経常収支とは?黒字の中身を4つに分けて公表値で確かめる

経常収支は貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計です。2026年上半期は17兆4,292億円の黒字で、その大半は投資から受け取る所得でした。内訳の読み方と、為替の話に使うときの注意点を財務省と日本銀行の公表値で整理します。

経常収支とは?黒字の中身を4つに分けて公表値で確かめる(FXプロ)
本記事は情報提供を目的としたもので、投資判断を勧誘するものではありません。FXには元本割れのリスクがあります。

経常収支とは、日本に住む人や企業(居住者)と、それ以外の人や企業(非居住者)との間で行われた取引のうち、モノとサービスの取引、投資から生じる所得、対価を伴わない資産の提供を集計した収支です。財務省の用語解説では「貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計」と定義されています。投資そのもののお金の動きは、ここではなく金融収支に記録されます。

直近の数字で言うと、2026年上半期(1〜6月)の経常収支は17兆4,292億円の黒字でした。ただし、この黒字のうち貿易収支は7,421億円しかありません。大部分は第一次所得収支の20兆4,914億円で、これは海外への投資から受け取る利子や配当にあたります。「輸出で稼いだ黒字」という説明は、いまの日本の内訳とは合いません。

この記事では、経常収支の4つの内訳を定義と最新の公表値で分け、単月・上半期・年間で数字がどう変わるのかを並べ、最後に為替の話へ持ち込むときに確かめることを整理します。相場の方向は示しません。経常収支は月に1度しか出ない集計値で、日々のレートを説明する道具ではないためです。

経常収支は3つの収支を足したもの

国際収支統計は、財務大臣が作成する統計です。日本銀行の解説によれば、財務大臣から委任を受けた日本銀行が国際収支マニュアル第6版(IMFが定めた国際基準)に準拠して作成しており、居住者と非居住者の間の取引を、複式計上の原理に基づいて貸方・借方それぞれに同額計上します。ここでいう居住性は国籍ではなく「主たる経済利益の中心」で判定されます。日本にある外資系企業の日本法人は居住者、日本企業の海外子会社は非居住者という扱いです。

経常収支は、この統計の中の3つの収支を足したものです。定義は財務省の用語解説にそのまま書かれています。

項目 財務省の定義 集計される取引の例
貿易・サービス収支 貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す 自動車や半導体の輸出入、輸送料、旅行
第一次所得収支 対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す 海外子会社からの配当、外国債券の利子
第二次所得収支 居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支 無償の資金協力、個人の海外送金
国際収支統計が経常収支・資本移転等収支・金融収支・誤差脱漏に分かれ、そのうち経常収支だけが貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の3つに枝分かれすることを、それぞれの定義とともに示した分類ツリー図
左から右へ、統計全体、統計の中の4区分、経常収支の3つの内訳の順に分かれます。枠内の説明は財務省の用語解説の定義を短くしたもので、金額は入れていません。右下の式は、日本銀行が4区分の関係として示しているものです。

同じ統計の中には、経常収支に入らない項目もあります。資本移転等収支は「対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等の収支状況」を示すもので、金融収支は「直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資及び外貨準備の合計」です。株や債券を買った・売ったという動きは金融収支の側に入り、そこから受け取った利子や配当だけが経常収支に入ります。この線引きを外すと、同じお金を二重に数えることになります。

2026年上半期の内訳を数字で見る

2026年上半期の速報は、2026年8月10日に公表されました。内訳は次のとおりです。

項目 2026年上半期 前年同期比
経常収支 17兆4,292億円の黒字 +3兆1,985億円(黒字幅拡大)
貿易・サービス収支 ▲1兆802億円 +1兆9,619億円(赤字幅縮小)
 貿易収支 7,421億円の黒字 +2兆2,057億円(黒字転化)
 サービス収支 ▲1兆8,223億円 ▲2,438億円(赤字幅拡大)
第一次所得収支 20兆4,914億円の黒字 +704億円(黒字幅拡大)
第二次所得収支 ▲1兆9,821億円 +1兆1,662億円(赤字幅縮小)

▲は赤字(支払が受取を上回った状態)です。貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の4つを足したものが経常収支になります。

2026年上半期の経常収支17兆4292億円について、貿易収支7421億円の黒字、サービス収支1兆8223億円の赤字、第一次所得収支20兆4914億円の黒字、第二次所得収支1兆9821億円の赤字を、ゼロの縦線を挟んで左右に伸ばした横棒グラフ
棒の長さは金額に比例させています。第一次所得収支の棒だけが突出し、貿易収支の棒は同じ目盛りの上ではほとんど見えません。いちばん下の棒が、上の4本を足した経常収支です。目盛りは黒字側にだけ付けています。

貿易収支は輸出59兆1,929億円(前年同期比+12.8%)に対して輸入58兆4,508億円(同+8.4%)で、差し引き7,421億円の黒字でした。前年同期は赤字だったため、黒字への転化です。輸出と輸入はどちらも60兆円近い規模で、その差はその1%程度にすぎません。輸出入の伸び方がわずかに違うだけで、貿易収支の符号は入れ替わります。

