カバー取引とは?FX業者が銀行等へ出す注文と未カバー率の読み方

カバー取引は、FX業者が顧客の注文に応じて銀行等へ同様の注文を出し、リスクをヘッジする取引です。マリー取引との関係、未カバー率など法令で開示が義務づけられた3つのリスク情報の読み方を、自主規制団体と金融庁の記載で整理します。

本記事は情報提供を目的としたもので、投資判断を勧誘するものではありません。FXには元本割れのリスクがあります。

カバー取引とは、FX業者が顧客の注文に応じて、自分も銀行等の金融機関へ同様の注文を出し、リスクをヘッジする取引です。金融先物取引業協会は「FX業者は、顧客の注文に応じて、自らも銀行等の金融機関に対して、同様の注文を行い、リスクをヘッジしています。このヘッジ取引のことを、カバー取引といいます」と説明しています。顧客が出す注文のことではありません。顧客の注文を受けた業者が、その後ろで出している別の注文です。

この言葉が読者の側に出てくるのは、各社のサイトに置かれた「未カバー率」「カバー取引の状況」といった項目です。なぜ業者がそのような数字を毎月公表しているのか、公表されている数字を何のために見ればよいのかは、カバー取引の位置づけを知らないと判断できません。

以下では、店頭FXが相対取引であることからカバー取引が必要になる理由を押さえ、社内で売りと買いを突き合わせるマリー取引との関係、カバーに出していない部分が何を意味するのかを確認します。そのうえで、法令で開示が義務づけられた3つのリスク情報と、その制度が整うまでの年月を、自主規制団体と金融庁の記載だけで整理します。どの会社の未カバー率が低いかという比較はしません。各社の公表値は毎月入れ替わり、ここで数値を書いても読者が同じ結果を再現できないためです。

相対取引だから、業者は同じ注文を銀行等へ出している

カバー取引が必要になる理由は、店頭FXの取引相手が誰なのかという点にあります。金融先物取引業協会は、取引所を介さずに当事者間の合意で成立する取引を相対取引と呼び、店頭FXも顧客とFX業者の相対取引であると説明しています。注文を取引所へ流して他の参加者と突き合わせるのではなく、業者自身が売買の相手方になります。

同協会は、ここから生じる関係をこう書いています。「店頭FX取引では、顧客とFX業者が直接取引(相対取引)を行いますので、店頭FX取引による顧客の利益は、そのままではFX業者にとって損失となってしまいます。そこで、FX業者は、顧客の注文に応じて、自らも銀行等の金融機関に対して、同様の注文を行い、リスクをヘッジしています」。

左に顧客、中央にFX業者、右に銀行等の金融機関を置き、顧客と業者の間を相対取引、業者と銀行等の間をカバー取引として双方向の矢印で結び、下段に顧客の利益が業者の損失になることと同様の注文を出してヘッジすることを並べた関係図
売買が2段に並んでいることを示した図です。左の1段が顧客と業者の相対取引、右の1段が業者と銀行等のカバー取引で、読者が直接関わるのは左の1段だけです。下の帯は、相対取引では両者の損益が反対向きになることと、業者がその向きを打ち消すために同様の注文を出すことを対比しています(金融先物取引業協会の記載を2026年10月23日に確認)。

図の左右を分けて読むと、自分の注文が成立することと、業者がカバー取引を終えていることが別の出来事だと分かります。顧客から見れば売買は約定した時点で完結しますが、業者の側のリスクはその時点ではまだ残っています。この時間差が、後で出てくる未カバー部分の正体です。

店頭取引と取引所取引で相手方がどう変わるかは、店頭FXと取引所FXの違いで扱っています。カバー取引の相手方になる銀行等が売買している層そのものは、インターバンク市場とはにまとめました。

社内で相殺できた分は、カバー取引に出ていない

業者が顧客の注文をそのまま全額カバーしているとは限りません。協会は「全てのFX業者が同じようにカバー取引を行っているわけではなく、どのような頻度でどのような額をカバー取引しているかは、FX業者によって異なります」と書いています。ディーラーが注文状況と相場を見ながら行う会社もあり、ディーラーを置かずにシステムで自動的に行う会社もある、という説明が続きます。

