原油高はなぜ円安材料と呼ばれる?輸入額と通貨建てで確かめる
原油が上がると円安になると言われる理由を、財務省貿易統計の輸入額・数量・通貨別比率と、EIAが公表したホルムズ海峡のデータで確かめます。価格と数量のどちらが効いたのかを切り分ける手順も示します。
「原油が上がると円安になる」という説明の出どころは、為替の値動きそのものではありません。日本が原油の代金を外貨で支払っているという決済の構造です。輸入の請求書は約3分の2が米ドル建てで、支払う金額が増えれば、それだけ円を外貨に換える必要が生まれます。
ただし、ここから「原油高だから円安」と一直線につなげると行き過ぎになります。原油高は物価と金融政策の見通しも動かし、産地の緊張が強まる局面では取引の厚い市場へ資金が移る動きも同時に起きます。向きの違う力が同時にかかるため、合計でどちらへ出るかは公表値から決まりません。
この記事では、財務省貿易統計で原油の請求書の大きさと通貨建てを確かめ、米エネルギー情報局(EIA)の資料で輸送路が止まった2026年の記録をたどり、最後に円安方向に働く力と打ち消す力を分けて並べます。読み終えると、原油のニュースを見たときにどの数字を取りに行けばよいかが決まります。相場の方向は示しません。
原油の請求書は、輸入全体の1割近くを占める
まず規模です。財務省貿易統計の令和7年分(確々報、2026年3月12日公表)では、2025年の輸入総額は約113兆3,300億円でした。このうち鉱物性燃料が約22兆1,450億円で、構成比は19.5%です。その中心が原油及び粗油で、約9兆6,223億円、構成比8.5%を占めます。
| 品目(輸入) | 2025年の金額 | 輸入総額に対する構成比 | 前年比(金額) |
|---|---|---|---|
| 鉱物性燃料(合計) | 約22兆1,450億円 | 19.5% | −13.2% |
| うち原油及び粗油 | 約9兆6,223億円 | 8.5% | −11.5% |
| うち液化天然ガス | 約5兆7,024億円 | 5.0% | −8.5% |
| うち石炭 | 約3兆3,436億円 | 3.0% | −26.2% |
| うち石油製品 | 約2兆5,768億円 | 2.3% | −11.4% |
同じ年の輸出総額は約110兆4,005億円で、貿易収支は約2兆9,296億円の赤字でした。鉱物性燃料の約22兆円という金額は、この収支の振れ方を決める大きさだと分かります。
押さえておきたいのは金額が動く理由です。2025年の原油及び粗油は、数量が前年比+0.3%とほぼ横ばいだったのに、金額は−11.5%でした。買った量は変わらず、金額だけが落ちています。原油の輸入額は、買う量ではなく単価で決まると考えたほうが実態に近いということです。
金額と数量を並べると、動いた理由が分かる
月次でも同じ見方ができます。確認できた直近は令和8年8月分(輸出確報・輸入速報、2026年9月29日公表)で、原油及び粗油の輸入は金額が1兆1,905億円(前年同月比+58.7%)、数量が11,594千KL(+3.6%)でした。
金額を数量で割ると、1キロリットルあたりの円建ての平均単価が出ます。2026年8月は約10万2,700円、2025年の年間では約7万100円で、約1.46倍です。この単価には原油そのものの値段と為替の両方が入っているため、これだけでは「何円ぶんが為替なのか」を分けられません。分けたいときは、契約通貨ベースと円ベースを併記している物価統計へ進みます。
同じ月の全体は、輸出10兆433億円(+19.3%)に対して輸入11兆1,552億円(+28.0%)で、貿易収支は1兆1,119億円の赤字でした。原油だけで赤字の全部を説明できるわけではありませんが、輸入側を押し上げた項目のひとつであることは金額から確認できます。
なお、この8月分の輸入は速報値です。統計は後から書き換わるため、同じ月の数字が確報で変わることがあります。書き換わり方の仕組みは経済指標の改定とは?速報値が後から書き換わる3つの経路で扱いました。
支払いに使われている通貨を確かめる
「輸入が増えると円を売る必要が出る」という説明は、請求書の通貨建てを確かめないと成り立ちません。財務省貿易統計は、輸出入それぞれの通貨別比率を半年ごとに公表しています。全世界を相手にした輸入の内訳は次のとおりです。