港の岸壁に接岸した大型の貨物船を陸側から写した白黒写真
貿易収支が集計しているのは、こうした船で運び出されるモノと運び込まれるモノの差額です。写真は説明のためのイメージで、統計の対象となった特定の貨物や港を示すものではありません。写真:Sven Wittrock(Pexels、Pexels License、2026年9月15日取得)。

サービス収支は1兆8,223億円の赤字で、赤字幅は前年同期より2,438億円広がりました。サービス収支は、輸送や旅行のようにモノの受け渡しを伴わない取引をまとめた項目です。どの項目が赤字を広げたのかは、上半期の概要には書かれていません。内訳まで見たい場合は、財務省の時系列データから取ることになります。この記事では、確認できなかったものを推測で埋めることはしません。

黒字の大きさを決めているのは所得収支

経常収支の黒字17兆4,292億円に対し、第一次所得収支は20兆4,914億円です。所得収支の黒字が、サービス収支と第二次所得収支の赤字(合わせて3兆8,044億円)を吸収したうえで残った分が、経常収支の黒字になっています。この項目が縮めば、貿易収支がどれだけ増えても経常収支は簡単に赤字へ傾きます。

第一次所得収支の中身は、海外に持っている資産から生まれる利子と配当です。ここで注意したいのが「再投資収益」という項目です。日本銀行のFAQでは、再投資収益を、直接投資を受けている子会社等の内部留保を投資家(親会社)に帰属するものとして計上する取引だと説明しています。持分に応じた内部留保をいったん投資家へ配分したうえで、ただちに再投資されたものとみなして計上するという扱いです。

つまり、第一次所得収支に計上されている金額の中には、実際に海外から日本へ送金されていないものが含まれます。同額が金融収支の直接投資の側にも記録されるため、統計としてはつじつまが合っています。ただし、この部分は日本国内へ資金が戻ったことを意味しません。経常収支の黒字を、そのまま「その金額だけ円が買われた」と読み替えられないのは、この構造があるためです。

再投資収益には、月次統計での扱いにも特徴があります。日本銀行のFAQによれば、月次では企業の決算データに基づき、12か月分に均等配分して計上されます。決算は年に1回か2回しか確定しないため、毎月の数字を均して載せているということです。月ごとの振れを読むときは、この項目が均されている前提で見てください。

単月では赤字になる月もある

年単位で黒字が続いていても、月単位では赤字になることがあります。直近ではこうなりました。

項目 2026年6月 2026年7月
経常収支 ▲923億円 2兆9,889億円の黒字
貿易収支 ▲1,352億円 ▲3,999億円
サービス収支 ▲2,285億円 ▲5,129億円
第一次所得収支 3,801億円の黒字 4兆2,896億円の黒字
第二次所得収支 ▲1,086億円 ▲3,879億円
公表日 2026年8月10日 2026年9月8日

6月は経常収支が923億円の赤字で、前年同月からは1兆3,740億円悪化し、赤字へ転じました。赤字になったのは貿易収支が悪化したからではありません。第一次所得収支の黒字が3,801億円にとどまり、前年同月より1兆648億円縮んだことが主因です。7月はその第一次所得収支が4兆2,896億円へ戻り、経常収支も2兆9,889億円の黒字になりました。

配当の受け取りは時期が偏るため、単月の経常収支は大きく振れます。月次の1本の数字だけを取り出して「構造が変わった」と結論づけないでください。年単位では、2025年(令和7年)の経常収支は31兆8,799億円の黒字で、前年より3兆1,931億円拡大しています。このときも第一次所得収支は41兆5,903億円の黒字で、貿易収支は8,487億円の赤字でした。

黒字の反対側には対外投資が並ぶ

経常収支だけを見ていると、お金が一方向に流れ込んでいるように見えます。しかし国際収支統計は複式計上なので、必ず反対側の記録があります。日本銀行のFAQは、その関係を「経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0」という式で示しています。式を組み替えると、経常収支と資本移転等収支、誤差脱漏を足したものが金融収支と一致する、という関係になります。

2026年上半期の金融収支は18兆4,893億円で、内訳は次のとおりでした。

項目 2026年上半期
直接投資 11兆6,460億円
証券投資 ▲18兆7,543億円
金融派生商品 5兆4,489億円
その他投資 30兆457億円
外貨準備 ▲9兆8,969億円
金融収支 18兆4,893億円

経常収支の黒字17兆4,292億円と、金融収支の18兆4,893億円が近い規模で並んでいます。経常収支で受け取った分は、どこかの形で対外的な資産や負債の増減として記録されるということです。なお、この統計には誤差脱漏という項目もあります。日本銀行のFAQでは、膨大な取引を各種の報告書から集計する過程で貸方・借方の合計が一致しないために生じる、統計上の誤差を調整するための項目だと説明されています。

