FXの損切り幅をATRで決める|真の値幅の平均から幅と数量を出す
ATR(真の値幅の平均)で損切り幅を決める手順を、各社の公式な計算式から確かめます。3つの候補から真の値幅を選ぶ仕組み、期間と平均方法で値がそろわない理由、幅から数量を逆算する計算、ATRでは止められない場面を整理します。
ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)を使った損切り幅の決め方は、その通貨ペアが最近どのくらい動いているかに合わせて、幅を伸び縮みさせるやり方です。「いつも20pips」のような固定の幅と違い、荒い相場では自動的に広く、静かな相場では狭くなります。
ただし、ATRは幅の正解を教える指標ではありません。ATRが示すのは「直近の1本あたりの値幅がどのくらいか」という測定値だけで、その何倍を損切りにするかは、ATRの計算からは出てきません。今回確認した各社の説明ページにも、倍率の基準は書かれていませんでした。倍率を決めるのは利用者側の判断で、決めたあとは数量まで一緒に動きます。
この記事では、ATRが何を計算しているのかを各社の公式な計算式で確かめ、同じ「ATR(14)」でも値がそろうとは限らない理由を見ます。そのうえで、ATRから決めた幅を注文数量へ逆算する計算と、ATRで決めた幅でも損失がそこで止まるとは限らない場面を扱います。損切りの位置を取引の根拠から決める考え方そのものは初心者の損切り設定にまとめてあります。
ATRは「真の値幅」を平均した値
楽天証券のMARKET SPEED FXのオンラインヘルプは、ATRを「相場の変動率」を解析する指標とし、相場の変動が大きい傾向か小さい傾向かを分析する際に有効だと説明しています。同社は真の値幅(True Range)を、「当日高値-当日安値」「当日高値-前日終値」「当日安値-前日終値」の3つの値のうち最大値を採用するものとし、その真の値幅の移動平均線がATRになるとしています(2026年10月28日確認)。
セントラル短資FXのTradingViewガイドも同じ3つを挙げていますが、こちらは「現在足の高値 - 現在足の安値」「| 現在足の高値 - 前足の終値 |」「| 現在足の安値 - 前足の終値 |」と、後ろの2つを絶対値で示しています(2026年10月28日確認)。差をそのまま引くと、足が前の足の終値より下に離れて始まった場合に「当日高値-前日終値」が負の数になります。絶対値で書いてあるほうが、上下どちらに離れたときも同じ式で計算できる形です。
3つの候補を実際に計算すると、次のようになります。
図から分かるのは、真の値幅が1本の足の高安差より小さくなることはないという点です。前の足の終値から離れて始まった分は、高安差には現れませんが、保有している人から見れば実際に動いた値幅です。週明けの最初の足や、取引の少ない時間帯から流動性の戻る時間帯へ移るところでは、この差が大きくなります。足の種類と時間足の関係はローソク足の時間足で扱っています。
ATRは、この真の値幅を一定の本数ぶん平均した値です。1本だけの値幅ではなく平均なので、直前の1本が極端に大きくても、ATR全体はその一部しか動きません。逆に言えば、相場が静かな状態から急に荒くなった直後は、ATRが追いつかず実際より小さい値を示します。
同じ「ATR(14)」でも、値がそろうとは限らない
ATRを損切り幅の根拠にするなら、自分が見ている数字がどう計算されたものかを押さえておく必要があります。確認した各社の説明には、次の違いがありました。
| 確かめる項目 | 公式の説明で確認できたこと | 自分の口座での確かめ方 |
|---|---|---|
| 真の値幅の決め方 | 楽天証券:3つの値のうち最大値を採用/セントラル短資FX:後ろの2つを絶対値で表記 | ヘルプの計算式に候補が3つ並んでいるか |
| 平均の取り方 | 楽天証券:真の値幅の移動平均線がATR/OANDA証券:ATR=TRのn日指数平滑移動平均 | 単純平均か指数平滑かがヘルプに書かれているか |
| 既定の期間 | 楽天証券:14/セントラル短資FX:デフォルトは「14」 | 設定画面の期間欄の初期値 |
| 使い方の注意 | 楽天証券:決まった売買ポイントやトレンドがなく、この指標だけでの売買判断はできない | 幅の目安として使い、売買の判断は別に持つ |
表は各社の説明ページの記載で、2026年10月28日に確認したものです。
いちばん効いてくるのは2行目です。同じ真の値幅を使っても、単純な移動平均と指数平滑移動平均では結果が違います。指数平滑は直近の値に重みを置くため、相場が急に荒れた直後はこちらのほうが大きい値を示し、落ち着いた直後はこちらのほうが早く下がります。期間を14にそろえても、ツールが違えば表示される数字がずれるのはこのためです。移動平均の種類による違いは移動平均線の見方にまとめてあります。
