FXで建玉を複数持つときの合計リスク|想定損失と必要証拠金の2つの上限
建玉ごとの想定損失を足せば合計リスクが出ますが、その足し算が成立するのは合計の証拠金維持率がロスカット率に届かない間だけです。通貨単位での重なりの数え方、両建てのMAX方式、口座単位で全建玉が決済される仕組みを各社の公表記載から確かめます。
建玉を複数持っているときの合計リスクは、建玉ごとの想定損失を足して出します。1つの建玉の想定損失は「建値と損切り値の差 × 取引数量」で、決済通貨が円以外ならそれを円へ換算します。3つ持っているなら3つ分を足すだけです。
ただし、この足し算が合計リスクとして成立する条件があります。損切り注文が想定した価格で約定し、合計の証拠金維持率がロスカット率に届かない間だけです。口座には性質の違う上限が2つあって、1つは想定損失の合計、もう1つは必要証拠金の合計です。どちらが先に効くかは建玉の組み合わせで変わり、先に効くのは必要証拠金の側であることが珍しくありません。
この記事では、仮定の3建玉を使って合計の出し方を数字にします。そのあと、必要証拠金の合計が「失う可能性のある金額」を表していないこと、通貨単位で数え直すと建玉が同じ方向に重なっていること、ロスカットが口座全体で判定されて全建玉が決済されることを、各社が公表している取引ルールの記載で確かめます。1回の取引での損切りと利確の決め方はFXのリスクリワードとは|計算方法とスプレッドで変わる実際の比率で扱っています。
合計リスクは、建玉ごとの想定損失の足し算から出します
まず1建玉ぶんを出します。使う値は4つで、通貨ペア、売買の方向、取引数量、そして建値と損切り値です。
仮定を置きます。口座資金(有効証拠金)は30万円、証拠金率は4%、建玉は次の3件です。以下は仕組みを確かめるための仮定の計算で、特定の会社の条件や現在の相場を示すものではありません。
使うレートは3本で、いずれもFrankfurterが公開する2025年1月2日の日次参照レートです(米ドル/円157.00円、ユーロ/米ドル1.0321ドル、ユーロ/円162.04円。取得日2026年10月1日)。この3本は互いに整合していて、162.04 ÷ 1.0321 は157.0になります。なお、当サイトが2026年8月15日に保存した同じ日付の米ドル/円は157.12円で、この記事の値とは一致しません。計算を再現するときは、取得日が同じレートの組で揃えてください。
| 建玉 | 通貨ペア・売買 | 取引数量 | 建値 | 損切り値 | 値幅 | 想定損失 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 米ドル/円 買い | 1万通貨 | 157.00円 | 156.50円 | 50pips | 5,000円 |
| B | 米ドル/円 買い | 2万通貨 | 157.00円 | 156.70円 | 30pips | 6,000円 |
| C | ユーロ/米ドル 売り | 1万通貨 | 1.0321ドル | 1.0371ドル | 50pips | 7,850円 |
| 合計 | - | - | - | - | - | 18,850円 |
建玉Cだけ計算の段が1つ多くなります。値幅0.0050ドル × 1万通貨で50ドル、これを1ドル=157.00円で換算して7,850円です。ドルストレートの損失はドルで出るため、円の口座では換算が必要になります。1pipsがいくらになるかはFXの1pipsはいくら?ドル円などで具体的に計算、換算で掛けるか割るかの判断は為替換算のやり方は?掛けるか割るかの決め方で扱っています。
合計は18,850円で、口座資金30万円に対して6.3%です。ここまでは単純な足し算で、電卓1つで出せます。
問題は、この18,850円が何を意味しているかです。これは3つの損切りがすべて想定どおりに約定したときの損失であって、起こりうる損失の上限ではありません。足し算が成立する前提は3つあります。
- 3つの損切り注文が、指定した価格で約定する
- この3件のほかに建玉を足さない
- 合計の証拠金維持率が、ロスカット率に届かない
このうち3番目が、複数建玉のときにいちばん見落とされます。次の節で数字にします。約定した価格で損益を再現する手順はFXの決済損益の計算式は?口座の表示と自分の計算がずれる6つの原因で扱っています。
必要証拠金の合計は、失う可能性のある金額ではありません
同じ3建玉について、必要証拠金を出します。金融先物取引業協会は、個人顧客を相手方とする店頭FXについて「取引の額(いわゆる想定元本)に4%を乗じた額」を維持必要預託額として説明しています(2026年10月1日確認)。ここでは下限の4%を置きます。
| 建玉 | 想定元本の円換算 | 必要証拠金(4%) |
|---|---|---|
| A | 1,570,000円 | 62,800円 |
| B | 3,140,000円 | 125,600円 |
| C | 1,620,400円 | 64,816円 |
| 合計 | 6,330,400円 | 253,216円 |
建玉Cの想定元本は、1万ユーロをユーロ/円162.04円で換算した1,620,400円です。合計の必要証拠金は253,216円で、口座資金30万円に対する証拠金維持率は118.5%になります。