日本が海外にどれだけ資産を積み上げているかという残高の話は、地政学リスクとは?為替が動く3つの経路と公表値での確認手順で扱った対外純資産の統計が受け持ちます。経常収支は毎月のフロー、対外純資産は年に1度公表されるストックです。単位も公表の頻度も違う数字なので、混ぜて論じないでください。

速報値は後から書き換わる

国際収支状況の数字は、1回公表されて終わりではありません。財務省は速報値について「速報値は第2次速報値(確報値)公表までの暫定値です」としています。月次の速報が出たあと、四半期単位で第2次速報が出て、さらに後から地域別の内訳が公表されます。

2026年9月8日の7月分速報から2027年2月8日の12月分速報までの公表予定日を縦に並べ、各回に公表される月次速報、四半期の第2次速報、地域別内訳を書き込んだタイムライン図
上から下へ公表日が進みます。丸が塗られている9月8日は公表済みで、この記事の7月分の数字はそこで出たものです。右の枠は、同じ月の数字が速報・第2次速報・地域別の順に出てくることと、暦年の上半期と年度上期が別の期間であることを補足しています。

公表予定は財務省のページに出ています。公表時刻はいずれも午前8時50分です。

公表日 公表される内容
2026年10月8日 8月中(速報)/4〜6月中(第2次速報)
2026年11月10日 9月中(速報)/2026年度上期中(速報)/4〜6月中(地域別)
2026年12月8日 10月中(速報)
2027年1月12日 11月中(速報)/7〜9月中(第2次速報)
2027年2月8日 12月中(速報)/2026年中(速報)/7〜9月中(地域別)

表の中に「上半期」と「年度上期」の両方が出てくる点に注意してください。この記事で使った17兆4,292億円は、2026年8月10日に公表された暦年の上半期、つまり1〜6月の値です。11月10日に公表される年度上期は4〜9月を指します。期間が3か月ずれているため、両者を並べて比較すると意味のない差が出ます。

統計の値が後から書き換わる仕組みそのものは、経済指標の改定とは?速報値が後から書き換わる3つの経路にまとめてあります。国際収支だけの話ではありません。

為替の話に使うときに確かめる3つのこと

経常収支は為替の解説でよく引き合いに出されます。ただし、この数字から言えることには範囲があります。公表資料で確かめられる範囲を超えないために、次の3つを確認してください。

「黒字=その金額の円買い」と読み替えない

国際収支統計が記録しているのは、居住者と非居住者の間の取引です。財務省が公表している国際収支状況の項目に、決済通貨別の内訳はありません。どの取引が円で決済され、どれだけが実際に円へ換えられたのかは、この統計からは分かりません。前に見たとおり、第一次所得収支には送金を伴わない再投資収益も含まれます。黒字の金額をそのまま円買いの量として扱うと、確かめられないことを確かめたように書くことになります。

為替レートが何によって決まるのかという前提は、為替レートは誰が決める?価格が動く仕組みで整理しています。円高・円安という言葉の向きに迷う場合は、円高と円安の違いを先に読んでください。

期間をそろえてから比べる

経常収支には、月次、暦年の上半期、年度上期、暦年の年間と、性格の違う集計期間があります。さらに同じ期間でも、速報と第2次速報で値が変わります。比較する2つの数字が同じ期間・同じ改定段階のものかどうかを、公表日で確かめてください。6月の▲923億円と7月の2兆9,889億円のように、隣り合う月でも3兆円規模で動きます。単月の値を年間の傾向として語らないことです。

他の材料と並べて見る

経常収支は月に1度しか更新されません。日々動くレートを説明する材料としては更新が遅く、単独で方向を決めるものでもありません。金利差や物価のように、もっと短い間隔で確認できる材料と組み合わせて見てください。長期金利の差の確認手順は日米の10年国債利回りとは?金利差を公式データで確認する手順に、物価と為替の関係は物価が上がると通貨は安くなる?インフレと為替の2つの経路にあります。

自分で確認するときの手順

最後に、公表値へ自分でたどり着く順序をまとめます。まとめサイトの数字を引き写すと、どの期間の、何回目の改定なのかが分からなくなります。

  1. 財務省の「国際収支状況」を開き、公表予定で直近の公表日を確かめる
  2. 該当する月・期の「国際収支状況(速報)の概要」から、経常収支と4つの内訳を取る
  3. 用語の意味が曖昧なときは、同じサイトの「用語の解説」で定義を確認する
  4. 集計の考え方や恒等式、再投資収益のような特殊な計上は、日本銀行の「国際収支関連統計のFAQ」で確認する
  5. 取った数字には、期間・改定段階(速報か第2次速報か)・公表日・確認日を残す

この5つを踏めば、同じ数字を誰でも再現できます。再現できない数字は、記事にも判断にも使わないでください。

参考資料

この記事の更新・確認情報

情報の基準日
編集部による確認日
情報の変動性
高(相場・条件が変わりやすい情報)
次回確認予定
一次情報の件数
8件(本文末の参考資料に記載)

金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」

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