが織り込まれている
株価や為替レートなどの市場価格には、企業の業績や国の経済情勢、投資家・投資機関の評価や予想、ネガティブなニュースもポジティブなニュースもすべて織り込まれた結果であるとチャールズ・ダウは断言しています。
市場価格は内部者によって先行して動く
とくにダウ理論では、つねに市場価格は一般的な投資家層の予想・見解よりも先行して動く傾向にあるといいます。というのもニュースや経済指標が公開される前に、すでに取引を開始しているインサイダーの存在があるからです。
時々、下がるべきなのに価格が上がり始めたり、上がると思われたのに価格が下がり始めたりするのは、内部の情報通じている投資家・投資機関、ニュース公開前に売買を行っているとのこと。
であるからして、現在の公開されているデータに依存しすぎるよりは、目の前の値動きに沿った方が賢明だと結論しています。
原理2.相場の動きには3つのトレンドがある
トレンド分析という概念が確立したのは、ダウ理論によるところが大きいのです。チャールズ・ダウは、株価の値動きは上がったり下がったりするものの、大きく3つのトレンドを形成しながら推移していることに着目しました。
ダウ理論の3つのトレンドとは、
- メイントレンド(Primary Trend) → 長期間で形成される基軸となるトレンド
- 第2トレンド(Secondary Trend) → メイントレンドとは逆行するトレンド
- 第3トレンド(Pull back Trend)→ ニュースや利確など価格が一時的に落ち込む現象
3つのトレンドの特徴
メイントレンド
株価や為替レートなどの市場価格は、長期的に見て上昇か下降か、1つの流れに向かっているとのことです。長期的な視野でどうなのかを見極めることが大切だとしています。(長期トレンド)
第2トレンド
第2トレンドは、メイントレンドの中で発生する逆向きのトレンドのことです。メイントレンドが上昇なら下降トレンド、メイントレンドが下降なら上昇トレンドが生じる可能性があるとしています。(中期トレンド)
第3トレンド
第3トレンドは比較的に短期間で価格が一時的に下落(上昇)するトレンドのことです。ニュースや利確などで価格が逆行するものの、また元の流れに戻ることが多いのが特徴です。(短期トレンド)
原理3.トレンドの流れには3つの段階がある
さらに、メイントレンドは3つの段階で形成されている、というのがもう1つのダウ理論です。
- 準備段階(the accumulation phase) → トレンドのまえぶれ
- 加速段階(the public participation phase) → トレンドの加速
- 減少段階(the distribution phase)→ トレンドの減少
3つの段階の特徴
準備期間
一部の投資機関・投資家、インサイダーによって、買いや売りが入り始める段階です。
加速段階
ニュースの発表や準備期間における値動きから、一般の投資家層が一斉に売買に参加して値動きが加速する段階です。
減少段階
利確や反対売買によって上昇や下降のピークに達したトレンドの勢いが弱まる段階です。
原理4.市場には売りと買いの相関性がある
ダウ理論の原理4は、異なる市場・商品でも互いに相関性があると指摘しています。
例えば、株価でいえばNYダウとナスダックは連動する傾向にあり、NYダウの上昇がナスダック買いのサインとなり得ます。金と米ドルは相反する傾向にあり、金の上昇は米ドル売りのサインと見なすことができます。
各相場ごとの相関性を掴むことで、より的確な相場予想が可能になるのです。
原理5.出来高にトレンドが反映されるべき
原理5では、出来高にはトレンドの動きが反映されるもので、出来高とトレンドの関係から相場を読むことが可能だとしています。
一般的に、上昇であっても下降であっても、トレンドが加速している時は同時に出来高も増えていくのが正常な状態です。
出来高とトレンドが同時に増えているのか減っているのか、相反して動いているのか、つねにチェックする必要があるとしています。
原理6.トレンドは転換サインが出るまで継続する
そして6つ目のダウ理論は、トレンドは転換サインが出るまで継続する、という原理です。
メイントレンドは基本的に余程インパクトがあるニュースや要因がなければ、流れが変わることはないとダウ理論では見ています。しかし、メイントレンドでも時には第2トレンドが発生して流れが逆行することがあります。
流れが逆行した時に重要となるのが、それが第2・第3トレンドで一時的なものなのか、それともメイントレンドの流れが切り替わっていくのかです。見極めるサインとなるのがメイントレンドの最低値・最高値です。