カバー取引の手前に置かれているのがマリー取引です。協会の定義は「FX業者が自社内で顧客の同一通貨の売り注文と買い注文を結びつけることによって持高を相殺すること」です。売りと買いが同じだけあれば、業者の持高はその分だけ消えます。外へ出す必要がなくなるのは、外へ出す理由だった持高が社内で消えているからです。

言葉 協会の説明 どこで行われるか
相対取引 取引所を介さずに当事者間の合意で成立する取引 顧客とFX業者の間
マリー取引 FX業者が自社内で顧客の同一通貨の売り注文と買い注文を結びつけ、持高を相殺すること FX業者の社内
カバー取引 顧客の注文に応じて、自らも銀行等の金融機関へ同様の注文を行い、リスクをヘッジする取引 FX業者と銀行等の間
未カバー部分 顧客注文を成立させる一方で、同じ数量のカバー取引を行っていない部分 FX業者の持高として残る

協会は、この順序を数量の例で示しています。ドル円で買い注文が50万通貨、売り注文が40万通貨あるとき、業者は各40万通貨を相殺でき、相殺できなかった買い10万通貨をカバー取引すればリスクをヘッジできる、という例です。

ドル円で買い50万通貨と売り40万通貨の注文があるとき、各40万通貨をマリー取引で相殺し、残る買い10万通貨をカバー取引に出すまでを4つの数値カードで並べ、下段に買い注文50万通貨の内訳を相殺した分と未カバー分の2区間に分けた帯で示した計算図
協会が挙げている数量の例を、注文、相殺、残り、カバーの4段に分けて追った図です。下の帯は買い注文50万通貨の内訳で、左が社内で相殺できた40万通貨、右がカバーに出す10万通貨にあたります。この数量は仕組みを示すための例示で、実際のカバーの頻度や金額は業者ごとに異なります(金融先物取引業協会の記載を2026年10月23日に確認)。

協会は、カバーが済んでいない状態についても踏み込んで書いています。「FX業者が顧客注文を成立させる一方、金融機関に対して同じ数量のカバー取引を行っていない間は、その分だけ顧客との間に利益相反関係が残るとも言えます」。そして「このような未カバー部分については、FX業者自身のホームページで毎月公表されています」と続きます。

ここは読み違えやすいところです。未カバー部分があること自体は、協会の説明の中で異常として扱われていません。カバーの頻度と金額が業者ごとに異なると書かれているとおり、どこまで外へ出すかはビジネスモデルの違いです。公表が求められているのは、その違いを読者の側から確かめられるようにするためです。

カバー先と価格生成の仕組みが違うから、配信レートは各社で違う

カバー取引の話は、画面に出ているレートの話にもつながっています。協会は「店頭FX取引では、FX業者のビジネスモデルにより価格生成の仕組みは異なります。そのため、配信レートは各社ごとに異なると言われています」と書いています。同じ時刻に同じ通貨ペアを見ても、会社ごとに数字が違う前提です。

この前提は、過去の値動きを材料にする分析の側にも効いてきます。元になる価格が各社で違えば、同じ指標を同じ設定で表示しても値が一致しない場面が出ます。その切り分け方はテクニカル分析とはで扱いました。売値と買値がそもそも2つ提示される理由はBid(ビッド)とAsk(アスク)の違い、その差が生まれる仕組みはFXのスプレッドはなぜ発生するかにあります。

「配信レートが各社で違う」と「どこかの会社のレートが正しい」は別の話です。協会の記載は、生成の仕組みが異なるという事実を示したもので、優劣を比べたものではありません。自分が使う会社のレートで約定するのだから、確認する先は自分の口座がある会社の取引ルールになります。

法令で開示が義務づけられた3つのリスク情報

未カバー部分の公表は、各社の自主的なサービスではありません。協会は、過大な未カバーポジションを保有する店頭FX業者は為替相場が急変動するとその影響を受け、多大な損失を被る可能性があるとしたうえで、決済リスクへの対応という観点から3つのリスク情報について適時開示することが法令により義務づけられたと書いています。

開示が求められる項目 協会が挙げている理由
未カバー率 カバーされていないポジションは、為替相場の変動の影響を直接受けることになります
カバー取引の状況 カバー取引先が破綻した場合には、再構築コストなどが発生することになります
平均証拠金率 証拠金率が低い場合には、顧客未収金リスクが大きくなります

