米雇用統計は2つの調査でできている|雇用者数と失業率がずれる理由
米雇用統計の非農業部門雇用者数と失業率は、別々の調査から出ています。2026年9月分は事業所調査が+29,000人、家計調査の就業者が+406千人。2つの調査の違いと誤差の幅、公式ページでの確認手順をまとめました。
米雇用統計で読まれる2つの数字は、別々の調査から出ています。非農業部門雇用者数は事業所に尋ねる事業所調査、失業率は世帯に尋ねる家計調査です。同じ資料に並んでいても、集計の対象も標本も別で、片方を使って片方を検算することはできません。
2026年9月分(2026年10月2日公表)がちょうど分かりやすい例です。事業所調査の非農業部門雇用者数は+29,000人でしたが、家計調査の就業者数は+406千人と出ています。10倍以上の差ですが、どちらかが間違っているわけではありません。数えているものが違います。
この記事では、2つの調査の役割分担、同じ月に数字がずれる理由、そして米労働統計局が自分で公表している誤差の幅を確認します。読み終えると、手元の数字がどちらの調査から来たのかを分けられ、1か月の増減が誤差と区別できる大きさなのかを判断できるようになります。相場がどちらへ動くかは扱いません。発表というイベントそのものへの向き合い方はFX初心者は経済指標発表前に取引していい?にまとめてあります。
1つの資料に、調査が2つ入っている
米労働統計局が毎月公表する資料の名前は「Employment Situation」です。この1本の中に、別々に行われた2つの標本調査の結果が入っています。
技術注記によると、家計調査は「a sample survey of about 60,000 eligible households conducted by the U.S. Census Bureau」で、国勢調査局が約6万世帯を対象に行います。事業所調査は「the CES program surveys about 119,000 businesses and government agencies, representing approximately 622,000 individual worksites」で、約11.9万の企業・政府機関、約62.2万の事業拠点が対象です。
役割も分けて書かれています。家計調査は「information on the labor force, employment, and unemployment」、事業所調査は「information on employment, hours, and earnings of employees on nonfarm payrolls」です。労働力と失業の情報は家計調査から、雇用者数と労働時間・賃金は事業所調査から出るという分担です。
発表を読むときは、まず数字の出どころを確認してください。どちらの調査から出たかで、増減の意味も誤差の幅も変わります。
| 数字 | 出どころの調査 | 2026年9月分の公表値 |
|---|---|---|
| 非農業部門雇用者数の前月差 | 事業所調査 | +29,000人 |
| 平均時給 | 事業所調査 | 37.81ドル(前月比+0.1%) |
| 失業率 | 家計調査 | 4.2% |
| 労働参加率 | 家計調査 | 61.8% |
| 就業者数 | 家計調査 | 163,152千人 |
| 失業者数 | 家計調査 | 7,109千人 |
2026年9月分は、同じ月に+29,000人と+406千人
事業所調査の結果は「Total nonfarm payroll employment changed little in September (+29,000), following an average monthly gain of 45,000 over the prior 12 months」と書かれています。直近12か月の平均が月45,000人の増加で、9月はそれを下回ったという整理です。
いっぽう家計調査のTable Aを見ると、就業者数は8月の162,746千人から9月の163,152千人へ、前月差の欄に+406(千人)と載っています。失業者数は7,031千人から7,109千人へ+78(千人)で、失業率は4.1%から4.2%になりました。
| 項目(いずれも家計調査・季節調整済み) | 2026年8月 | 2026年9月 | 前月差 |
|---|---|---|---|
| 労働力人口 | 169,777千人 | 170,262千人 | +485千人(編集部の計算) |
| 就業者数 | 162,746千人 | 163,152千人 | +406千人(公表値) |
| 失業者数 | 7,031千人 | 7,109千人 | +78千人(公表値) |
| 失業率 | 4.1% | 4.2% | +0.1ポイント(編集部の計算) |
就業者が40万人以上増えたのに失業者も増え、失業率は上がっています。家計調査の中だけでも、就業者と失業者が同時に増える形は起こります。労働力人口そのものが増えたからです。就業者が増えれば失業率が下がる、という関係ではありません。
小さな増減は、誤差と見分けられない
米労働統計局は、標本調査である以上の誤差を資料の中で説明しています。技術注記の書き方は「There is about a 90-percent chance, or level of confidence, that an estimate based on a sample will differ by no more than 1.6 standard errors from the true population value because of sampling error」です。
そのうえで、月々の増減についての幅が具体的に示されています。事業所調査は「the confidence interval for the monthly change in total nonfarm employment from the establishment survey is on the order of plus or minus 122,000」です。前月差の90%信頼区間が±122,000人ということです。