もし、メイントレンドが上昇トレンドにあり、安値ラインをブレイクした時には下降トレンドに転換する可能性があります。同様に、メイントレンドが下降にあり、高値ラインをブレイクした時には上昇トレンドに転換する可能性があります。更新しなかった場合は、トレンド継続の可能性が高いとのことです。
現在のダウ理論は現代風にアレンジされている
今回ご紹介しているダウ理論について、ひとこと付け加えておきたいのが、19世紀に発表されたオリジナルのダウ理論と現在浸透しているダウ理論は若干言い回しや使われている単語が異なるということです。
というのも、ダウ理論は19世紀の市場が対象となるため、現代にはマッチしない表現があることや、もともとダウ平均の投資方法として紹介されていたため、投資全般で使えるように言い方を変える必要があったからです。
ちなみに、ダウ理論を書籍にして世界に改めて紹介したのは、
1922年:William P. Hamilton 「Dow Theory」
1932年:Robert Rhea 「The Dow Theory」
1961年:Richard Russel 「The Dow Theory Today」
などがあります。
ダウ理論の見方・使い方
ダウ理論の基礎的なことがわかったら、次にダウ理論に基づいたチャートの見方・使い方をマスターしていきましょう。
ここでは、実際にダウ理論の6つの原理をチャートを見ながら解説していきます。
1.チャートの価格を徹底的に見る
ダウ理論で最も基盤となるのが、いかなるデータもすべて市場価格に織り込まれ済みという考え方です。現在の値動きから、過去の動きも将来の動きもすべて見ることができるとしています。
参考例としてECB(英国・中央銀行)が利上げを発表した時のチャートを見てみましょう。
GBPJPY(英ポンド/円) 1Hチャート
上図チャートはGBPJPYの1時間足チャートです。ECBが利上げを発表する前から、すでにチャートは上昇トレンドへと切り替わっています。これは、ECB利上げに対する期待や内部関連情報を知る層が動きだしていることを意味しています。
実際に利上げが発表された時点では、すでに価格は高値をつけていて利上げ発表後にさらに勢いをつけて上昇した、という見方ができます。
2.3つのトレンドの見方・使い方
ダウ理論では、
- メイントレンド(長期トレンド)
- 第2トレンド(逆行するトレンド)
- 第3トレンド(一時的なトレンド)
と3つのトレンドで相場は動いていくとしています。
ダウ理論の3つのトレンドをチャートで見てみましょう。
チャートで見る3つのトレンド
メイントレンドは長期的にどちらの方向に価格が向かっているかを表したものです。基本的にメイントレンドをベースに相場は動いていきます。中長期トレードの場合は、メイントレンドの流れに沿って売買していきます。
第2トレンドは、メイントレンドとは逆の方向に向かうトレンドで、一定期間ごとに出現します。メイントレンドを中長期でトレードする場合は第2トレンドが出現してメイントレンドの下値ラインに触れた時が「買いエントリー」のポイントとなります。
第3トレンドは、メイントレンドの中で一時的に価格が反対方向に向かう短いトレンドのことをいいます。短期トレードでは、この第3トレンドの出現を狙って「買いエントリー」できます。
3.トレンドの流れを3段階で見る
1つのトレンドは、
- 準備段階
- 加速段階
- 減速段階
と3つの段階で見ることができます。
チャートで見る 準備~加速~減速
準備段階は、下降トレンドが底をついたと見る一部の投資家層によって動き始めます。下げが緩慢になり横に動き出したら、上昇に向かい始めるサインです。注意深くこのタイミングを待って、エントリーを狙うことができます。
加速段階は、一般投資家層が価格が上がり始めたのを見て、取引に参加し始める段階をいいます。価格が上がるにつれて参加者が増加・取引量が増加していくため一気に価格が上昇へ加速していきます。上昇の勢いがついたのを確認したうえでエントリーする方法もあります。
減速段階は、価格が一気に上昇に向かった後は利確が入り始めます。また、過熱からくる割高感を察知してショートの注文も入り始めます。この2つの要素から今度は価格が伸び悩みやや下向きに動き始めます。ここから下降トレンドへと切り替わる可能性が高くなるため、このポイントを逃さずに「売りエグジット」または「売りエントリー」を決めます。
4.相関性がある市場を目安にする
異なる市場であっても、1つの市場は他の市場と相関性を持つケースがあることをダウ理論では指摘しています。
