地政学リスクとは?為替が動く3つの経路と公表値での確認手順

地政学リスクは新聞記事の本数から作られる指数として公表されています。為替へ届く経路を資金・実物・金融政策の3つに分け、BISの取引シェアやIMFの準備通貨構成、財務省の対外純資産といった公表値で確かめる手順を整理します。

地政学リスクとは?為替が動く3つの経路と公表値での確認手順(FXプロ)
本記事は情報提供を目的としたもので、投資判断を勧誘するものではありません。FXには元本割れのリスクがあります。

「地政学リスクの高まりで円高」というニュースは見かけますが、その裏をどこで取れるのかは書かれていません。地政学リスクとは、戦争・紛争・テロ・国家間の対立といった出来事が経済活動へ及ぼす不確実性のことです。そしてこの不確実性は、新聞記事の本数をもとにした指数として毎月公表されています。感覚だけで語る対象ではありません。

ただし、指数が上がったからレートがこう動く、という対応関係はありません。為替が動くのは緊張そのものではなく、緊張を受けて市場参加者が資金の置き場所や金利の見通しを変えるからです。動き方は、どの経路を通るかで変わります。

この記事では、地政学リスクの測り方、為替へ届く3つの経路、そして「安全通貨」の説明に使える公表値と使えない通説を分けます。読み終えると、地政学のニュースを見たときにどの公表ページを開けばよいかが分かります。相場の方向は示しません。地政学リスクは材料のひとつであり、単独で結果を決めるものではないためです。

地政学リスクは、数えられる形で公表されています

地政学リスクを数値化した代表的なものが、米連邦準備制度理事会の Dario Caldara・Matteo Iacoviello による地政学リスク指数(Geopolitical Risk、GPR)です。作り方は公開されていて、誰でも同じ手順を追えます。

材料は新聞です。Chicago Tribune、Daily Telegraph、Financial Times、The Globe and Mail、The Guardian、Los Angeles Times、The New York Times、USA Today、The Wall Street Journal、The Washington Post の10紙について、地政学上の不都合な出来事に関係する記事の本数を月ごとに数え、その月の記事総数に対する割合を取ります。絶対の本数ではなく割合にするのは、紙面の量そのものが年代で変わるためです。

英字新聞の紙面が重なり、見出しと本文の文字が並んでいる様子のクローズアップ
地政学リスク指数の材料は、こうした新聞の記事そのものです。決算や株価のような数値データではなく、記事が何本あったかを数えて指数にします。写真はイメージで、指数に使われている10紙を写したものではありません。写真:Brett Jordan(Pexels、Pexels License、2026年9月11日取得)。

数える対象は8つのカテゴリに分かれています。①戦争の脅威、②平和への脅威、③軍備の増強、④核をめぐる脅威、⑤テロの脅威、⑥戦争の開始、⑦戦争の拡大、⑧テロの実行です。このうち①から⑤までは脅威の段階、⑥から⑧までは実際に起きた行為で、前者をまとめたものが GPRT、後者をまとめたものが GPRA として別に公表されます。

米英加の新聞10紙の記事本数の割合を出発点に、脅威にあたる5区分が脅威の指数GPRTへ、実際に起きた行為の3区分が行為の指数GPRAへまとまり、その2つが合わさって月次公表の地政学リスク指数GPRになることを示した分類ツリー図
左から右へ、記事本数の割合、8つのカテゴリ、2つの下位指数、公表される指数の順に組み上がります。区分の名称は原典の8カテゴリを日本語に置き換えたものです。データは毎月10日ごろに更新され、1899年までさかのぼる歴史指数(GPRH)も別に公表されています。

脅威と行為を分けている点が実務では効きます。脅威の段階と、実際に起きた段階では、市場の反応が同じになるとは限らないからです。指数を見るときは、合計値だけでなくどちらの下位指数が動いたのかを確かめてください。新興国18か国分の国別指数も公表されているので、対象国を絞って見ることもできます。

注意点を1つ挙げます。この指数が測っているのは報じられた量であり、出来事の規模や被害の大きさではありません。同じ規模の出来事でも報道量が違えば指数の動きは変わります。指数を為替の予測式に入れる使い方ではなく、「いま何が注目されているか」を確かめる道具として使うのが無理のない読み方です。