家計調査については「At an unemployment rate of around 6.0 percent, the 90-percent confidence interval for the monthly change in unemployment as measured by the household survey is about +/- 425,000, and for the monthly change in the unemployment rate it is about +/- 0.3 percentage point」と書かれています。
+29,000人という値は、この±122,000人の中にすっかり収まります。だからこそ公表文の表現も「増加した」ではなくchanged littleです。発表元が「ほとんど変わっていない」と書いている月を、「29,000人増えた」と読み替えると、資料よりも強い主張になってしまいます。
注意点が1つあります。±425,000人は失業率が6.0%程度のときの例として示された幅で、2026年9月の4.2%にそのまま当てはまる数字ではありません。確認できるのは「失業者数の前月差には、人数で数十万人の単位の幅がある」という程度までです。幅の実数を自分で計算するには標準誤差の資料が別に必要で、今回は確認していません。
数える対象が違うから、向きもずれる
2つの調査は、単位そのものが違います。家計調査は人を数え、事業所調査は雇用(給与の支払い)を数えます。技術注記では、家計調査について「The household survey has no duplication of individuals」と書かれており、1人は1回だけ数えられます。いっぽう事業所調査では、複数の職場で働いて複数の給与支払名簿に載る人は、名簿に現れるたびに別々に数えられると説明されています。1人が2つの職場で働けば2件です。
対象の範囲も違います。家計調査には農業の就業者、自営業者、無給の家族従業者、家事サービスの従事者が含まれ、事業所調査には含まれません。無給で休んでいる人を、家計調査は就業者に数えますが、事業所調査は数えません。年齢については「The household survey is limited to workers 16 years of age and older. The establishment survey is not limited by age」と書かれています。
| 数える対象 | 家計調査 | 事業所調査 |
|---|---|---|
| 単位 | 人(1人は1回だけ) | 雇用(職場ごとに1件) |
| 農業の就業者 | 含む | 含まない |
| 自営業者・無給の家族従業者 | 含む | 含まない |
| 家事サービスの従事者 | 含む | 含まない |
| 無給で休んでいる人 | 就業者に数える | 数えない |
| 対象の年齢 | 16歳以上 | 制限なし |
米労働統計局は、この違いを埋めて比べるための系列も作っています。1994年1月以降の「adjusted household survey employment research series」で、家計調査から農業・非法人の自営業者・無給の家族従業者・家事サービスの従事者・無給で休んでいる人を除き、非農業の賃金雇用者の兼業分を足して、雇用の数え方へ寄せたものです。ただし同じページは、副業の情報が十分でないことや独立請負人の分類の問題があるため、この調整は不完全(imperfect)だとも書いています。
つまり、2つの数字の差を自分で引き算して「本当はこちらが正しい」と結論づけることはできません。差を縮める調整は発表元が用意していて、それでも完全ではないと説明されています。
失業率は「探している人」の割合
家計調査の分類は3つです。米労働統計局の説明では、就業者は「People are considered employed if they did any work at all for pay or profit during the survey reference week」で、調査週に給料や利益のための仕事を少しでもした人です。
失業者は「People are classified as unemployed if they do not have a job, have actively looked for work in the prior 4 weeks, and are currently available for work」と定義されています。仕事がないこと、直近4週間に積極的に探したこと、いま働ける状態にあることの3つを満たす必要があります。仕事がなく探していない人は、同じ説明の中で非労働力(not in the labor force)に分類されます。
「積極的に探した」の線引きが、日常の感覚と少しずれます。米労働統計局は、新聞やインターネットに載っている求人を「merely reading about job openings that are posted in newspapers or on the Internet」と読んだだけでは積極的な求職活動に当たらないと説明しています。応募や問い合わせのような具体的な行動が必要です。
調査が対象にする期間も決まっています。技術注記では、家計調査は「the reference period is generally the calendar week that contains the 12th day of the month」で12日を含む1週間、事業所調査は「the pay period including the 12th, which may or may not correspond directly to the calendar week」で12日を含む給与計算期間です。月全体の平均ではありません。