参考事例として、ここではUSDJPY(米ドル円)と相関性がある市場をチャートで見てみましょう。
上昇率や細かい値動きなどは異なりますが、概ねで上昇するタイミングや下降するタイミングは、米ドル円、ダウ平均、ナスダック100はほぼ連動する傾向にあります。
なぜなら、米ドルの強さは米経済の強さを表し、米経済の強さはダウ平均・ナスダック100の強さでもあり、互いに相関しているのです。ダウ平均・ナスダックの上昇は米ドル上昇のサインとして見ることができます。
※ただし、状況によってはドル安が株高を促すこともあります。
4.出来高とトレンドの流れを確認
ダウ理論では、出来高の数値とトレンドの勢いは比例する関係にあるとしています。上昇・下降にかかわらず、トレンドが勢いをつけて動くときは等しく出来高も増えていくことが確認されています。
もし、出来高の数値とトレンドの流れがマッチしない時は、トレンドが反転・または横ばいに推移する可能性があるため、様子を見る必要があります。
出来高とトレンドの売買サイン
- 価格は下落/出来高小さい・横ばい → 様子見
- 価格は下落/出来高増・UP → 売りのサイン
- 価格は上昇/出来高増・UP → 買いのサイン
- 価格は上昇/出来高小さい・横ばい → 様子見
6.トレンドの転換サインを確認
基本的に一旦トレンドが形成されると、転換サインが出るまではトレンド内で価格が推移していく、というのがダウ理論の原理6です。
ダウ理論のトレンド転換サインは、安値・高値をブレイクするかどうかが重要なポイントだとしています。チャートにてダウ理論の転換サインを確認してみます。
安値・高値をブレイクしたらエントリー
下降トレンドにあった相場は、高値ラインをブレイクしました。上昇トレンドに切り替わるサインです。同時に、ここで出来高を見てみると、下降トレンドの出来高は減少しています。ということは、下降の勢いが弱まっていることを意味しています。
ちょうど、このチャートの場合は、上にブレイクした時の出来高は増え続けていて、ダブルで上昇サインを得ていることになります。
上昇トレンドにある時は、安値ラインを下にブレイクすると下降トレンドに切り替わるサインです。このチャートでは同様に、出来高が減少を見せていてトレンドの弱まりを教えてくれています。
もちろん、ダウ理論がトレードのすべてではありませんし、投資家によって解釈の仕方も若干違ってきます。どのように解釈してどのように使うのかは投資家の判断となります。
勝つためのダウ理論トレード手法
では、最後に勝つためのダウ理論トレード手法をご紹介しておきたいと思います。
ダウ理論の実践で一番活用しやすいのが、トレンドの準備期間にある相場を見つけてエントリー、そしてトレンドの減速期間でエグジットする方法です。このケースでもその他のダウ理論を同時に判断材料にすることもできます。
具体的なエントリー・エグジットのポイントを見ていきましょう。
ダウ理論でエントリー・エグジット
- 下降トレンドをブレイクしていますので、トレンド転換のサインでここで「買いエントリー」する方法もあります。しかし出来高をチェックしてみるとサインはやや曖昧です。手堅いエントリーを狙うならちょっと様子を見てみます。
- 価格は横ばいに推移し、上昇トレンドへの準備期間に入っていることがわかります。そろそろ手堅いエントリーが狙えるタイミングです。出来高をチェックするなら、まだ怪しいところ。出来高が増え始めた時点で「買いエントリー」を決めます。
- 予想どおりに、上昇トレンドが加速し始めました。出来高をチェックしてみると高い数値を維持しています。しばらくサインが出るまで待ちます。価格は一気にジャンプして、そこから伸び悩みを見せています。出来高は大きく減少に向かいます。トレンドの減速期間です。ここで、迷わず「売りエグジット」を決めて利確です。
まとめ
ダウ理論とか聞くと、思わず難しく考えてしまいがちです。自分にはわからないと思いこんでしまう方もいるでしょう。確かにダウ理論は英語が基本となっているため、翻訳の仕方などで非常にわかりづらい表現が使われているものもあります。
たまたま読みづらい翻訳版を参考にしてしまうと、やっぱり自分には難しかったという結果になっていまいます。オリジナル版が英語の場合は、選ぶ翻訳書によって内容や読んだ時のイメージは全く異なります。
もっと詳しく知りたい方は、Amazon・楽天でも色んなタイプのダウ理論の本を探すことができます。試し読みで内容をチェックしてから自分に合った内容の本を参考にしてみるとよいでしょう。