ここで2つの数字が並びました。想定損失の合計が18,850円、必要証拠金の合計が253,216円です。同じ建玉から出てくるのに、桁が1つ違います。理由は、必要証拠金が想定元本から決まる値で、損切りをどこに置いたかをまったく見ていないことです。
このことから、合計リスクの管理には性質の違う上限が2つあると分かります。
- 想定損失の合計:損切りをどこに置くかで決まる。口座資金に対する割合で管理する
- 必要証拠金の合計:取引数量と算出レートで決まる。口座資金そのものが上限になる
どちらが先に効くかは構成によります。先の3建玉をそのまま3倍の数量にすると、想定損失の合計は56,550円(口座資金の18.9%)ですが、必要証拠金の合計は759,648円です。30万円の口座では、そもそも足りません。逆に、数量を抑えて損切りを遠くに置けば、証拠金には余裕があるのに想定損失だけが膨らみます。必要証拠金そのものの決まり方は必要証拠金の額はどう決まる?証拠金率・算出レート・判定時刻の3点で扱っています。
両建てでは、証拠金が増えないまま建玉が2つになります
必要証拠金の合計を数えるときに、単純な足し算にならない場合があります。同じ通貨ペアで売りと買いを同時に持つ、いわゆる両建てです。各社の公表記載を並べます。
| 会社・サービス | 公表されている記載 |
|---|---|
| GMOクリック証券(FXネオ) | 「同一通貨ペアの両建時における必要証拠金の計算方法はMAX方式となります。」 |
| 松井証券(MATSUI FX) | 「通貨ペア毎に売買区分別のポジション必要証拠金・注文証拠金を算出し、大きい方を採用します」 |
| 外為どっとコム(外貨ネクストネオ) | 「両建てとなっている通貨ペアにおいて、売り買いそれぞれの合計Lot数を比較して、いずれか大きい側の合計Lot数で必要保証金額を算出する方式」 |
| SBI FXトレード | 「両建て時の取引必要証拠金は、取引数量が多いポジションに、ただし売りと買いが同数量の場合には、取引金額の多いポジションにのみ必要になります。」 |
いずれも各社の公式ページの記載で、確認日は2026年10月1日です。並び順は評価ではなく、本文で触れる順です。確認できた4社はいずれも、売りと買いの両方に別々の証拠金を求める方式ではありませんでした。
MAX方式は、価格が動いたときの評価損益が売りと買いで打ち消し合うことに対応した数え方です。ただし、合計リスクが消えるわけではありません。決済のたびにスプレッドのぶんのコストが生じ、スワップポイントの受け払いは建玉ごとに発生します。
さらに、片方を決済した時点から、残った建玉は一方向の値動きにさらされます。MAX方式では必要証拠金が変わらないか減るため、維持率の表示は改善しているのに、評価損益の振れ幅だけが大きくなっている状態になります。両建てを外す順番は、合計リスクを数え直してから決めてください。
通貨で数え直すと、3つの建玉が同じ方向に重なっています
ここまでは建玉を単位に数えてきました。もう1つ、通貨を単位に数え直す作業があります。通貨ペアは2つの通貨の組み合わせなので、1つの建玉は「ある通貨を買って、別の通貨を売る」という2つの向きに分解できます。
先の3建玉を分解します。
建玉Cはユーロ/米ドルの売りなので、ユーロを売ってドルを買う向きです。建玉AとBは米ドル/円の買い、つまりドルを買って円を売る向きです。通貨ペアの名前が違っても、3件はすべてドル買いの側に並んでいます。合計すると40,321ドル分です。
これが合計リスクの受け取り方に効いてきます。「通貨ペアを分けているから、3件が同時に損切りになることはない」と考えると、18,850円という合計を、実際より起こりにくい数字として扱うことになります。ドルが下がる場面では、3件が同じ向きに逆行します。
ここで注意したいのは、当サイトは通貨ペア同士がどの程度同じ方向に動くかを測った数値を持っていないことです。相関の数字は示しません。示せるのは、建玉を通貨へ分解すれば重なりが機械的に見えるという点だけです。分解に使うのは建玉の数量と換算レートだけなので、口座の建玉一覧があれば誰でも同じ結果を再現できます。
ロスカットは口座全体で判定され、全建玉が決済されます
3つめの前提に戻ります。合計の証拠金維持率がロスカット率を下回ると、損切り値に届いていない建玉まで決済されます。判定の単位と決済の範囲を、各社の記載で確かめます。
| 会社・サービス | 維持率の呼び方と計算式 | ロスカットの水準 | 決済される範囲 |
|---|---|---|---|
| GMOクリック証券(FXネオ) | 証拠金維持率「時価評価総額 ÷ 必要証拠金」 | 「時価評価総額が取引金額の2%に相当する日本円額を下回った場合」 | 「発注中の全注文をキャンセルし、建玉の反対売買を行います」 |
| 松井証券(MATSUI FX) | リアルタイム維持率「(総資産-注文証拠金)÷ポジション必要証拠金×100」 | 個人は50%・60%・70%・80%・90%から選択(法人は100%) | 「すべての建玉(自動売買の建玉含む)を強制決済します」 |
| 外為どっとコム(外貨ネクストネオ) | 有効比率(有効評価額÷必要保証金額) | ロスカットレベルを100%〜50%の間で10%刻みに設定 | 「全ポジションを強制決済」 |