時間足でも値は変わります。ATRは「1本あたりの値幅」を平均したものなので、1時間足のATRと日足のATRは、同じ期間設定でも桁が違います。損切り幅の根拠にするなら、注文の判断に使っている時間足のATRを見る必要があります。別の時間足のATRを持ち込むと、幅だけが実際の値動きと合わなくなります。テクニカル指標全般の位置づけはテクニカル分析とはで説明しています。
「ATRの何倍」に、公表された基準は見つからなかった
OANDA証券の解説ページは、ATRを「真の値幅の平均」と訳したうえで、現在の相場の変動率が大きいのか小さいのか、その度合いや傾向を把握できるとし、利益確定目標や損切りの幅を決めるアイデアとして扱っています。ただし同ページで示されているのは、損切り幅を1としたときに利益確定幅を1.5とするようなリスクリワードの比であって、ATRの何倍を損切り幅にするかの基準ではありません(2026年10月28日確認)。
今回確認した4社の説明ページには、推奨する倍率の記載はありませんでした。倍率は自分で決める値です。決めた倍率が数量にどう効くかを、仮定の計算で並べます。
| ATRの倍率 | 損切り幅 | 1,000通貨での損失 | 許容2,000円での数量 | 実際の損失額 |
|---|---|---|---|---|
| 1.0倍 | 40pips | 400円 | 5,000通貨 | 2,000円 |
| 1.5倍 | 60pips | 600円 | 3,000通貨 | 1,800円 |
| 2.0倍 | 80pips | 800円 | 2,000通貨 | 1,600円 |
| 3.0倍 | 120pips | 1,200円 | 1,000通貨 | 1,200円 |
米ドル/円のATRを40pips、1回に失ってよい金額を2,000円、注文できる最小の数量を1,000通貨とした仮定の計算例です。米ドル/円では1pipsが0.01円なので、1,000通貨の1pipsは10円になります。スプレッド、約定のずれ、スワップポイントは含めていません。
表から読み取れることは2つあります。1つは、倍率を上げても1回の損失額は増えないことです。幅を広げたぶん数量を減らすので、損切りで終わったときの金額はむしろ許容額より小さくなります。もう1つは、その代わりに数量が大きく減ることです。1.0倍と3.0倍では数量が5分の1になり、同じ値幅だけ伸びたときに受け取れる利益も5分の1になります。倍率の選択は「損失の大きさ」ではなく「どれだけの押し戻しを想定内と扱うか」と「1回の取引の大きさ」の選択です。
幅と利益の比をそろえて考える方法はFXのリスクリワードとは、値動きに合わせて損切りを動かす別の手段はトレール注文とはで扱っています。倍率を変えたら、前の倍率でためた記録は比較に使えません。損切りに届く割合そのものが変わるためです。新しい倍率での件数がたまるまで、良し悪しの判断は保留にします。
幅が決まったら、数量を逆算する
ATRから幅を決めたあとの手順は、固定の幅で損切りを置くときと同じです。許容する損失額を、幅を金額に直した値で割ります。
ここで効いてくるのが、口座ごとの最小取引単位です。SBI FXトレードは取引ルールのページで、取引単位を「1注文あたりの最小数量1通貨単位」と記載しています(2026年10月28日確認)。1通貨刻みなら3,333通貨をそのまま注文でき、損切りになったときの損失は1,999.8円で、許容額の2,000円にほぼ届きます。1,000通貨刻みの口座なら3,000通貨へ切り下げることになり、損失は1,800円になります。刻みが粗いほど、実際に取るリスクは計算値から下にずれます。
もう1つ確認しておくのが必要証拠金です。数量が決まれば必要証拠金も決まるため、幅を狭くして数量を増やした結果、口座の余力に対して建玉が大きくなりすぎることがあります。許容損失額から出した数量は、証拠金の上限ではありません。計算のしかたは必要証拠金とは、数量の決め方の基本は初取引の数量の決め方、pipsを金額に直す手順は1pipsはいくらとpipsとはにあります。
ATRで決めた幅でも、その金額で止まるとは限らない
ATRは過去の値幅の平均です。平均から外れる動きが起きたときに、計算どおりの損失で終わる保証はありません。
金融先物取引業協会は「学ぼう!FX」で、為替相場が予想と反対の方向に動いた場合には評価損益がマイナスの方向に動き、大きな損失が発生する可能性があるとしたうえで、相場急変時には損失拡大を抑制するためのロスカット機能が十分に発動せず、場合によっては預託した証拠金以上の損失が発生することがあると注意を促しています。システム面についても、相場急変時にトラブルが発生した場合には、市場の実勢価格とかけ離れたレートで約定されるなど、顧客に不利益が生じる可能性があるとしています(2026年10月28日確認)。
つまり、ATRで決めた60pipsという幅は注文を出す位置の根拠であって、損失の上限ではありません。強制的に決済される仕組みとの関係はロスカットとは、約定のずれを記録に残す方法はスキャルピングのスリッページ対策で扱っています。