失業率に入らない人も、同じ資料に出ている
失業率は「探していて、すぐ働ける人」の割合なので、仕事に就いていない人の全体像とは別です。公表文には、その外側にいる人の数も載っています。
| 項目(2026年9月) | 公表値 | 公表文の記述 |
|---|---|---|
| 長期失業者(27週以上) | 1.9百万人 | 全失業者の27.1% |
| 経済的な理由によるパートタイム | 4.5百万人 | changed little |
| 就業を希望している非労働力 | 5.8百万人 | changed little |
| うち求職意欲喪失者 | 414,000人 | changed little over the month |
求職意欲喪失者は「a subset of the marginally attached who believed that no jobs were available for them」と説明されています。自分に合う仕事がないと考えて探すのをやめた人です。この人たちは失業者ではなく非労働力に入るため、失業率の分母からも外れます。失業率が下がったときに、就業者が増えたのか、探すのをやめた人が増えたのかは、失業率だけでは区別できません。
先月の数字は、毎月書き換わる
事業所調査には、毎回の発表で直近2か月を計算し直す仕組みがあります。技術注記の書き方は「The prior 2 months are routinely revised to incorporate additional sample reports and recalculated seasonal adjustment factors」です。標本の回答が増え、季節調整の係数が再計算されるためです。
2026年9月分の発表では、前の2か月がどちらも下方へ直されました。「The change in total nonfarm payroll employment for July was revised down by 31,000, from +21,000 to -10,000, and the change for August was revised down by 29,000, from +162,000 to +133,000」という記述です。
| 対象月 | 前回の値 | 2026年9月分の発表での値 | 差 |
|---|---|---|---|
| 2026年7月 | +21,000人 | −10,000人 | −31,000人 |
| 2026年8月 | +162,000人 | +133,000人 | −29,000人 |
7月は増加から減少へ符号が変わりました。発表直後の数字を長く覚えておくほど、現在の公表値とずれていきます。書き換わる経路は月次の改定だけではなく、基準の入れ替えや季節調整のかけ直しもあります。それぞれ時期と範囲が違うので、経済指標の改定とは?速報値が後から書き換わる3つの経路で分けて整理しています。
発表は日本時間の21時30分か22時30分
発表時刻は米国東部時間の午前8時30分で固定されています。米労働統計局の公表予定表では、2026年10月分が2026年11月6日、11月分が12月4日、12月分が2027年1月8日で、いずれも「08:30 AM」と載っています。
日本時間へ直すときに1か所だけ注意が必要です。米国の夏時間は、NISTの説明では「ends at 2:00 a.m. on the first Sunday of November」で、2026年は11月1日に終わります。したがって11月6日の発表は標準時間での午前8時30分で、日本時間では当日の22時30分にあたります。夏時間の期間なら21時30分です。
| 対象月 | 公表日(東部時間 午前8時30分) | 日本時間(編集部の換算) |
|---|---|---|
| 2026年9月 | 2026年10月2日 | 同日 21時30分(夏時間) |
| 2026年10月 | 2026年11月6日 | 同日 22時30分(標準時間) |
| 2026年11月 | 2026年12月4日 | 同日 22時30分(標準時間) |
| 2026年12月 | 2027年1月8日 | 同日 22時30分(標準時間) |
日本時間の列は編集部の換算で、米労働統計局のページに日本時間の記載はありません。同じ換算の考え方はFOMCの結果は日本時間の何時に出る?公表資料と日程の確認手順でも使っています。発表の前後に短期売買を考える場合の確認手順は経済指標発表時のスキャルピング|見送るための確認手順にあります。
日本の完全失業率と、同じ物差しではない
日本にも世帯を対象にした調査があります。総務省統計局の説明では、労働力調査は全国から無作為に選んだ約4万世帯、15歳以上の約10万人を対象にしています。米国の家計調査は約6万世帯・16歳以上で、標本の規模も対象年齢も違います。
ですから、日本の完全失業率と米国の失業率を並べて「どちらが高い・低い」と水準で比べる読み方はできません。それぞれの発表元が自国の定義で作った別の統計です。日本側の調査週の定義と最新の公表値は、今回この記事では確認していません。
よくある読み間違い
第一に、2つの調査の数字を引き算することです。就業者の+406千人と雇用者数の+29,000人は、単位も対象も違います。差分を「隠れた何か」として説明する根拠はありません。
第二に、1か月の増減をそのまま良い・悪いと読むことです。±122,000人の幅がある数字で、29,000人の増加を「持ち直した」と読むのは、資料の精度を超えた読み方です。発表元の表現(changed little、continued to trend up など)は、この幅をふまえた言い方になっています。