為替へ届く経路は3つに分けて考えます

地政学リスクが為替に届く道すじは、性質の異なる3本に分かれます。まとめて「リスクオフ」と呼ぶと、効いてくる速さと確認すべき数字が混ざります。

1つ目は資金の置き場所が変わる経路です。先行きが読めなくなると、資金は売買しやすい市場へ移りやすくなります。ここで効くのは金利差や貿易ではなく、その通貨がどれだけ厚く取引されているかという市場の構造です。動くのは数分から数日の単位です。

2つ目は実物の経済を通る経路です。資源の産地や輸送路に制約がかかれば、輸入に頼る国と輸出する国で影響の向きが逆になります。こちらは貿易や国際収支の統計に表れるまで時間がかかり、数週間から数か月の単位で効いてきます。

3つ目は金融政策を通る経路です。物価や景気の見通しが変われば、中央銀行の判断も変わり、内外の金利差が動きます。この経路の詳しい仕組みは物価が上がると通貨は安くなる?インフレと為替の2つの経路で扱いました。会合ごとの判断なので、反映は会合の日程に沿います。

経路 何をきっかけに動くか 為替で先に動きやすいもの 確認できる公表値 効いてくる速さ
資金の置き場所 先行きが読めなくなること自体 厚く取引されている通貨への売買 BISの通貨別取引シェア、IMFの準備通貨構成 数分〜数日
実物の経済 資源・輸送路・貿易への実際の制約 輸入に頼る国と資源を売る国で逆向き 貿易統計、国際収支統計 数週間〜数か月
金融政策 物価・景気の見通しの変化 内外の金利差 中央銀行の公表文、政策金利 会合ごと(数週間〜数か月)

同じ出来事でも、3つの経路が同じ向きに働くとは限りません。たとえば資源の供給に制約がかかる出来事は、1つ目の経路では資金を厚い市場へ向かわせ、2つ目の経路では資源の輸入国の通貨に不利へ働きます。向きが逆の力が同時にかかるため、合計でどちらへ出るかは事前に決まりません。ニュースを読むときは、まずどの経路の話をしているのかを切り分けてください。

「安全通貨」の説明に使える公表値

「有事には安全通貨が買われる」という説明の根拠として、まず確かめられるのが取引の厚みです。国際決済銀行(BIS)が3年ごとに行う調査では、2025年4月の店頭外国為替取引は1日平均で9兆6,000億ドルとなり、2022年4月から28%増えました。

通貨ごとのシェアは次のとおりです。取引には必ず2つの通貨が関わるため、すべての通貨を足すと約200%になります。

2025年4月の店頭外国為替取引について、米ドル89.2パーセント、ユーロ28.9パーセント、日本円16.8パーセント、英ポンド10.2パーセント、人民元8.5パーセント、スイスフラン6.4パーセント、残り40.0パーセントがその他の通貨という内訳を、合計200パーセントの帯として積み上げた横棒グラフ
帯の全長が200%にあたります。米ドルは取引の片側に89.2%登場し、2022年の88.4%から上がりました。スイスフランは6.4%で、取引高の順位が2022年の8位から6位へ上がっています。「その他の通貨」は200%から表示した6通貨を引いた残りで、当サイトが差し引いて求めた値です。出典:国際決済銀行(2026年9月11日確認)。

もう1つの材料が、各国の通貨当局が実際に外貨準備として持っている通貨の構成です。国際通貨基金(IMF)が四半期ごとに公表しているCOFERでは、2026年1〜3月期の外貨準備が13兆1,000億ドル(2025年10〜12月期の13兆1,500億ドルから減少)で、内訳の判明分は米ドル57.13%、ユーロ20.03%、日本円5.44%、人民元1.99%でした。

通貨 2025年4月の取引シェア 2026年1〜3月期の準備通貨シェア
米ドル(USD) 89.2% 57.13%
ユーロ(EUR) 28.9% 20.03%
日本円(JPY) 16.8% 5.44%
英ポンド(GBP) 10.2% -
人民元(CNY) 8.5% 1.99%
スイスフラン(CHF) 6.4% -

「-」は数値を確認できなかったことを示します。IMFのデータブリーフは英ポンドとスイスフランについて増減の向きだけを記しており、割合を示していません。制度上その通貨が準備に含まれていないという意味ではありません。割合そのものはCOFERのデータ表で確認できます。