| 期間(輸入・全世界) | 米ドル | 円 | ユーロ | 人民元 | タイバーツ | その他 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026年1〜6月 | 67.5% | 24.7% | 3.3% | 2.3% | 0.7% | 1.5% |
| 2025年7〜12月 | 67.4% | 24.8% | 3.6% | 2.0% | 0.7% | 1.5% |
| 2025年1〜6月 | 67.4% | 25.3% | 3.3% | 1.9% | 0.6% | 1.5% |
| 2024年7〜12月 | 68.6% | 24.2% | 3.4% | 1.8% | 0.6% | 1.4% |
言えるのは、輸入代金の3分の2が米ドル建てで、円以外の通貨を用意する必要のある取引が主になっているということです。比率自体は2024年後半から2026年前半まで67〜69%の範囲で、短期間で大きく変わる項目ではありません。
言えないことも2つはっきりさせます。1つ目は、これが全品目を合計した比率で、原油だけの通貨建てではないことです。公表されている時系列データの項目は年月・地域・通貨で、品目別の内訳はありません。2つ目は、請求書の通貨建てがそのまま当日の為替売買になるわけではないことです。為替予約や社内での資金のやり取りを通すため、実際に通貨を交換する時期は請求の時期とずれます。「輸入額が増えた日に同額のドル買いが出る」という読み方はできません。
為替レートが誰のどんな売買で決まるのかという前提は為替レートは誰が決める?価格が動く仕組みにまとめてあります。
輸送路が止まった2026年、公表されていた値
原油の話が地政学の話になるのは、産地と輸送路が偏っているからです。EIAの資料では、ホルムズ海峡を通る石油は2025年上半期に日量2,090万バレルで、世界の石油液体消費の約20%にあたります。通過した原油・コンデンセートのうち89%がアジア向けで、中国・インド・日本・韓国の4か国で74%を占めました。液化天然ガスも2025年上半期に日量114億立方フィートが通り、世界のLNG貿易の20%を超えています。
海峡を迂回する経路もありますが、通航量に比べると限られています。サウジアラビアの東西パイプラインとUAEのアブダビのパイプラインを合わせた能力が約日量470万バレルで、UAEは2027年までに日量150万バレルの追加を計画しているとEIAは記しています。
2026年には、その輸送路が実際に止まりました。EIAは4月7日のプレスリリースでホルムズ海峡の閉鎖を前提に見通しを立て、7月7日のプレスリリースでは6月18日の米国とイランの覚書のあと海峡の通航が増えたと記しています。公表された値を時間順に並べると、次のようになります。
ここから読み取れることは2つです。1つは、月平均で見ても価格が3月の103ドルから6月の85ドルまで動いたこと。もう1つは、見通しそのものが改定されたことです。4月時点で2026年の平均を96ドルとしていた見通しは、7月時点で82ドルになりました。見通しの数字を確定した予定として記事や取引の前提に書き写さないでください。EIAの月次見通し(Short-Term Energy Outlook)は毎月更新され、確認した時点での最新は2026年10月6日公表分です。
円安に働く力と、打ち消す力を分けて書く
ここまでの数字がそろうと、「原油高=円安」とまとめてしまう前に、力の向きを分けて書けるようになります。
円安方向に働くとされる経路は3つです。輸入代金の支払いに外貨が必要になること、貿易収支の赤字が増えること、そしてエネルギー価格の上昇が消費者物価へ遅れて表れることです。3つ目は時間のかかる経路で、物価から金融政策へつながる道すじは物価が上がると通貨は安くなる?インフレと為替の2つの経路で扱っています。
打ち消す側も3つあります。1つ目は、産地の緊張が強まる局面で取引の厚い通貨へ資金が移る動きです。この経路の確認方法は地政学リスクとは?為替が動く3つの経路と公表値での確認手順にまとめました。2つ目は、物価の上振れが政策金利の見通しを変え、内外の金利差が逆向きに動く可能性です。3つ目は、貿易赤字が増えても経常収支はそれだけで決まらないことです。経常収支には第一次所得収支も含まれるため、貿易収支と同じ動きにはなりません(経常収支とは?黒字の中身を4つに分けて公表値で確かめる)。
この6つの力の強さを比べられる公表値はありません。公表値から言えるのは、どの経路が存在し、どれくらいの規模かまでです。「原油が上がったから円安になる」と断定せず、「どの経路の話をしているのか」を先に決めて記録してください。