3項目が見ている相手は、それぞれ違います。未カバー率は相場そのもの、カバー取引の状況はカバー先という第三者、平均証拠金率は顧客の側です。1つの数字を見ただけでは、どのリスクについて何が分かったのかを言えません。

協会は、この3つを各社がホームページで公表しているとし、店頭FX取引を行うにあたってこのリスク情報を確認することは、取引相手先の信用状態を把握するための有効な手段の1つとして考えられる、と結んでいます。目的は相手方の信用状態を知ることであって、会社を点数で並べることではありません。当サイトは、この3項目を根拠にした順位やおすすめを作りません。各社の公表値は月ごとに入れ替わり、同じ順位を読者が再現できないためです。

規制が整うまでの経過を、年月で押さえる

3つのリスク情報が義務になったのは、ある時点の判断の結果です。協会の説明をたどると、相場の急変をきっかけに業界側の取組みが先に進み、その後で金融庁の検討会と内閣府令の改正が続いた、という順序になっています。

協会は、2015年1月のスイスフラン・ショック以降、FX取引を取り扱う会員における為替リスク管理態勢の整備・強化に向けて取り組んできたとしています。各社共通の実施要領によるストレステストを2016年2月と2017年4月に実施し、協会規則でストレステストの継続的実施等を義務付けた(2017年10月施行)という流れです。

そうした中で、金融庁は2018年2月に「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」を設置しました。金融庁の公表によれば、検討会は平成30年2月より計6回にわたり検討を行い、報告書は平成30年6月13日に公表されています。協会は、報告書に示された課題を、ストレステストを通じた自己資本の拡充、取引データの報告制度の充実、未カバーポジションの情報開示(リスク情報開示)の3点として挙げています。

縦の時間軸に沿って、2015年1月のスイスフラン・ショックから、協会のストレステスト実施と規則施行、2018年2月の有識者検討会の設置、2018年6月13日の報告書公表、2019年の内閣府令改正によるストレステストの義務付けと取引情報の保存・報告の義務付けまでを7段で並べた時間軸の図
縦軸が時間です。上の3段が自主規制団体側の取組み、下の4段が金融庁側の対応にあたります。内閣府令の改正には施行日と適用日が別に置かれているため、2段で示しました。3つのリスク情報の開示そのものについては、協会の説明に施行日が書かれていないため、図にも入れていません(金融先物取引業協会と金融庁の記載を2026年10月23日に確認)。

図で分けたとおり、施行日と適用日は別の日付です。協会は、ストレステストについて内閣府令の改正が2019年4月1日施行・2020年1月1日適用であり、協会規則は2019年3月25日制定・2020年1月1日施行だと書いています。取引データの報告については、内閣府令の改正が2019年8月1日施行・2021年4月1日適用、協会規則は2019年8月20日制定・2021年4月1日施行です。

この経過を押さえておくと、各社が公表している数字が「親切で出しているもの」ではないことが分かります。協会は、金融庁が年間取引規模が5,000兆円程度まで拡大した店頭FX取引について、仮に店頭FX業者が破綻すれば顧客やカバー取引先に大きな影響があるほか、外国為替市場や金融システムにも影響を及ぼし、システミックリスクに繋がる可能性を有しているのではないかと考えた、と記しています。開示はその検討から出てきた仕組みです。

証拠金の信託保全と、カバー先の破綻は別の話

ここで混ざりやすい2つのリスクを分けておきます。預けた証拠金の扱いと、カバー先の破綻は、別の仕組みで扱われています。

協会は、顧客がFX業者に預託する証拠金について、店頭FXの場合は法令に基づき信託会社または信託銀行へ金銭信託することになっていると説明しています。これは業者側に預けた資金についての仕組みです。各社の公式ページでの書き方と、確認できた範囲の違いはFX会社の信託保全の比較にまとめました。

一方、3つのリスク情報の「カバー取引の状況」が見ているのは、業者の相手方であるカバー先です。協会が挙げている理由は、カバー取引先が破綻した場合には再構築コストなどが発生することになる、というものでした。破綻するのが自分の取引相手ではなく、その先の相手でも、業者の損失として跳ね返る可能性があるという話です。信託保全の記載を確認しても、この経路は確認できません。