第三に、失業率の低下を雇用の増加と同じ意味にとることです。失業率は失業者を労働力人口で割った値なので、探すのをやめた人が非労働力へ移っても下がります。分子と分母のどちらが動いたのかは、Table Aの人数を見ないと分かりません。
公式ページでの確認手順
- 「Employment Situation Summary」を開き、Establishment Survey Data と Household Survey Data の節を分けて読む
- 冒頭近くにある前2か月の改定の記述を確認し、手元に覚えている数字と突き合わせる
- 「Table A. Household data, seasonally adjusted」で水準と前月差を見る(単位は千人)
- 「Employment Situation Technical Note」で、信頼区間の幅と調査の対象期間を確認する
- 次の発表日は「Schedule of Releases for the Employment Situation」で確認し、東部時間のまま読む
この順に見ると、「どちらの調査の数字か」「誤差の幅の内側か」「前の月の値が変わっていないか」の3点を外さずに読めます。
確認できなかったことと、次に見直す日
今回確認できなかった項目を残します。第一に、2026年9月の失業率4.2%に対応する標準誤差の実数は確認していません。技術注記にあるのは失業率6.0%程度のときの例示です。第二に、日本の労働力調査の調査週の定義と最新の完全失業率は確認していません。第三に、2026年9月分以外の月の家計調査の水準は、8月分の比較に使った値のほかは確認していません。第四に、調整済みの家計調査系列(adjusted household survey employment research series)の実数は取得していません。第五に、発表が相場に与える影響の大きさや方向は、当サイトでは扱いません。いずれも推測で埋めず、空欄のまま残しています。
この記事の数値は2026年10月19日に確認しました。雇用統計は毎月公表され、直近2か月の値は毎回書き換わります。当サイトは30日を目安に見直しており、次回の確認予定は2026年11月18日です。日付の離れた記述を見つけたら、この記事より米労働統計局の公表ページの表示を優先してください。
出典と確認日の一覧
- 米労働統計局「Employment Situation Summary」(2026年9月分、2026年10月2日公表)非農業部門雇用者数+29,000人、失業率4.2%、労働参加率61.8%、就業率59.2%、平均時給37.81ドル(前月比+0.1%)、長期失業者1.9百万人・全失業者の27.1%、経済的な理由によるパートタイム4.5百万人、就業を希望する非労働力5.8百万人、求職意欲喪失者414,000人、7月+21,000人→−10,000人・8月+162,000人→+133,000人の改定(2026年10月19日確認)
- 米労働統計局「Employment Situation Technical Note」家計調査は約6万世帯・国勢調査局が実施、事業所調査は約11.9万事業所・約62.2万拠点、前月差の90%信頼区間は事業所調査±122,000人、家計調査の失業者数±425,000人・失業率±0.3ポイント(失業率6.0%程度の場合)、調査の対象期間は12日を含む1週間と12日を含む給与計算期間、直近2か月の改定(2026年10月19日確認)
- 米労働統計局「Employment Situation」Table A. Household data, seasonally adjusted 労働力人口169,777千人→170,262千人、就業者162,746千人→163,152千人(前月差+406千人)、失業者7,031千人→7,109千人(前月差+78千人)、失業率4.1%→4.2%(2026年10月19日確認)
- 米労働統計局「How the Government Measures Unemployment」就業者・失業者・非労働力の定義、求人を読んだだけは積極的な求職活動に当たらない旨、約6万世帯・約11万人(2026年10月19日確認)
- 米労働統計局「Comparing employment from the BLS household and payroll surveys」1994年1月以降の調整済み系列、調整の内容と「imperfect」という記述(2026年10月19日確認)
- 米労働統計局「Schedule of Releases for the Employment Situation」2026年10月分は2026年11月6日、11月分は12月4日、12月分は2027年1月8日、いずれも午前8時30分(2026年10月19日確認)
- NIST「Daylight Saving Time (DST)」夏時間は11月の第1日曜の午前2時に終わる旨(2026年10月19日確認)
- 総務省統計局「Frequently Asked Questions concerning Labour Force Survey」約4万世帯・15歳以上の約10万人を対象とする旨(2026年10月19日確認)
この記事の更新・確認情報
- 情報の基準日
- 編集部による確認日
- 情報の変動性
- 高(相場・条件が変わりやすい情報)
- 次回確認予定
- 一次情報の件数
- 8件(本文末の参考資料に記載)
金融庁は、外国為替証拠金取引について相場変動、金利変動、流動性、信用、システムなど複数のリスクを挙げています。 ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みですが、急変時に証拠金を上回る損失が生じる可能性まで消すものではありません。 「ロスカットがあるから安全」と考えず、取引数量と損切りを先に決めてください。 出典:金融庁「いわゆる外国為替証拠金取引について」
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