いずれも各社の公式ページの記載で、確認日は2026年10月1日です。読み取れることが2つあります。
1つは、どの計算式も分母が必要証拠金の合計で、分子が口座全体の評価額だということです。建玉ごとの維持率という考え方は出てきません。したがって、1つの建玉の評価損は、ほかの建玉の決済条件を直接動かします。維持率そのものの読み方はFXの証拠金維持率とは?100%・200%の意味で扱っています。
もう1つは、松井証券の式が総資産から注文証拠金を引いていることです。未約定の注文も証拠金を押さえるため、まだ約定していない指値注文が合計の数え方に入ってきます。合計を数えるときは、建玉一覧だけでなく注文一覧も見てください。
先の3建玉で、右側へ入るのがどのくらい遠いかを計算します。ロスカット率を50%とすると、判定に引っかかるのは有効証拠金が126,608円(必要証拠金253,216円の50%)を下回ったときです。口座資金30万円からの評価損に直すと173,392円で、これは合計想定損失18,850円の9倍以上あります。
つまりこの構成では、損切りが先に働くはずの位置にいます。右側へ入るのは、損切り注文を置いていない建玉がある場合、最初から維持率が低い場合、そして次の節で見るように損切りが想定の価格で約定しない場合です。
ロスカットは、損失額を限定する仕組みではありません
ここまでの計算は、すべて「注文が指定した価格で約定する」という前提の上にあります。この前提は保証されていません。
金融先物取引業協会は、ロスカットを「損失が一定の水準に達した時に自動的に取引を終了させて、証拠金以上の損失発生を防ぐ仕組み」と説明する一方で、「いかなる場合にも一定の損失額に限定されるものではありません」と明記しています。理由として、損失の額が予め決められた水準に達した時からロスカット実行の手続きが始まるため、判定と実行のタイミングの差で想定していた損失より大きくなる場合があること、為替レートの急激な変動やスプレッドの拡大など相場の状況によっては証拠金以上の損失が発生してしまう場合もあることを挙げています(2026年10月1日確認)。
同協会はFX取引の主なリスクとして、相場急変時には「損失拡大を抑制するためのロスカット機能が十分に発動せず、場合によっては預託した証拠金以上の損失が発生することがあります」とも説明しています。さらにシステムリスクの項目では、「市場の実勢価格とかけ離れたレートで約定される」可能性に触れています(いずれも2026年10月1日確認)。
この2点を合計リスクの計算に戻すと、次のように整理できます。
- 18,850円という合計は、想定どおりに約定したときの損失であって、最大損失ではありません
- 建玉の数を増やすほど、同時に想定どおり約定しない建玉の数も増えます
- だから合計リスクは、口座資金に対して余裕を持った割合に収めておくほかにありません
証拠金を超える損失が起こる経路はFXで入金額以上に損することはある?急変時のリスク、強制決済そのものの流れはFXのロスカットとは?強制決済される仕組みで扱っています。
なお、維持率が足りなくなったときに取れる手段は限られています。金融先物取引業協会は、証拠金率判定時刻における実預託額が維持必要預託額に不足する場合、「速やかに(1営業日といった事務処理に通常合理的に必要な期間内に)顧客に預託させる方法又は顧客に既存取引の一部を決済させる方法により当該不足額を充当するか、もしくは全部決済を行わなければなりません」と説明しています(2026年10月1日確認)。増やす側(入金)と減らす側(一部決済)の2つで、建玉をそのまま持って維持率だけを上げる方法はありません。
自分の口座で合計リスクを数える手順
最後に、ここまでの内容を実際の口座で行う作業に落とします。見る場所は5つです。
| 手順 | どこで見るか | 書き留める値 |
|---|---|---|
| 1 | 建玉一覧 | 通貨ペア・売買・数量・建値、損切り注文の値 |
| 2 | 注文一覧 | 未約定の注文と、それが押さえている証拠金 |
| 3 | 取引ルール・取引説明書 | 証拠金率、両建ての計算方法、維持率の計算式 |
| 4 | 口座設定 | 自分が選んでいるロスカット率 |
| 5 | 自分の電卓 | 想定損失の合計、必要証拠金の合計、現在の維持率 |
手順1から4までは転記だけで終わります。手順5で出した3つの数字を、2つの割合として見ます。1つは想定損失の合計 ÷ 口座資金、もう1つは口座資金 ÷ 必要証拠金の合計(=維持率)です。新しい建玉を足すかどうかは、この2つを計算し直してから決めます。
割合が妥当かどうかは、過去の資金の減り方と突き合わせると判断しやすくなります。資金が最高値からどれだけ減ったかの測り方と、減った資金を戻すのに必要な利益率はFXのドローダウンとは|資金の減り方と回復に必要な利益率で扱っています。
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- 編集部による確認日
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金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」
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