確認したいこと どの仕組みが関係するか 確認する場所
預けた証拠金が分けて管理されているか 法令に基づく金銭信託 各社の取引概要・契約締結前交付書面
相場の急変で業者が損失を被らないか 未カバー率 各社が公表するリスク情報
業者の取引相手が破綻したときの影響 カバー取引の状況 同上
顧客側の未収金が生じにくいか 平均証拠金率 同上

4行を並べると、確認する場所が2種類に分かれていることが見えます。1行目は取引を始める前に読む書面、残りの3行は毎月更新される公表値です。前者は1回読めば足りますが、後者は時点のある数字です。

取引の相手方を自分で確認する手がかり

カバー取引の相手方そのものも、読者が確認できる情報として位置づけられています。金融庁の「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」は、IV-3-3-2(8)⑤で「金商業等府令第94条第1項第1号に規定する「カバー取引相手方」については、複数のカバー取引相手方がある場合は、その全てを提供することとする」としています。同府令第94条は、店頭デリバティブ取引契約に係る契約締結前交付書面の記載事項の特則を定めた条文です。

同じ箇所には、銀行間外国為替市場の参加者が当該取引をインター・バンク市場において行う場合等であって、あらかじめカバー取引相手方が特定できない場合には、その旨を提供すれば足りるとする例外も置かれています。相手方の名前が書かれていないことが、ただちに不備を意味するわけではありません。どちらの形で書かれているかを読み取るところまでが、読者にできる確認です。

業者そのものの登録状況は、金融庁が別に案内しています。同庁は、FX取引は金融商品取引法の登録を受けた業者でなければ行うことができないとして、無登録業者からの勧誘に注意を促し、登録業者と警告を行った者の一覧を公開しています。あわせて、この取引を「差し入れた証拠金以上の多額の損失が生じるおそれのある非常にリスクの高い商品です」と説明しています。

金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」の公式ページ
金融庁のページを引用したキャプチャです。 店頭FXが相対取引であること、登録を受けた業者でなければ行えないこと、証拠金を上回る損失が生じるおそれがあることは、このページに書かれています。登録業者と警告対象の一覧もここから辿れます。ページの内容は改定されることがあるため、実際の記載はリンク先で確かめてください。出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」。確認日は2026年10月23日です。

登録の確認と、リスク情報の確認は役割が違います。前者はそもそも取引してよい相手か、後者はその相手がどの程度のリスクを抱えているかです。2つを1回の作業にまとめないほうが、何を確かめたのかを後から思い出せます。

カバー取引を踏まえて、取引の前に決めておくこと

カバー取引は読者が操作できるものではありません。できるのは、確認の手順を自分で決めておくことです。順序を決めておけば、公表値が更新されたときに何を見直せばよいかが分かります。

  1. 口座を開く前に、契約締結前交付書面でカバー取引相手方の記載を読む。名前が並んでいるのか、特定できない旨が書かれているのかを見分けます
  2. 同じ書面で、証拠金の信託先に関する記載を読む。これはカバー先の話とは別の項目です
  3. 各社のサイトで、未カバー率、カバー取引の状況、平均証拠金率の3項目を探す。毎月の公表なので、確認した時点を自分の記録に残します
  4. 3項目のうち、自分が気にしているリスクがどれに対応するのかを決めておく。相場の急変なら未カバー率、相手方の破綻ならカバー取引の状況、顧客未収金なら平均証拠金率です
  5. レートが他社と違っていたときに、価格生成の仕組みの違いとして扱うのか、自分の設定や回線の問題として扱うのかを切り分ける

この5つのうち、1と2は一度読めば済みます。3から5は、取引を続ける間ずっと戻ってくる確認です。カバー取引は自分の画面に出てきませんが、自分が選んだ相手がどういうリスクを抱えているかは、公表された項目から読み取れます。

参考資料

この記事の更新・確認情報

情報の基準日
編集部による確認日
情報の変動性
中(サービス・制度の情報)
次回確認予定
一次情報の件数
7件(本文末の参考資料に記載)

金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」

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