スプレッドの扱いにも注意が要ります。ATRは、チャートに表示されている側の価格(BidとAskのどちらか一方)の高値・安値・終値から計算されます。一方、損切りの逆指値がどちらの価格で判定されるかは、売買の向きと会社の取引ルールで決まります。両者が違う側の価格なら、ATRで出した幅をそのまま入力したときの実際の余裕は、スプレッドのぶんだけ狭くなります。2つの価格の関係はFXのBidとAskとは、スプレッドが広がりやすい場面はスプレッドが広がるときにまとめてあります。判定にどちらの価格を使うかは、利用している会社の取引ルールで確認してください。
記録に残す欄
ATRで幅を決めるやり方が自分の取引に合っているかどうかは、記録からしか判定できません。ATRは設定で値が変わるため、設定そのものを記録しておかないと、あとから比較できなくなります。
| 記録する欄 | 書く内容 | 使い道 |
|---|---|---|
| ATRの設定 | 期間、時間足、使ったツール名 | 設定を変えた時期で記録を区切るため |
| 注文時のATR | 新規注文を出した時点の値 | 幅の根拠をあとから再現するため |
| 倍率と損切り幅 | 「1.5倍/60pips」のように両方 | 倍率ごとに結果を分けて数えるため |
| 損切りの指定価格と約定価格 | 2つの価格と、その差 | 幅のうちどれだけがずれで消えたかを測るため |
| 損切りに届かずに戻った回の最大逆行 | 保有中にいちばん不利だった値幅 | 幅が広すぎないかを確かめるため |
いちばん下の欄が、倍率を見直すときの材料になります。損切りに届かずに決済した回の最大逆行が、いつも幅の半分にも届いていないなら、倍率が過大だった可能性があります。逆に、損切りになった直後に想定した方向へ戻る回が続くなら、幅が足りていないか、ATRが追いついていない場面で注文していることになります。どちらも数件では判断できないため、件数がたまるまでは保留と書いておきます。記録の作り方と見直しの手順はトレード日記の振り返り方にあります。
よくある質問
ATRの期間は14のままでよいですか
今回確認した2社は、いずれも既定値として14を示していました。ただしこれは各社のツールの初期値であって、最適な期間として公表されているものではありません。期間を短くすると直近の値動きに敏感になり、長くすると平均がなだらかになります。どちらが合うかは取引する時間足と保有時間によって変わるため、変えるなら1つだけ変えて、新しい設定での記録をためてから比べてください。
ATRの倍率は何倍が一般的ですか
今回確認した4社の説明ページには、推奨する倍率の記載はありませんでした。したがって、この記事では「一般的な倍率」を示していません。倍率を決めるときに見るのは、自分の記録にある「損切りに届かずに戻った回の最大逆行」です。その値が倍率の下限の目安になります。倍率を上げるなら数量を減らすことになるので、幅だけを広げて数量をそのままにしないでください。
ATRが小さいときは数量を増やしてよいですか
計算上は数量が増えます。許容する損失額が同じで幅が狭くなれば、割り算の結果は大きくなるためです。ただし数量が増えるということは、同じ値幅が動いたときの金額が大きくなるということでもあります。ATRが小さい状態は、相場が静かな状態が続いているという測定結果にすぎず、そのあと荒れないことを示すものではありません。増やした数量で必要証拠金が足りるか、口座の余力に対して建玉が大きくなりすぎていないかを、注文の前に確認してください。
ATRで幅を決めれば、損失はその金額までで収まりますか
収まるとは限りません。金融先物取引業協会は、相場急変時にはロスカット機能が十分に発動せず、預託した証拠金以上の損失が発生することがあると説明しています。ATRで決めた幅は注文を置く位置の根拠であって、損失の上限を保証するものではありません。週をまたぐ保有や、重要な発表をまたぐ保有では、計算した幅を超えて価格が離れて始まることがあります。
参考資料
- 楽天証券 MARKET SPEED FX オンラインヘルプ「ATR」(2026年10月28日確認)
- セントラル短資FX「インジケーターの紹介⑩|ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)」(2026年10月28日確認)
- OANDA証券「ATRを活用した利益確定目標や損切りの幅を決めるトレードアイデア」(2026年10月28日確認)
- SBI FXトレード「取引ルール」(2026年10月28日確認)
- 金融先物取引業協会「学ぼう!FX」FX取引に係る主なリスク(2026年10月28日確認)
この記事の更新・確認情報
- 情報の基準日
- 編集部による確認日
- 情報の変動性
- 中(サービス・制度の情報)
- 次回確認予定
- 一次情報の件数
- 5件(本文末の参考資料に記載)
金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」
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