確認の順序と、公表の頻度
原油の値段そのものは日々動きますが、確認に使う統計には公表の日程があります。先に順序を決めておくと、ニュースが出たときに探し回らずに済みます。
| 確認したいこと | 公表元 | 頻度・タイミング |
|---|---|---|
| 原油の輸入額・数量 | 財務省貿易統計(報道発表) | 月次(速報のあと確報) |
| 円建ての平均単価 | 同じ統計の金額÷数量 | 月次(自分で計算する) |
| 輸入代金の通貨建て | 財務省貿易統計(貿易取引通貨別比率) | 半年ごと |
| 輸入先の国別内訳 | 財務省貿易統計(統計検索の概況品別国別表) | 月次・年次 |
| 輸送路の通航量 | 米エネルギー情報局(World Oil Transit Chokepoints) | 随時更新(直近は2026年3月3日) |
| 原油価格と生産の見通し | 米エネルギー情報局(Short-Term Energy Outlook) | 月次 |
| エネルギーの物価への波及 | 総務省統計局(消費者物価指数) | 月次 |
この記事で確認できなかったことも残します。1つは原油だけの通貨別比率で、公表されている通貨別比率に品目別の内訳がないため載せていません。もう1つは日本の原油輸入に占める中東の割合で、一次情報を確認できなかったため数値を書いていません。国別の内訳を自分で確かめる場合は、財務省貿易統計の統計検索で概況品別国別表を選び、品目に原油及び粗油、相手国に調べたい国を指定します。
為替が大きく動いた局面では、通貨当局の売買と市場の売買を取り違えないことも大切です。切り分け方は為替介入は誰が決める?財務省と日銀の分担と実績の公表時期にまとめてあります。
取り違えやすい4つの点
| よくある読み方 | 実際にはどうか |
|---|---|
| 原油が上がれば必ず円安になる | 円安方向の経路と打ち消す経路が同時に働く。合計の向きを示す公表値はない |
| 輸入額が増えたぶん、その日にドル買いが出る | 請求書の通貨建てと実際の通貨交換の時期はずれる。為替予約などを通るため |
| 輸入額が増えたのは買う量が増えたから | 2025年は数量+0.3%で金額−11.5%。金額は単価で動いている |
| EIAの見通しの価格は決まった予定 | 同じ2026年の平均が4月の96ドルから7月の82ドルへ改定された |
原油と円の関係は、規模と経路までは公表値で確かめられます。確かめられるのはそこまでで、その先の「だから何円動く」は公表値の外側です。境目を引いておけば、原油のニュースが出たときに、使える数字と使えない推測を分けて扱えます。
参考資料
- 財務省貿易統計「令和8年8月分貿易統計(輸出確報;輸入速報(9桁))」(2026年10月20日確認)
- 財務省貿易統計「令和7年分(確々報)」(2026年10月20日確認)
- 財務省貿易統計「報道発表」(2026年10月20日確認)
- 財務省貿易統計「貿易取引通貨別比率」(2026年10月20日確認)
- 財務省貿易統計「貿易取引通貨別比率・輸入の時系列データ(CSV)」(2026年10月20日確認)
- 財務省貿易統計「統計検索」(2026年10月20日確認)
- 米エネルギー情報局「World Oil Transit Chokepoints」(2026年10月20日確認)
- 米エネルギー情報局プレスリリース(2026年4月7日)(2026年10月20日確認)
- 米エネルギー情報局プレスリリース(2026年7月7日)(2026年10月20日確認)
- 米エネルギー情報局「Short-Term Energy Outlook」(2026年10月20日確認)
- 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」(2026年10月20日確認)
この記事の更新・確認情報
- 情報の基準日
- 編集部による確認日
- 情報の変動性
- 高(相場・条件が変わりやすい情報)
- 次回確認予定
- 一次情報の件数
- 11件(本文末の参考資料に記載)
金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」
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