この2つの表から言えることと、言えないことをはっきり分けてください。言えるのは「米ドルは取引と準備の両面で最も厚い」「日本円は取引では3番目だが、準備通貨としては米ドル・ユーロに大きく離されている」という厚みの違いです。言えないのは「だから有事に必ず買われる」という結論です。取引が厚いことは値動きが小さいことを意味しませんし、準備通貨のシェアは各国の通貨当局が持っている量で、日々の売買とは別の話です。通貨の区分そのものを確かめたい場合はFXのメジャー通貨とは?代表的な主要通貨を解説を先に読んでください。

もう1つ、取引される場所の偏りも押さえておくと役に立ちます。BISの発表では、英国、米国、シンガポール、香港の上位4拠点で取引高の75%を占め、英国だけで38%でした。地政学の出来事は時間を選ばず起きますが、反応が出る場所は偏っています。取引時間との関係はFXはなぜほぼ24時間取引できる?で扱っています。

日本の対外純資産は、順位を根拠にできません

「日本は世界最大の純債権国だから、有事には円が買われる」という説明をよく見かけます。数字の部分は財務省が公表しています。

項目 令和7年(2025年)末の残高 前年末比
対外純資産残高 561兆7,504億円 +23兆6,495億円(+4.4%)、8年連続で増加
対外資産残高 1,805兆6,342億円 +141兆3,597億円(+8.5%)、17年連続で増加
対外負債残高 1,243兆8,838億円 +117兆7,102億円(+10.5%)、7年連続で増加

公表は2026年5月26日で、年1回です。ここで気をつけたいのは、この概要に国際比較の順位は載っていないことです。財務省の「本邦対外資産負債残高」のページにも、主要国の対外純資産を並べた参考表は置かれていません。つまり「世界最大」「世界第何位」という部分は、この一次情報では確認できません。

確認できないものを根拠に使わない、というのがここでの結論です。順位を持ち出さなくても、日本が対外資産と対外負債の差として561兆円規模の純資産を持っているという事実は公表値から示せます。順位に置き換える必要はありません。

負債側の伸びが資産側より速い(+10.5%に対し+8.5%)点も、表から読み取れる事実です。純資産が増えたのは、伸び率ではなく増加額で資産が上回ったためです。統計そのものが後から書き換わる仕組みについては経済指標の改定とは?速報値が後から書き換わる3つの経路を参照してください。

動いた原因を為替介入と取り違えない

地政学の出来事の前後でレートが大きく動くと、その動きが市場の売買によるものか、通貨当局の介入によるものか区別できないことがあります。これは公表値で切り分けられます。

財務省は「外国為替平衡操作の実施状況」で、介入の総額を1か月ごとに公表しています。さらに実施日・介入額・売買通貨といった詳細は四半期ごとに公表されます。月次の数字が出るまでは、介入があったかどうかを確定できません。日付ごとの内訳はさらに後になります。裏が取れていない段階で「介入が入った」と書かないでください。

レートそのものは日本銀行が毎営業日公表しています。「外国為替市況(日次)」で、ドル/円、ユーロ/ドル、ユーロ/円の9時時点と17時時点のスポット・レートが出ます。ビッドとオファーの中間値で、市場参加者からの情報をもとに作成され、訂正が入る場合があると注記されています。ウェブサイトには直近70営業日分が掲載され、それより前は時系列統計データ検索サイトで取れます。

資金の動きを追いたい場合は、財務省の「対外及び対内証券売買契約等の状況」があります。指定された金融機関の報告を集計したもので、週次と月次で公表されます。国際収支統計が2か月遅れで出るのに対し、こちらは翌週・翌月に出るため、出来事の後で資金の向きを見るときはこちらが先に使えます。

レートが誰の判断で決まっているのかという前提が曖昧なままだと、これらの数字も読み違えます。必要であれば為替レートは誰が決める?価格が動く仕組みを先に確認してください。

確認の順序を先に決めておく

地政学のニュースは突発的に出ます。日程が決まっている経済指標と違い、考える時間が取れないときに判断を求められるのが厄介な点です。だからこそ、確認する順序を先に決めておきます。

一次発表を確認できるか、どの経路で効くのかを選べるか、対応する公表値があるか、持ち高を動かす必要があるかの4つを上から順に判断し、いずれかで「いいえ」になったら右側の対応へ進む判断フロー図
上から順に4つを判断します。どこかで「いいえ」になったら、右側の対応に進んで止まります。最後まで「はい」で通った場合だけ、公表元のURLと確認日を残して判断します。この図は確認の順序を示すもので、相場の方向や売買の可否を示すものではありません。

この順序で効いてくるのが1段目です。報道が先に出て、政府や国際機関の発表が後になることは珍しくありません。発表を確認できない段階では、報じられた数字を引き写さないようにします。引き写すと、自分が確認した値のように扱ってしまいます。

最後の段は取引の話です。持ち高を動かす前に、損切り価格と金額を決めているかを確かめます。決めていないなら動かさない、という選択が残っていることを忘れないでください。

公表元と頻度をまとめておきます。地政学の出来事そのものに日程はありませんが、確認に使う数字の方には日程があります

確認したいこと 公表元 頻度・タイミング
地政学リスクの注目度 Caldara・Iacoviello の地政学リスク指数 月次(毎月10日ごろ更新)
通貨別の取引の厚み 国際決済銀行(三年ごと調査) 3年ごと(直近は2025年4月調査、2025年9月30日に速報公表)
準備通貨の構成 国際通貨基金(COFER) 四半期(2026年1〜3月期は2026年7月1日公表)
日本の対外純資産 財務省(本邦対外資産負債残高) 年次(令和7年末分は2026年5月26日公表)
為替介入の有無 財務省(外国為替平衡操作の実施状況) 総額は月次、日別の内訳は四半期ごと
ドル/円などのレート 日本銀行(外国為替市況・日次) 毎営業日(9時時点・17時時点)
資金の出入り 財務省(対外及び対内証券売買契約等の状況) 週次・月次
金融政策の判断 各中央銀行の公表文 会合ごと

金融政策の会合日程の読み方はFOMCは日本時間の何時?2026年の日程と発表の見方に、金利差そのものの確認手順は日米の10年国債利回りとは?金利差を公式データで確認する手順にまとめてあります。

取り違えやすい5つの点

最後に、この分野で説明が混ざりやすいところを整理します。

よくある読み方 実際にはどうか
有事には必ず円が買われる 資金の置き場所の経路ではそう働くことがあるが、実物の経済の経路では逆に働くことがある。合計の向きは事前に決まらない
地政学リスク指数が上がれば為替はこう動く 指数が測るのは報じられた量。出来事の規模でも、為替の方向を示す数値でもない
取引シェアが大きい通貨は値動きが小さい 別の話。シェアは取引の厚みで、変動の大きさを表す数値ではない
準備通貨のシェアが高い通貨は日々よく買われる 準備通貨のシェアは各国の通貨当局が持っている量。民間の日々の売買とは別の統計
日本は世界最大の純債権国だから円が買われる 財務省の公表資料に順位の記載はない。確認できない部分を根拠にしない

もう1つ、言葉の使い方についてです。「リスクオフ」は、資金が厚い市場へ移りやすい状況をまとめて指す便利な言葉ですが、どの通貨がどちらへ動くかを含んだ言葉ではありません。この言葉で説明を終えると、3つの経路のどれを見ていたのかが後から分からなくなります。経路の名前で記録しておくほうが、あとで振り返れます。

地政学リスクは、指数として測られ、取引の厚みや準備通貨の構成として横に並べられる範囲までは公表値で確かめられます。そこから先の「だからこう動く」は、公表値の外側です。確かめられる範囲と確かめられない範囲の境目を引けるようになれば、突発的なニュースに引きずられにくくなります。

参考資料

この記事の更新・確認情報

情報の基準日
編集部による確認日
情報の変動性
中(サービス・制度の情報)
次回確認予定
一次情報の件数
13件(本文末の参考資料に記載)

金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」

本記事の制度・商品条件に関する記述は、上記の一次情報を基準にしています。一般的な説明と、利用中のFX会社が採用している商品仕様は別のものです。 Lotの定義、証拠金維持率、ロスカット水準、取引時間、スワップの付与方法などは会社ごとに異なる場合があります。 記事内の計算例は仕組みを理解するための仮定であり、現在の為替レートや特定の会社の取引条件を示すものではありません。

制度・取引条件は変更されます。取引前に、利用するFX会社の最新の契約締結前交付書面と取引ルールを確認してください。 編集方針は編集方針、広告の扱いは広告掲載方針で公開しています。